表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/51

025_シイタケ栽培

 


 永禄五年八月。

 信長様がまた小口城を攻めるために兵を出した。

 今回も殿に声がかからなかったので、殿は荒れている。

「なぜ今回も俺を連れていかぬのだ!?」

「小口城の先には犬山があります。織田信清様は殿の従兄。信長様にも考えがあってのことでしょう」

 信辰がいらぬことを言う。

「従兄だからといって、俺をのけ者にするのは酷いではないか!」

「七郎左衛門殿はそのようなことを仰っているのではないことは、殿もよく分かっておいででしょう」

 従兄を切らないといけない場合もある。信長様はそれを考えているのではないかと、信辰は言っているんだ。

 だけど、あの信長様がそんなことを考えているとは思えない。

 なんと言っても、第六天魔王の織田信長だからね。

「えーーい! お前たちは悔しくないのか!?」

 この数日、こんな感じなのだ。しばらくは放置が一番だ。


 結果を言うと、信長様は負けて帰ってきた。

 昨年に続きの敗戦なので、信長様も少し堪えているかと思えば、そうでもない。

 信長様は負け戦も含めて戦略を立てているようで、負けてもただでは起きない人だ。

 その証拠に、小口城の目と鼻の先にある小牧山に城を築くように命令を出したそうだ。

 本当にめげない人だ。だから天下を取る直前までいったんだろうけど。

 いや、史実では将軍を追放して右大臣にもなったし、京の都を治めているので、天下はとったのか?

 征夷大将軍職は断っているよな? よく分からないが、まぁ、日本を平定していないし、そういう面で考えれば天下の直前でいいのか?

 天下はとったけど、日本は平定していない。中途半端で最期を迎えてしまったことは信長様自身が一番悔やんでいるかもしれない。

 ただ、この頃の信長様は何度負けたって、負けをマイナスにしない執念をもって戦に臨んでいる感じがする。

 そして何より、信長様は負け方が上手いのだ。致命傷にならない負け方をするので、すぐに体勢を立て直してしまう。

 これは尾張の兵が農民兵ではないことが関わっているだろう。

 農民兵はその名の通り地場に根差す農民が兵士をしているけど、尾張の兵は金で雇われている兵士で、言ってみれば職業軍人なのだ。

 職業軍人は尾張で銭になると聞けば他所の国からもやってくるので、兵が底をつくことが滅多にない。

 ただし、職業軍人は敵前逃亡しても他の国に逃げてしまえばいいので、戦い趨勢が悪いと簡単に負けたり、逃げ出すという欠点がある。

 信長様はその欠点も考慮して負け方を考えているのかもしれない。

 俺は何を言っているのだろうか?


 今年はミッションもなく、なんだか拍子抜けした年だった。

 そんな永禄五年も終わり、永禄六年正月。

 新年の挨拶のために、殿につき従い清須の信長様を訪ねた。

「今年は美濃を攻める! 彦七郎の働きに期待しておるぞ!」

「兄者! とうとう斎藤を滅ぼすのですね!」

「で、ある!」

 この兄弟はなかなかテンションが高い。

 俺は自分で言うのもなんだが、冷静な方だと思うから、この兄弟が揃っていると本当に疲れる。


「勘次郎! その方の働きにも期待しておるぞ!」

「は、はい! ご期待にそえますよう、努力いたします!」

 急に信長様に声をかけられてしまって、びっくりした。

 信長様にあまり名前を覚えられたくないんだ。

 だってこの人、戦国ブラック上司、パワハラ上司のナンバーワンじゃね?

 結果を上げ続ければいいけど、結果が出せないと追放だからきついと思うんだ。


 新年の挨拶も終わって、殿は信長様と酒を飲みかわすことになった。

 俺は手持ち無沙汰なので、清須城内を歩いていたら、懐かしい顔に出会った。

「勘次郎殿!」

「犬千代さん!」

 帰参を果たした犬千代さんだ。

「明けましておめでとうございます。久しぶりですね、犬千代さん」

「明けましておめでとうございます。世話になったのに、なかなか挨拶にもいけず、すまない」

「何も世話などしていないですよ。それよりも、前田利益殿を家臣にしているのですが、いいですかね?」

「話は聞いている。利益が迷惑をかけていなければいいが……」

「迷惑なんてかけられていませんよ。助かってます」

「気まぐれな奴なので、勘次郎殿のところで鍛えてやってください。よろしくお願いします」

 犬千代さんが頭を下げる。

「頭を上げてください」

 俺の方こそ利益が家臣になってくれて心強いのだ。


「おや、犬千代に佐倉様じゃにゃーか? 久しぶりだがや」

 声がしたので振り向いてみると、ネズミ顔の小男である藤吉郎さんがいた。

「藤吉郎か! お前も忙しいようだな!」

「藤吉郎さん、明けましておめでとうございます」

「明けましておめでとうございますだぎゃぁ」

 さすがは人たらしと言われるだけのことはある。引き込まれそうなほどの柔和な笑顔で挨拶をしてくる。


「二人とも何をしてるんだぎゃ?」

「ここでばったり会ったので、立ち話をしていただけですよ」

「おらも混ぜてちょ」

「構いませんよ。ねぇ、犬千代さん」

「ああ、藤吉郎の出世話を聞かせてくれ!」

「出世だなんて、大したことはしてにゃーて」

 この藤吉郎さんは、俺と同じころに結婚をしている。相手はもちろんねねさんだ。

 最近は美濃の調略に忙しいらしい。

 今年は美濃攻めがあるから、藤吉郎さんの調略が効いてくるかもしれないね。


 俺たち三人はこの時期には珍しい暖かな日差しの中で小一時間は立ち話をした。

 藤吉郎さんは十歳も年下のねねさんを嫁に迎えたが、すぐに浮気をしてねねさんにこっぴどく怒られたのを面白おかしく話してくれた。

 言っていることは結構下司なことだけど、こういうことを冗談として話せるのも、藤吉郎さんの人柄というか、性格なんだろうな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ