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026_シイタケ栽培

 


 永禄六年二月。

 今年もやってきましたシイタケ栽培用の原木伐採時期。

 原木の伐採に役立つのが、雲慶と利益だ。

 俺よりもデカい体で原木を伐り倒していくその姿は、本当の木こりかと思ってしまう。


「雲慶は木~を~き~る~」

 コーンという小気味いい音が鳴り響く。

「利益は木~を~き~る~」

 コーンという小気味いい音がまた鳴り響く。

「殿、変な囃子は止めてくだされ」

 雲慶や利益ではなく、清次がクレームをつけてきた。


「南無阿弥陀仏。意外といい調子だぞ、清次殿」

「然様、然様。こういうのはノリでいかねば。のう伊右衛門殿」

 雲慶と利益は意外とこういうのが好きなようだ。

「某はどっちでも構いませぬが……」

 伊右衛門は無難にまとめた。

 てか、清次、伊右衛門、貞次、そして俺は鉈で枝を払っているだけなので、本当に黙々と仕事をしている。

 だから場を和まそうとしたのに、清次の奴はそれが分からないようだ。堅いなぁ~。


 無事大量の原木を用意した俺たちは、原木を運搬して適度に乾かす。

 正と藤次は菌床の面倒を見ているので、そちらの準備の方もスマホのカメラモードで確認する。

 うん、順調だ。正はしっかりと菌床を管理してくれるので、助かる。

 こういうのは性格が出るから、雲慶や利益のおおざっぱコンビにはできない作業だと思う。

 逆に清次なんかは結構性格的に合っていると思うが、伊右衛門と貞次はよく分からない。


 数日後、適度に乾燥させた原木に穴を開けて菌床を植えつけていく。

 利益はまた逃げやがった! あいつ、本当に植えつけ作業が嫌いだな!

「ふん!」

「おい、雲慶。そんな力任せにやって原木を折るなよ」

「南無阿弥陀仏。生きとし生けるものはいつか滅するものです」

「お前が手加減すればいいんだよ!」

 まったく雲慶の奴には困ったものだ。

 それでも手伝ってくれるだけ、利益よりましだけどな。


「正、今年の菌床は去年よりもよくなったぞ。お前のおかげだ、ありがとう」

「おらで役に立ったきゃ?」

「ああ、役に立ったぞ。無事にシイタケが収穫できたら、褒美を出さないとな」

「おらに褒美をくれるだきゃ?」

「シイタケが無事に収穫できたらだけどな」

「おら、がんばるだがや!」

 うむ、がんばっていい品質のシイタケを作ってくれ。

 しかし、シイタケ栽培が成功したら、人を雇って生産体制を作らないといけないな。


 四月になると、信長様は美濃に兵を出した。

 もちろん、俺たちも従軍する。そして、久々のミッションがきた。


【ミッション】

『敗戦処理! : 美濃から殿を無事に帰還させるのだ!』

『報酬 : プレゼントをランダムで三個』


 いやいやいや、戦う前から負けるのが確定って、やる気なくなるわ~。

 やる気なんて元々ないけどさ~。

 しかし、これは考えどころだぞ。こんなミッションがくるってことは、今回の戦いは結構酷い負け方をするってことだろ? う~む。


 悩んでいても分からないので、検索で永禄六年の戦いを検索してみた。

 それによると、今回の戦いは新加納の戦いと言われている戦いのようだ。

 この戦いで織田軍は、後の藤吉郎さんの軍師で有名な竹中半兵衛の策で撃退されているそうだ。

 この情報を知っている俺が信長様に進言すれば、負けを回避できるんじゃね?

 そうすれば、わざわざ敗戦処理なんかしなくても殿は無事に帰ってこれると思うんだ。

 ん? ちょっと待てよ……この戦いで活躍した竹中半兵衛だが、待遇が悪いままだったことから、翌年に少数の手勢で稲葉山城を乗っ取った……だと?

 それが切っかけになって斎藤家崩壊に拍車がかかった……。

 ダメじゃん! 勝ったら斎藤家崩壊がなくなるかもしれないじゃん!

 うわ~、どうしよー……?


 数日後、織田軍は稲葉山城に迫った。

 織田軍の戦力は六千ほどで、対する斎藤軍は三千五百ほど。

 戦力的には勝てるが、この後、織田軍は敗走することになるはずだ。

 俺は結局、殿を通じて竹中半兵衛の策に気をつけるように進言した。

 例え歴史が変わろうと、殿を危険な目に合わせるのは憚られたからだ。

 だけど、家中の声は俺の進言を無視するものだった。

 みんな、イケイケの武将ばかりで、俺の進言を取り上げなかったのだ。


「佐倉様の進言はもっともだぎゃ。頭の弱い奴らだぎゃ」

 藤吉郎さんが俺を慰めにやってきてくれた。

「大丈夫ですよ。私の進言が正しいと分かる時がきますから」

「そうだぎゃ。おらたちの部隊は後方に待機するだがや。佐倉様もそうするといいがや」

「はい、そうさせていただきます。藤吉郎さん、ありがとうございます」

「いいがや、いいがや。佐倉様とおらの仲じゃにゃーきゃ」

「そう言ってくださるのであれば、私を様つけで呼ぶのは止めて下さい。これからは勘次郎と呼び捨てでお願いします」

 俺は軽く頭を下げた。

 藤吉郎さんは俺を様つけで呼んでいたが、立場は俺よりも全然上だ。

 もしかしたら殿よりも上かもしれないのだから、本来であれば様づけなんてしなくていい。


「いいのきゃ?」

「はい、お願いします」

「にゃりゃ、勘次郎もおらを藤吉郎と呼び捨てにするだぎゃ」

 それはなんとも難しいリクエストだ。

 俺よりもはるかに立場が上の藤吉郎さんを呼び捨てか……。

「分かりました。藤吉郎と呼ばせてもらいます」

「う~む、どうも勘次郎の言葉使いはかたいにゃぁ」

「ははは、そうですか? でも、こればかりはなかなか」

「まぁいいがや。今回は被害を最小に抑えるのがおらたちの役目だぎゃ。おたぎゃーに、気張るがや」

「はい」


 

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