029_服部党
清次と伊右衛門に家臣ができた。
清次の家臣は山田新祐という二十二歳の男性だ。
容姿は特にこれといった特徴もなく、言い方は悪いがそこら辺にいる感じの人物だ。
伊右衛門の方は五藤吉兵衛というまだ十歳の少年だ。
この吉兵衛の父は山内家に仕えていて、岩倉城が落城のおりに伊右衛門たちを連れて逃げた五藤浄基だ。
その浄基が今年亡くなってしまったことから、伊右衛門が十歳の吉兵衛を家臣にしたいとどうしても言うので許した。
さすがに十歳の子供を戦場に連れていくわけにはいかないので、しばらくは戦いがあっても留守番させることが条件だけど。
こんな感じだけど、ミッション『部下たちの家臣を増やそう!』はクリア判定になった。
もしかしたら、伊右衛門に吉兵衛を登用させるのが目的だったのではと思ってしまう。
【ランクC】
・鉄砲×10
・丈夫な刀
・丈夫な具足
【ランクD】
・火薬(1箱)×10
・鉛玉(100発)×10
報酬はめずらしく、ランクCが三つもきた。
そうか、鉄砲も古木江城防衛時には役に立つよな。そう考えると鉄砲や火薬、鉛玉はもっとほしい。
▽▽▽
永禄七年になると、信長様は犬山城攻めを行うために小牧山城に入った。
殿は弥富服部党の目と鼻の先に城を造るために缶詰めだ。
犬山にいきたいと駄々をこねたが、いってもいいけど、俺を罷免してからいけって言ったら黙った。
一度言ってみたかったんだよ。気持ちよかったぜ。
城の建設は時間との戦いだ。
古木江城とは違って、完全に服部党が敵視しているので、ちょっかいを出されるからだ。
だから、まずは囲いを造った。
木の柵を古木江で造らせて、それを夜のうちに持ち込んで囲いを造ったのだ。
この世界ではなかった伝説の墨俣の一夜城になぞってみた。まぁ、囲いだけだけどね。
この囲いがあるのとないのとでは全然違う。服部党が攻めてきても、こっちは囲いに守られながら矢を撃ち対応できるのだ。
囲いを造った次は城を築くが、この城はそこまで大きくない。
とにかく、形だけを整える感じで工事を進めた。
城、櫓、柵の強化、やることは色々あるけど、服部党が邪魔をする。
三月になると、信長様が犬山城を落としたと報告があった。
とうとう犬山を手に入れたので、信長様はこの服部党が支配する河内を手に入れれば尾張を完全統一することになる。
やべー、一番最後ということは目立っちゃうじゃないか。嫌だなぁー。
新緑が目に優しい五月。
それなりに立派な城ができあがった。
「よくやった! 服部党の喉元に刃を突きつけたのと同義である!」
信長様が視察にやってきて、城を褒めてくれた。
「この城は鯏浦城と名づける!」
あー、分かっていましたよ。鯏浦城も殿が築いた城だもんね。
「この城は勘次郎に与える!」
え? マジ?
「あ、ありがとうございます!」
まさか城がもらえるとは思っていなかった。
でも、これで俺も伊勢長島の一向衆から逃げることができなくなった。本当にどうしよう?
ん? よく考えたら、一向衆が古木江城へ向かう時にはこの鯏浦城に現れるんじゃね?
だったら、この城を堅城にすれば、古木江城へ向かう兵数も少なくなるんじゃ?
いや、この城を堅城にしても、無視されたらアカンやん。
どうしたら……そうか、精強な兵を組織すればいいのか……。
この城はいつでも捨てていけるようにして、精強な兵士で奇襲を繰り返すのはどうだろうか?
そうしたら、古木江城をとり囲まれても、外から殿を支援できる。
そうだな、そうしよう! 夜襲に特化した精強な部隊を組織しよう!
「そんなわけで、強襲夜襲部隊を組織します。はい、ぱちぱちぱち」
「「「「「………」」」」」
「なんだ、お前たちはノリが悪いな!?」
ぽかーんとするな!
「殿、強襲夜襲部隊とはなんでしょうか?」
清次め、真面目な顔して聞くなよ!?
「そのままの意味だ。夜に強襲して敵を翻弄する部隊のことだ」
「はぁ、まぁ、分かりましたが、なんのためにですか?」
「伊右衛門。俺たちは服部党と戦うことになる」
「そのためにこの城を建てたのですから、当然ですね」
「だが、服部党の後ろには何がいる?」
「……?」
おい、分からんのかよ!?
「南無阿弥陀仏。一向衆がおりますな」
「雲慶の言う通りだ」
南無阿弥陀仏なんぞと言っているが、雲慶は本願寺(一向衆)とは関係ない。紛らわしい奴だ。
むしろ、本願寺とはかなり険悪な仲で、本願寺系の僧侶によって妻が殺されたことで、雲慶は頭を丸めたのだ。
だから本願寺は敵とも考えている。
「つまり殿は一向衆を意識しておいでなのですな?」
「清次、服部党の後は必ず一向衆が出てくる。一向衆は数が半端なく多いし、何より命を惜しまない」
「ですが、それなら城を強固にした方がよろしいのでは?」
「鯏浦城をいくら強化したところで、万を越える敵に耐えきることはできないだろう」
「されど、攻撃に耐えている間に援軍がくるのでは?」
「甘いぞ、清次! 一向宗はあちこちにいるんだ。この鯏浦城以外にも攻められたら援軍は期待できない!」
「う、そうですが……」
「つまり、俺たちは少数で多数の一向宗を迎え撃たなければならないのだ!」
俺は大きなジェスチャーをして、五人に言い聞かせる。
「俺たちの敵は服部党ではなく、一向宗なのだ!」
ヒトラーにでもなった気分だ。
「夜陰に紛れ、人知れず一向宗を狩る! そのための強襲夜襲部隊なのだ!」
ヒトラーもこうやって民衆を扇動したのかな?
「立てよ国民!」
「「「「「???」」」」」
あ、これはヒトラーの尻尾のほうか?




