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028_服部党

 


 永禄六年十月。

 弥富服部党。尾張の河内の地に根づいた一族だ。

 以前、殿を狙って刺客を送り込んできた奴らだ。

 織田家とは敵対していることから、信長様から服部党の拠点攻略の命令が出た。

 まずは、服部党の居城である荷ノ上城の目と鼻の先に城を築けというのだ。また築城かよ……。

 しかし、信長様の命令を拒否もできないので、城を築くことになった。


 この流れはあまりよくない。

 なんと言っても、服部党を追い出してもその後には伊勢長島の一向衆がいるんだ。

 史実で殿が戦死することになったのは、この一向衆が古木江城を取り囲んだからだ。

 この時、信長様は浅井長政や朝倉義景と対峙していて援軍を出せる状態ではなかった。

 さらに桑名にいた滝川一益も一向衆に攻撃されていたため、殿は孤立無援で六日間戦った末に戦死した。

 この流れをなんとか変えたいと思うけど、どうやって変えたらいいのか分からない。

 今はまだ服部党と一向衆は協力関係にないはずだ。

 少なくとも積極的に服部党に協力はしないと思う。

 だけど、服部党を追い出したら間違いなく一向衆と衝突することになるだろう。

 それも一向衆は次から次に湧いて出てくるから始末に悪いんだ。


 清須の信長様のところでその命令を受けた帰りに、俺は熱田の加藤様を訪ねることにした。

「おお、婿殿。よく参ってくれた」

「加藤様、ご無沙汰しております」

 加藤様はにこやかに俺を迎え入れてくれた。

「お由は元気にしていますかな?」

「はい、とても元気です。最近は薙刀の修練に励んでおります」

「なんと、薙刀とな? いくら武で知られる婿殿の妻となったとはいえ、お由まで……」

「武士の妻としての嗜みだそうです。ほどほどであれば、いいと思っています」

「すまぬな」

「いえいえ、加藤様に謝られるようなことではございませんので、気になさらないでください」


 近況などを話し合った後、俺は本題に入ることにした。

「今日寄らせてもらったのは、加藤様のお力をお借りしたいと思ってのことです」

「某の力?」

「ええ、そうです。清次、あれを」

「は!」

 清次は三キロいりのミカン箱くらいの大きさの葛籠(つづら)を俺に差し出してきた。

 俺はその葛籠の蓋を開けて加藤様に中身をみせた。


「これは……」

「シイタケでございざす」

 葛籠は本来、服を入れておく入れ物だけど、持ち運びに便利だし通気性に優れているので、乾燥シイタケを入れて持ってきた。

「ふむ、まさしくシイタケだ」

「我が領内で栽培したシイタケになります」

「なんと!? それは真事(まこと)のことなのか!?」

 かなり驚いているようだね。

 この時代ではシイタケ栽培はまだされていないから、当然といえば当然なんだけど。


「詳細は加藤様といえど申せませんが、間違いありません」

「むぅ……それで、これをどうされるのか?」

「はい。加藤様にこのシイタケを販売していただけないかと思いまして、こうして持ってきたわけです」

「某にシイタケの販売を任せてもらえるのか!?」

 シイタケ栽培には成功したが、シイタケを売らなければ本末転倒の話になる。

 だから、商人である加藤様に販売を任せようと思ったのだ。

 俺も元は営業マンなので、自分で販路を構築しようかと考えたが、よく考えたら俺も結構忙しい身なので販路構築をする時間がないのだ。

「はい」

「………」

 加藤様は目を閉じて考え込んだ。


「分かった! この加藤順盛(かとうよりもり)が責任をもって販売をさせてもらおう!」

 目をカッと開けた加藤様が頷き力強く応えてくれた。

「それで、シイタケはこれだけかな?」

「いいえ、それは加藤様へお譲りする物です」

「こ、これをもらってもよいのか?」

 ゴクリと唾を飲む音が聞こえた。

「ええ、他に信長様と彦七郎様にも献上していますので、一箱で申し訳ありませんが」

「いや、一箱で十分でござる。これはありがたくいただいておきますぞ」

 加藤様は俺に頭を下げた。


「商品のシイタケはその葛籠で二十五箱分あります」

「ほう、二十五箱もあるのか!?」

 かなりの数なので、相当驚いているようだ。

「来年はその倍の数を予定していますが、できてみないと分かりません」

「ふむ、継続的に供給できるのですな……」

 加藤様はシイタケを流通させるには、京(京都)や大阪に持ち込むのが一番だと言うので、そこら辺は任すことにした。


 家に帰ると、お由が三つ指をついて迎えてくれた。

「お帰りなさいませ。旦那様」

 可愛い妻が家で待っていてくれるって、いいね。

「うむ、戻ったぞ。何か変わったことはあったか?」

「それが……」

「ん? どうした?」

 何かあったのか? いったい何が?

「うふふふ、奥様、いの一番にお知らせするのでしょ?」

 このお婆さんは清須の家からお由についてきた、ばあやだ。

 酔っぱらいに暴行を受けた時に一緒にいたばあやだから、お由も気心が知れていて安心できるだろう。


「お由、どうしたんだ? 何かあったのなら、言ってくれ」

 お由がもじもじする。なんだというのか?

「はい、あの、私……赤ちゃんができたみたいなんです……」

「え?」

「旦那様。おめでとうございます」

 ばあやが頭を下げてきた。

 俺の赤ちゃんか……。なんていうか、信じられないな。

 現代では安月給の独身サラリーマンだった俺が、今では可愛い妻がいて、今度は赤ちゃんか……。

 何だか幸せで怖い。

「あ、あの。旦那様……」

「あ、うん、めでたい! お由、よくやった!」

 本当にめでたい!


 

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