聖獣カフェでも開きます?2
次は鶏の手羽元。
聖獣達はなんの種類のお肉が好きなのかとヴァルに聞いてみたのだが、分からないから全部作ってよ!と随分大雑把な答えが返ってきた。
まぁお肉好きな聖獣が多そうだから、仕方ないかと納得。
味付けも少しずつ変えようかなということで、さっぱり系のものにしようと思う。
こちらもまずはフライパンで表面を焼く。
軽く焼き目がついたら砂糖と醤油、酒と酢を混ぜたものを入れる。
照りを出すため、みりんは後入れに。
こちらも三十分くらい煮込めば完成。
「さて、次はサラダか」
ペガサス、つまり馬が好きなのはたぶん草よね。
ということは葉物が多い方が良いのだろう。
ルッコラやビートなどのいわゆるベビーリーフと、サニーレタスや水菜などの葉物を食べやすい大きさにして混ぜる。
「あとはお花も食べるって言ってたから、色合いと見た目も考えて……」
ミニトマトを半分にカットして散らし、ハムをくるくると巻いてお花の形にする。
「うん、かわいい! 普通の馬はハム食べないだろうけど、聖獣はなんでも食べるって話だし、食べてくれるかな?」
それとも他の肉食っぽい聖獣達が食べるかしら。
ふふ、なんだか楽しくなってきた。
「ヴァルみたいに、みんな大きく元気になってくれると良いな。そりゃお父さん、お母さんは心配よね」
我が子を思う気持ちは、きっと聖獣も一緒なのだろう。
半信半疑な聖獣もいるかもしれないけど、一縷の望みをかけて来てくれるのだ、応えてあげたい。
パンをひと口サイズに千切りながら、ヴァルと過ごした村での生活を思い出す。
貧乏だったし、食べ物も満足に食べられなかったけれど。
「このパン粥が、私とヴァルを繋いでくれたんだもんね」
ミルクを注いだ鍋の中に、パンを入れていく。
せっかくだから、チーズ入りのものも作ろう。
ふふ、ヴァルはどっちが好きかしら。
「……みんなが、元気になってくれますように」
そんな願いを込めて、それぞれの料理を仕上げた。
「うーん! すっごく美味しいよ、ヴィオラ! チーズ入りのパン粥、僕好きだなぁ」
「わうわうわうっ!」
「あうあうっ!」
まず食べ始めたヴァルと兄弟達が、口のまわりに食べくずをつけて満足そうに言ってくれた。
ヘスティアも器用に前足で骨のところを押さえてお肉を食べている。
もぐもぐと咀嚼するその表情は、とても満足げに見える。
「ヘスティアも美味いと言っている。それにほら、見てみろ」
通訳してくれた陛下が指さす方を見ると、それまで様子を見ているだけだった聖獣達が少しずつ料理のところへ集まっていた。
まずは成獣がひと口、それから促されるようにして幼獣が口をつけていく。
食べても害がないと分かってからは、はぐはぐと勢いが良くなっている。
良かった、食べてくれた。
まずはそのことにほっとして息をつく。
「なあヴィオラ、足りないんじゃねえ?」
「あ、そうだね。じゃあおかわりの分も出そうか。でも食べているところに近付いちゃダメよ。少し遠くに置いて、ここに置くねって声をかけるだけにしないと」
「分かりました。私もお手伝いさせて頂きます」
目の良いリックは料理がずいぶん減っているのに気付いてくれ、カレンさんと一緒におかわりの皿を並べるのも手伝ってくれた。
食事をしている時とは、無防備な瞬間だ。
私達のことを完全に信用しているわけじゃないだろうし、そこはちゃんと配慮しないとね。
「おかわり!? ね、ヴィオラ、僕達の分もある!?」
「まあ、食いしん坊ね。もちろんあるから、ゆっくり食べてね」
尻尾を振って目を輝かせるヴァルと兄弟達に苦笑しながらおかわりをお皿に乗せていく。
するとヘスティアもちらちらと私の方を見てきたので、おかわりを乗せてあげると、同じく尻尾を振って喜んでくれた。
「ヘスティア……。おまえも〝餌付け〟、されちまったな」
「美味しいものの前では人間も聖獣も同じですよ。……というかヴィオラ殿、この料理、私達の分はないのですか?」
ガイさんとフィルさんの期待のこもった眼差しに、私は口を引き攣らせる。
「ええと……。すみません、今日は聖獣達の分しか……」
そう答えながら、ここに来る前に味見に少しだけねと料理人達におすそ分けしたことを思い出す。
そのことは知られてはいけない気がする。
「おや、残念ですね……」
「おい、本気で残念がってる顔じゃねぇか。おまえ、ヴィオラのメシ食うようになってから、グルメになったんじゃねぇか?」
しょんぼりと肩を落とすフィルさんに、ガイさんが苦笑を零す。
「ええ、その通りです。ヴィオラ殿には責任を取って頂かなくてはいけませんね?」
「ぶっ! おい兄貴! そんな冗談止めろよな!?」
良い顔をするフィルさんに、弟であるリックが慌てふためく。
「こ、今度また同じものを作りますから……」
わいわいと盛り上がる姿を眺めながら、どこまで冗談なのか分からないフィルさんの発言に、適当に答えておくことにした。
「……おまえ達、遊んでいないでちゃんと聖獣達の様子も見ておけよ」
「リック殿、ヴィオラ様の護衛も兼ねているのですから、もう少し落ち着かれた方が……」
片や冷静な陛下とカレンさんは、ため息をつきながら三人を窘める。
良かった、保護者役のふたりのおかげでなんとか収まった。
赤ちゃん聖獣達もおかわりの分までしっかり食べてくれているし、喜んでくれているみたいで良かった。
ほっと息をついた、その時。
「ヴィ、ヴィオラ!」
突然声を上げたヴァルに、弾けるように振り返ると、なんとヴァルの身体が光を放っていた。
「ヴァル!? これは……」
「覚醒、だな」
「ええ、そのようですね」
焦る私とは裏腹に、冷静な陛下とフィルさんがそう呟いた。




