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035_今孔明

 


 竹中半兵衛重治を家臣にしたことを殿に報告する。そして……。

「話は分かった。兄者には俺から話を通しておこう」

 こういう時の殿は話の分かる上司である。とても助かる。

「そこで、殿に話があります」

「言ってみろ」

「半兵衛」

「はっ!」

 俺の後ろに控えていた半兵衛に話すように振る。

 ちなみに、俺の家臣になったので、俺は半兵衛と呼んでいるし、半兵衛は俺のことを殿と呼んでいる。


「長島攻めは簡単にはいきません」

「そんなことは分かっている」

 殿はつまらなそうに答えた。

「まずは調略を行うがよろしいかと存じあげます」

「本願寺狂いがこちらに靡くのか?」

 殿がちょっと乗ってきて、前かがみになった。


「靡かなくても構いません」

「どういうことだ?」

 さらに前かがみになる。

「我らと繋がっていると思わせればいいのです。それで一向宗は疑心暗鬼となりましょう」

「そんなに上手くいくか?」

「上手くいかせるのが、我らの腕の見せどころでございます」

「ふむ……どれほどの時間がかかるか?」

「半年ほどいただきたく」

 殿は目を閉じて少し考える。


「分かった。やってみろ」

「ありがとうございます」

 殿とて長島城を攻めるのは簡単ではないと思っているだろう。

 だからこそ、搦め手が必要だと理解している。

 やっぱり信長様の兄弟なだけはある。頭の回転が速く柔軟だ。


 殿の許可を得たので、早速鯏党を動かした。

「半兵衛、俺は何をすればいいのだ?」

「何も」

 何もないのはいいことだが、なんだか寂しい。殿の性格がうつったかな?

 それはそうと、半兵衛の顔色が悪い。

「顔色が悪いが、大丈夫か?」

 元々色白なので顔色は悪く見えるけど、今日は色白というより蒼白だ。

「このていど、大したことはございません」

「無理をするなよ」

「ありがとうございます」

 なんだか気になったので、立ち去る半兵衛の背中をスマホでとらえ画面をタップする。


『竹中半兵衛重治 : 美濃国出身の知将。生来の虚弱体質であり、このままでは若くして天命尽きるだろう』


「………」

 たしか、三十歳代で亡くなるんだよな?

 この時代の平均寿命が五十代くらいだから、早いのは間違いない。

 せっかく俺の家臣になってくれたのに、半兵衛に死なれるのは悲しい……。


 俺は鯏浦城の中に与えている半兵衛の屋敷に向かった。

 半兵衛が俺の家臣になってくれたことで、奥方もその屋敷で過ごしている。

「まぁ、お殿様!?」

「やぁ、いねさん。不便はないかな?」

 半兵衛の妻はいねという女性で、人当たりのよい女性だ。

 出自は西美濃三人衆の一人である安藤守就(あんどうもりなり)の娘らしい。

 まぁ、そのおかげで信長様が西美濃に攻め込む時は、安藤様が合力してくれると約束してくれたので、とてもありがたい。

 それに半兵衛の弟が菩提山城(竹中氏の本拠地)を治めているので、こちらも協力を約束してもらっている。

 なぜか俺が西美濃の攻略に関係しているのだ。


「はい、お殿様のご配慮のおかげで健やかに過ごせております」

「それはよかった。ところで半兵衛はいるかな?」

「はい、先ほど戻りました。こちらへ」

 いねについて半兵衛の部屋に向かうと半兵衛が咳き込んでいるのが見えた。

「旦那様!」

「半兵衛!」

 いねと俺は半兵衛に駆け寄る。


「大事ない。殿もそんなに心配されることではございません」

「苦しいのであれば、横になれ」

「主君の前で横になれるわけがございませぬ」

「なんだ、俺のせいか? まったく、お前は」

「それよりもお話があるのでは?」

 半兵衛はいねに目配せをして下がらせる。


 俺は半兵衛の上座にどかっと腰を下ろすと、懐から試験管を取り出した。

「それは……?」

「何も聞かず、これを飲め!」

 試験管を半兵衛に渡す。

「はて、何やらあやしい感じの液体ですが?」

「お前が俺を主君と仰ぐのであれば、今、ここで飲め!」

「……分かりました」

 半兵衛は躊躇なく試験管の中にある液体をあおった。

 先ほどまで蒼白だった半兵衛の顔の血色がよくなっていく。

 今のはとてもよい薬だ。虚弱体質に効くか分からなかったけど、少しは効果があったようだ。


「………」

 俺は飲んだことがないから分からないけど、とてもよい薬は美味いのかな?

「次はこれを飲め」

 今度は錠剤だ。

 その錠剤を受け取ると見ることもなく、半兵衛は飲み込んだ。

 すると、半兵衛の体がビクッと跳ねた。

「こ、これは……」

 今のは筋肉増強剤だ。虚弱体質なら筋肉をつけてしまえばいいと、素人ながらに思ったんだ。


「殿……説明をお願いします」

 数分で落ち着いた半兵衛は俺を半眼で見てくる。

「俺の持っていた秘薬だ。それ以外は聞くな」

「秘薬……それはとても貴重なものではないのですか?」

「どんな貴重な薬でもお前の命より貴重だとは思わない」

「っ!?」

「さて、俺は帰るから、今日は大人しく寝ろ。いいな?」

「……はい。分かりました」

 俺は席を立ち、半兵衛の屋敷を後にした。

 その際、いねには半兵衛がなんと言おうと、今日は大人しく寝かせておくように言っておいた。


 

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