38話 暇を持て余すチャラ男
「あぁ~暇だ~」
夕暮れ時の放課後。
俺は1人、部室の机に突っ伏しながら声を上げていた。
部室が完成してから1週間とちょっと。
校内にもポスターを掲示し、部員の皆も周知活動に力を尽くしてくれている。俺自身もクラスの面々に困ったことや、ボランティアとして活動できる案件がないか聞いてはいるものの、依頼は0件のまま。
とりあえず部長ということで、毎日部室へ来ては来客がないか待っているのだが、期待に胸を躍らせていたのは最初だけ。もはや椅子に座り、時々スマホをいじり時間を潰す。何とも勿体ない時間を過ごしているのが現状だ。
そして本日、揃いも揃って部員の皆が来られず1人という光景に、心の中で思っていたことが思わず言葉に出てしまった。
(……でもまぁ、依頼が来ないのにここで雑談してるだけってのも、皆の大事な時間奪ってるってことだもんな)
いつもであれば、誰かしらが部室へ顔を出して他愛もない雑談をしていた。ただ、最近では依頼についての話題が出ない辺り、他の皆も気にしているのだろう。
そもそも他の部活や家の用事がある人達を、依頼もない暇な部活動で縛るのはなんとも心苦しい。
1件……1件でも実績があれば胸を張って報告でも出来る。そう思っていた1週間前の自分に忠告したい。その1件が果てしなく遠いのだと。
「はぁ……宣伝が足りないのか? でもクルミのデザインしたポスターはなかなかのインパクトだぞ?」
その言葉通り、クルミのデザインしたボランティア部のポスターは様々なバリエーションに富んだものばかりだ。決して目立っていないとは思えない。
生徒会作成の学校新聞にも目が付く大きさで記事は載せてもらえたことから、誰も知らないという状態ではないはず。
となれば、原因は何なのか。
(……えっ。もしかして俺?)
部員の情報は知る人ぞ知る程度だろうが、部長が俺ということは学校新聞等で書かれている。校内での俺の認識はチャラ男だろうし、そんなチャラ男が部長を務める部活が怪しくない訳がないというのだろうか。
(くっ、いっそのこと部長名を伏せるべきだった。いや、それこそ怪しさマックスじゃね? もっと生徒会副会長の下塚さんが入ってることを強調するべきだったか……)
「どちらにせよ、困ったもんだ……」
そもそも、チャラ男という噂を払拭する為にボランティアをしようと部を作っても、そのチャラ男に依頼をする人が居るのかどうか。ポスターや学校新聞があれば1件くらいは依頼があるだろうという考えが甘かったのだ。
(あぁ……)
コンコン
何ともやるせない気持ちに襲われていると、扉をノックする音が聞こえる。時間も時間だし依頼者が来る可能性は低い。おそらく部員の誰かが様子を見に来てくれたんだろう。過去の経験から期待は全く出来なかった。
「はいよ~」
そう思うと、口から出る声もある意味いい加減になってしまった。その聞き覚えのある声が聞こえたとしても。
「あら? ずいぶん暇そうですね?」
「ん? あぁ、七夕か」
生徒会長が部室に来たとなると、大抵の人なら一瞬にして緊張感に襲われるだろう。だが、今の俺にはそんな感情すら湧きあがらないほど現状に絶望している。むしろ自分の甘さにと言った方が正しいのかもしれない。ましてや、わざわざ部室に来たということは嫌みの1つでも良いに来たのだろうと、別の意味で冷静でもあった。
「あぁって、ずいぶん失礼じゃないですか?」
「すまん。んで? ボランティア部へ何の用だ?」
「少しお話をしたいと思ったのですけど……その前に……」
「その前に?」
「誰も居ないようなので、是非! 私のパンツを見ていただきたいです! 良いですよねぇ?」
そう言いながら、いつもの如くスカートをつまみ上げながら近付いてくる七夕。いつもであれば必死に止めていただろうが、残念ながらそんな元気もない。
(……とことんこいつは変らんな。ただ、残念ながらいつもの様にちゃんとした反応が出来る元気はないぞ)
顔を赤らめさせながら、何かを期待するような七夕。ちらりと見えたのは黒い生地だった。
「あぁ~良い感じ~」
「なっ! ちょっと井上君? 反応が薄い!」
「薄いって、見るだけで満足なんじゃ……」
「そっ、それはそうですけど……あぁ、もう今日は止めます! 普通に用件話します!」
何か気に障ったのか、少し頬を膨らませて椅子へと座りこむ七夕。正直良く分からなないが、嫌みなら早く言って欲しいとボーっとその顔を見ていた。
「なっ、何をそんなに見てるんですか!?」
「いや、七夕もハムスターみたいな顔すんだなって思って」
「はっ! ごっ、ごほん。失礼しました。はしたない姿をお見せして」
「はしたないって、別に今に始まったことじゃないだろ?」
「それはっ……はぁ……部室に入る前からなんとなく感じてましたけど、とんでもなくやる気が削がれているようですね」
「やる気というか、自分の甘さに絶望してるんだよねぇ」
部室に入る前から感じていたということは、相当な負のオーラを放っていたのだろう。まさかそこまでとは思ってもいなかっただけに、もしかすれば他の部員達も何かを感じ取っていた可能性はある。それならば、部活から遠ざかるのも無理はない。
「未だ活動依頼が0ということですか」
「だな。チャラ男の作った部活は怪しさ満点なのかもな」
「ポスターもかなり貼っていますし、学校新聞にも大々的に載せました。こう言いたくはないですが、校内でボランティア部……ひいては井上君に対するイメージは、私達が思うより結構ひどいのかもしれませんね」
「だろ? だからいっそのこと、お前も嫌み言ってくれよ。そっちの方が色々と楽だ」
「それは出来ません。部活の発足には生徒会も関わっています。つまり生徒会はどんな状況であれ、部活の味方です」
「部活のね……ありがたいお言葉だよ。ただ、ここ1週間依頼が0という現実があるんだよ」
生徒会も全知全能の神じゃない。七夕達も学校新聞やポスター掲示場所の拡大等々、やれることはやってくれたはずだ。これ以上手の施しようはないだろう。
「そうですね。ですから……それを解決したいと思って今日来ました」
「ん? どういうことだ?」
「簡単な話です。ボランティア部の記念すべき最初の活動……我が生徒会が依頼に来ました!」
「はっ、はい?」
(えっと、まじで言ってんの?)
「簡単な話です。ボランティア部がどういったことからなら引き受けてくれるのか、その基準を皆さんに見ていただければ良いだけの話なんです。やっていただけますか?」
七夕の提案は、ボランティア部にとって願ったりかなったりのことだ。まず活動の機会を貰えたこと。そしてこの活動をもってボランティア部がどういう依頼を受け入れられるのかという基準を生徒に示すことが出来ること。最後に生徒会会長直々の依頼であるということ。
学校内での七夕の影響力はいわずもながら。
その生徒会からの依頼となれば自然と注目されるはず。ここで上手くアピールできれば、今後の依頼に期待が持てるはずだ。
(これはチャンスだ。また七夕に借りを作るのは後々嫌な予感しかしないけど、気にしてる場合じゃない)
「ボランティア部としては願ったり叶ったりだ。謹んでお受けするよ」
「ふふっ……ここで恩を売って置けば、私の望むことも……」
「ん? 何か言ったか?」
「いっ、いえ! なんでもありません!」
(何やら私欲が聞こえてきたような気がするけど、それもまた致し方がない。とにかく活動をしないと意味がないぞ)
「じゃあ、さっそく依頼聞こうか」
「ごほん。それでは生徒会からボランティア部へ依頼がございます。それは……校舎周辺のゴミ拾いです!」
「ごっ、ゴミ拾い!?」
次話も宜しくお願いします<(_ _)>




