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【書籍化・改題しました】転生幼女は王宮専属の定食屋さん!〜転生チートで腹ペコなモフモフ赤ちゃん達に愛情ご飯を作りますっ〜  作者: 沙夜
本編

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料理と人間関係って、意外と似てるよね1

「おい、聞いたか?」


「聞いた聞いた! あの〝悪魔王陛下〟が幼女を拾ったって?」


ヴィオラが王城で暮らさないかと誘われた日の夕方、早くも城内にはそのニュースが駆け巡っていた。


「拾ったというか、どうやら聖獣様の恩人らしいぜ?」


「そうなのか? 俺は料理人として勧誘されたって聞いたぞ?」


幼女、聖獣の恩人、料理人という、なかなか結び付かないワードがそれぞれから飛び出し、使用人達は首を捻った。


「まあ……でも陛下のあの凶悪顔を目の前にして断り切れずに頷いちまったとか、そんな感じだろうな」


「ああ、そうかもな。しかも配属されたのが、()()騎士団専用食堂だっていうじゃないか。となるとどういう経緯であれ、時間の問題か」


己の主人の威圧感のある顔と騎士団専用食堂のことを思い浮かべ、使用人達は苦笑する。


「かわいそうにな、拾われたのがあの陛下じゃな」


拾われたという少女に同情の言葉を零し、使用人達は自分の仕事へと戻るのだった。






* * *


王城でお世話になることが決まった次の日。


「あくまおうへいか」


「ああ、そうだ。だからあんまり馴れ馴れしくしちゃダメだぞ?」


分かったか?と小さい妹を嗜めるように私に言い聞かせてきたのは、フィルさんに案内係として付けてもらった騎士見習いのリック。


十七歳、なんとフィルさんの弟だ。


そう言われてみれば、ちょっとクセのある金髪こそ違う色をしているが、瞳は同じ紺碧をしている。


ちなみに陛下とフィルさんは二十一歳で同い年、ガイさんはその少し上の二十三歳。


三人とも前世の私と同年代なんだと思うと、なんだか不思議な気分。


そしてリックは双子の弟達と同い年。


だからだろうか、一生懸命なところやこうしてちょっと背伸びしてお兄さんぶるところが弟達のようで、かわいいと思ってしまう。


ついうっかりかわいいですねと口を滑らせてしまい、先程『ちびのくせに生意気だな!』と出会って早々怒られてしまった。


「陛下、怒るとめちゃくちゃ恐えぇからな! あの眼力で無言の圧力をかけられたら騎士のほとんどは恐れおののいて黙るくらいだぞ」


リックは王城内を案内しながら、この国のことや王城内の人のことを色々と教えてくれている。


「……恐い、ですか? 〝悪魔王陛下〟だなんて大袈裟ではありません?」


「はあ!? ヴィオラ、変わってるな。あの凶悪顔を見て恐がらなかった人間なんて、数えるくらいしかいないって話だぞ?」


そうは言うが、はっきり言って前世のお父さんの顔の方が段違いに恐い。


私服で外を歩けば、その道の人だと思われて遠巻きにされるのなんて日常だった。


それに比べて陛下は……たしかに綺麗な顔をしているし不愛想な感じはするけれど、私はあまり恐いとは思わなかった。


そもそもなぜ〝悪魔王陛下〟だなんてあだ名されているかというと、それはここ数年の陛下が即位するまでの活躍が原因だという。


このシュナーベル王国は、数年前まで隣国――――つい昨日まで私がいたリンデマン王国と戦争をしていた。


当時、シュナーベル王国は今の陛下とは違う、いわゆる愚王がその地位に就いていた。


数年小競り合いを続けていたが、それが悪化し、戦争へと発展。


自身も戦場へと赴き剣を振るったが、自国が劣勢になるやいなや、前王は尻込みして騎士達を見殺しにして逃げようとした。


そんな前王を拘束し、代わりに先頭に立ったのが現国王、シルヴェスター・フォン・ライオネル陛下。


その烈火の如き怒りで前王を黙らせ、破竹の勢いで敵を掃討、その恐ろしいほどの強さと残忍な戦略で戦争を勝利に導いた。


そして、臣下を見捨てる者などもはや王などではないと、前王を追放した。


……追放、とされているが、実際は拷問にかけて殺したのではとまことしやかに囁かれているらしい。


その残酷さとその美しくも恐ろしい姿から、〝悪魔王陛下〟と呼ばれるようになったのだとか。


「う~ん。でも私が実際に陛下になにかされたわけでも、恐ろしい姿を見たわけでもありませんから」


見た目で判断したり噂を真に受けたりせず、自分の目で見て耳で聞いたことを信じるようにとは、前世のお母さんの言葉。


あのお父さんと結婚したお母さんだからこその、説得力のある台詞だ。


「……おまえ、本当にちびのくせに生意気」


ぐっと一瞬言葉に詰まったリックが気まずそうにそう言う。


「まあ私は陛下に雇われた身ですから。ヴァルとともにここで暮らすことを許して頂いて、お仕事までもらえたんですもの。感謝しかありません」


にっこりと微笑んでそう答える。


そう、陛下は私をとりあえず王城の騎士団専用食堂で働くように指示した。


なぜ騎士団専用食堂なのかといえば、元々騎士団に所属していた陛下は、今でもこちらを利用することが多いからだそうだ。


リックに案内係の白羽の矢が立ったのも、騎士団がある棟で働くことになったから。


そうして、そこで基本的に陛下の食事を作るようにと言われた。


とはいえまだ子どもなので、三食は大変だろうとの配慮を頂き、昼食と夕食の二食のみ作ることになった。


それ以外の時間は自由。


行動範囲は限られているが、ヴァルとも会えるし特に不便なことはないだろう。


「でもおまえ、そんなに料理が得意なのか? それなら折角だし、俺の分もなにか作ってくれよ」


「そうですねぇ……。料理人さん達からの許可を頂けたら、ぜひ作らせて下さい」


リックの申し出はとても嬉しいものだが、それはどうかしらと苦笑いを返す。


厨房とは料理人の戦場だ。


そうそうぽっと出の人間、しかもこんなちんちくりんに場所を譲るほど甘い世界ではない。


前世で修行中だったお兄ちゃんも、最初は結構苦労したみたいだし。


陛下の分は命令だから作らせてもらえるだろうけれど、その他の騎士の分まで手を出して良いかは分からない。


「とにかく、まずは少しでも場所を貸してやっても良いって思ってもらえるように頑張らないと」


陛下の命令とはいえ、こちらは場所と用具、それに材料を借りる立場。


そのことを忘れずに謙虚な気持ちでいなければ。


「お、やる気だなちび助」


「……さっきから気になっていたんですけど、ちびとかちび助って呼ぶのは止めて下さい。ちゃんと名前でお願いします」


「ははっ、そりゃ悪かった。頑張れよ、ヴィオラ」


ぽんぽんと少し雑にリックが私の頭を撫でる。


ちっとも悪びれない表情のリックだが、応援してくれている気持ちは伝わってきたので、大人しく撫でられておこう。


それに、こうして応援してくれる人がいるのはとてもありがたいことだもの。


「……早くリックに私の料理を食べてもらえる日が来るように、これから頑張りますね」


「おう。……まあ、あの料理人達の相手は大変かもしれねぇけどな」


そんなリックの呟きに気付くことはなく、私は改めて気を引き締めて厨房へと向かうのだった。

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