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040_美濃併呑と伊勢侵攻

 


 永禄十年夏。

 信長様が美濃へ侵攻した。

 殿も信長様に呼ばれて美濃へ出征していているので、俺も美濃へきている。

 滝川様と信辰は留守番をしている。

 今回は勝ち戦のはずだから、俺が留守番したかったよ。


【ミッション】

『西美濃四人衆の内応! : 西美濃四人衆を織田家に引き込もう!』

『報酬 : プレゼントをランダムで三個』


 これはほぼクリアしている。問題ない。


【ミッション】

『稲葉山城攻略! : 稲葉山城攻めに参加しよう!』

『報酬 : プレゼントをランダムで二個』


 俺も西美濃にはいくので、参加するだけならクリアだ。


【ミッション】

『斎藤龍興の逃亡! : 斎藤龍興が稲葉山城を捨てるので、逃亡を見逃してやろう!』

『報酬 : プレゼントをランダムで二個』


 三つ目のミッションは理解不能だ。なぜわざわざ龍興を見逃すんだ?


「兄者、稲葉一鉄(いなばいってつ)安藤守就(あんどうもりなり)氏家直元(うじいえなおもと)不破光治ふわみつはるです」

 殿が西美濃四人衆を信長様に紹介すると、信長様は軽く頷き「大儀!」とだけ発した。

 四人はもっと言葉をかけてもらえると思っていたのか、拍子抜けした顔をしている。

 俺なんかは大分慣れたけど、初めての人は信長様の言葉足らずのところにちょっとびっくりするかもしれないな。


 その日の夜。俺は殿、半兵衛、西美濃四人衆と酒を酌み交わした。

 半兵衛の説得で西美濃四人衆を始めとした多くの家を引き抜けたが、その半兵衛は俺の家臣で、俺は殿の家臣なので、西美濃四人衆の引き抜きの功は殿に帰するところがあるらしい。

 本当は藤吉郎あたりが活躍するんだけど、俺のところに半兵衛がきてしまったので、藤吉郎は西美濃ではあまり活躍を見せていない。

 しかし、藤吉郎はただでは転ばななくて、中濃から東濃の各地で活躍をしているようだ。

 美濃といっても広いので、西濃(西美濃のこと)、中濃、東濃の三つの地域で区別される場合が多い。

 ただ、西濃は西美濃ということもあるけど、中濃は中美濃とは言わない。不思議である。

 ちなみに、西濃は大垣市がある地域で、中濃は稲葉山城(岐阜市)がある地域、東濃は夏の気温が高いことで有名な多治見市がある地域になる。


「しかし、我らが織田家の世話になる時がこようとは思ってもおりませんでした」

 出家して良通から一鉄に改名した稲葉様がしみじみといった感じで話す。

「然様ですな……」

 半兵衛の舅である安藤様がうんうんと頷く。

「我らは心新たにして、織田家にお仕えしようではないか」

 氏家様は前向きな発言だ。

「そうですな、織田家のために身命を賭して働きましょうぞ」

 先の三人は西美濃三人衆といわれる人物たちだが、この不破様を含めて西美濃四人衆ということもある。

 他にも斎藤六宿老と言われる六家もあるが、その中には安藤家と氏家家は含まれるが、稲葉家と不破家は含まれない。


「これからは兄者のために、皆の力を貸してくれ」

「「「「ははぁー」」」」

 殿は上機嫌で四人と俺たちに酒を勧めていく。

 だが、返杯があるので一番に潰れるのは殿であった。相変わらず酒に弱い人だ。


「佐倉様」

「何でしょうか?」

 稲葉様が俺に向き直って、真面目な顔で話しかけてきた。

「織田家に仕えておいてなんですが、龍興様を助けることはできないでしょうか?」

 かつての主君が無残に死んでいくのが忍びないのかな?

「大人しく稲葉山城を明け渡し、出家などすればなんとかなるでしょうが……」

 最後まで抵抗した場合、信長様の性格を考えると、助命は難しい。

「皆さまから説得はできませんか?」

「「「「………」」」」

 四人は揃って口を噤む。難しいと考えているのだろう。


「殿、斎藤龍興は信長様に降ることはないでしょう」

 龍興を呼び捨てにしたことでも分かるように、半兵衛は龍興をかつての主君として認めていない。

 斎藤家に対しては忠誠心のある半兵衛だけど、龍興はとうの昔に見限っているのだ。

「なぜそう思うのだ、半兵衛?」

「あの者は一色姓を自称しております」

 一色姓を自称というが、義龍の時代に将軍足利義輝公から一色姓を名乗ることを許されている。

 龍興の血脈がどうであれ、一色家は武家の中でも上位の家柄なのだ。


「一色である自分自身が格下の織田家に頭を下げるなど考えてもいないのです」

 この時代、家柄はとても重要だ。

 特に清和源氏の流れをくむ家は特別であり、その家柄にプライドを持っている者が多い。

 源氏は色々な流れのある家柄で、源頼朝は清和源氏が河内の国に根拠地を置いた河内源氏であり、現在の将軍家である足利家も河内源氏である。


 逆に信長様や殿は家柄よりも能力を重視する傾向が強い。特に信長様は完全に能力主義だ。

 だから俺のような出自の分からない奴でも、藤吉郎のような農民でも能力さえあれば重用する。

 織田家も元は斯波家の家臣だったし、清和源氏や河内源氏どころか源氏でもない平氏の流れをくむ家なのだ。

 しかも、尾張守護代の織田大和守家や織田伊勢守家ではなく、その下の織田弾正忠家なので、家柄は高くない。

 だからこそ信長様は家柄に拘らないのかもしれない。

 拘ってしまうと、自分が尾張一国を支配する正当性がなくなってしまうしね。

 そういえば、俺が討ち取った今川義元も河内源氏だったかな。

 河内源氏といってもそれなりに多いよね。


「龍興が家柄を重んじ、信長様に降ることができないのであれば、信長様は容赦しないでしょう」

 俺の言葉に四人が俯く。

 俺が生まれ育った現代では家柄を重んじる考えもあるが、家柄がどんなによくても能力がなければ凋落していくしかなかった。

 それは信長様の考えにマッチするものであり、信長様はこの時代から四百年先をいっているのかもしれない。

 そう考えると、信長様の考えについていける藤吉郎のような人は新しいタイプの人種で、この四人は古いタイプの人種なのかもしれない。

 新しいことが絶対にいいとは限らないけど、信長様の考えについていけない人は出世どころかクビになるかもしれない。


「明日には稲葉山城攻めが始まります。説得する時間もありません」

 四人には申し訳ないが、諦めてもらおう。

 ただ、ミッションのこともあるので、龍興は逃げ出すと思われるから、そこまで悲観することはないと思う。

 まぁ、ミッションのことを知っている俺だから、こんなことが言えるんだけど。


 

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