あなたはあなたの"幸せ"を
そこにいたのは、赤いドレスを身に纏った銀に近い金色の髪に銀の瞳の女性だった。
まるでネヴィアを少々大人にしたような女性で、ミレイも会った事はないが、この女性が第一王女なのは理解できたようだ。
その後ろ隣にいる大人の女性は、とても綺麗に切りそろえられたゴールデン・ブラウニッシュ・ブロンドに薄い青い瞳の女性で、騎士の様な白銀の鎧を身に纏っているが、その眼差しはとても優しい表情をしていた。
ふたりが佇む中、ネヴィアは二人をイリスたちへ紹介していった。
「ご紹介させて頂きます。こちらは私の姉であるシルヴィアで、隣にいらっしゃるのが王国騎士団長を務めて頂いておりますルイーゼ様です」
「あら、簡単な紹介なのね、ネヴィア」
「ふふ、私に様はつけないで下さい、ネヴィア様」
恐らくいつものやり取りなのであろう言葉がネヴィアに返っているが、
当の本人は気にせずに話を二人へ返していった。
「そうは言いますが、私からよりもご自身で言われた方が伝わると思ったのですよ、姉様。それとルイーゼ様はとても立派なお方ですので、敬意を表せてくださいませ」
「お立場が逆転されてますよ、ネヴィア様」
苦笑いしながらも返すルイーゼと、まったくこの子はと言わんばかりの表情をしているシルヴィアであった。
一拍置いてシルヴィアはイリスたちへ向き直りお礼を言った。
「私はネヴィアの姉で、シルヴィアと申します。お二人とも妹のお友達になってくれてありがとう。私が言うのも可笑しな話ですが、この子はとても良い子なので、どうか末永くお友達でいてあげてくださいね」
とても素敵な笑顔でお願いされたイリスたちは、恐縮してしまう事もなく笑顔でそれに応え、シルヴィアも二人の対応に安心したように目を細めていった。
少々時間を置いて、シルヴィアの隣にいる女性が笑顔で挨拶を始めていった。
「私はフィルベルグ王国で騎士団を預からせて頂いております、ルイーゼ・プリシーラと申します」
その言葉にイリスは驚いてしまっていた。どうやらその表情を察して、ルイーゼはイリスに問いかけてしまった。そしてその言葉にイリスは答えを返していく。
「ふふ、女性が騎士団長を勤めているのに驚きですか?」
「いえ、祖母から騎士団長様のお話を伺ったことがあったのですが、私が想像していた以上にお若い方だったので驚いてしまいました」
その答えはルイーゼにとってはあまり予想していなかったようで、目を少々見開いてしまっていた。
この国ではそういった扱いはされないが、他国へ行くとよく女性という事が指摘される世界に生きている為に、イリスの反応はなかなか斬新で興味を惹かれる内容だったようだ。
そんな彼女は、偏見を持ってしまい申し訳ありませんと謝る少女に言葉を返していく。
「いいえ、とんでもありません。若く見られることは私にはとても嬉しく思える事ですので、どうかお気になさらないで下さい」
「はいっ」
とても素敵な笑顔で返してくれた少女に、不思議な魅力を感じるシルヴィアとルイーゼであった。
シルヴィアはもちろん、ルイーゼも出会ったことがない印象を受けてしまう。何だろうかと彼女が考えていると、シルヴィアはイリスたちへ話を続けていった。
「ところでお二人とも、ネヴィアのお友達になって下さったという事は、私ともお友達になって貰えたりするのかしら?」
笑顔で軽く話すシルヴィアであったが、彼女もまたネヴィアと同じように友人を作れずにいた女性であった。
どうやら王女というものが足かせとなってしまうようで半ば諦めていたようだが、最近聞いたネヴィアの話から察すると、立場と関係なく接してくれる方たちのようで、もしかしたらという淡い想いがシルヴィアにも勇気を与えていた。
内心ではどきどきしていたシルヴィアへ、二人はそれに応えていった。
「わぁ、私でよろしいんでしょうか?」
「あはは、あたしでもいいのかな?」
その言葉にシルヴィアは、ぱぁっと明るくなりぜひぜひと答えた。
「それじゃあ、よろしくね。あたしミレイ。シルヴィアって呼んでいいかな?」
「もちろんですわ! ありがとうございます!」
「あはは、お礼は違うと思うけど、よろしくね、シルヴィア」
「よろしくおねがいします、シルヴィアさん。私はイリスと申します」
「よろしくおねがいしますね、イリスさん」
姉さまもお茶をどうですか? というネヴィアのお誘いに、姉も応えていった。
「そうね、頂こうかしら。リアーヌ、私の分もお願いできますか?」
「かしこまりました」
その様子にふふっと笑うルイーゼはシルヴィアに話していく。
「よかったですね、シルヴィア様。それでは私はこれで失礼させて頂きますね」
「あ。ごめんなさい、ルイーゼ。今日の予定はなかった事でお願いします」
「ふふ、大丈夫ですよ。どうぞごゆっくりなさって下さい」
「ありがとう、ルイーゼ」
優しい笑顔で語るルイーゼに、申し訳なさそうに答えていくシルヴィア。
そしてルイーゼはイリスたちへ挨拶をした。
「それではこれで失礼致します。どうか姫様達をよろしくお願いします」
「はい。お会いできて嬉しかったです」
「今度ゆっくりお話できたらいいですね。とても強そうだし」
ミレイの言葉に軽く笑いながら、私などまだまだですよと告げてルイーゼはその場を去っていった。
お茶を飲みながらシルヴィアはネヴィアに聞いてきた。あの件はどうなったのかと。そのシルヴィアの様子はとても目が輝いており、ミレイはそれを察したようだった。
ネヴィアが顔を赤らめて驚いた事で把握できたイリスは、彼女の答えを待っていく。その、あの、を繰り返す妹に痺れを切らせたシルヴィアは、妹へ聞いた。
「まさか全然進展していないのかしら? 我が妹ながらいじらしくて可愛いですが、そんなことでは他の女性に振り向かれてしまいますよ?」
「あはは、それはたぶん大丈夫じゃないかな」
きょとんとするシルヴィアにミレイは説明をしていった。いかにロットが女性に興味を示さないかを。
徐々に表情の曇るシルヴィアはミレイに半目で答えてしまった。
「なんという強敵」
「あはは」
「ぁぅ……」
「でもネヴィアさんはとても素敵な方だし、お話しする機会があれば良い方向へ進むんじゃないでしょうか」
「それですわ!」
イリスの言葉に同調するシルヴィアは、何かないものかと考えていた。
「ロットなら大体、図書館か噴水広場かギルドにいると思うよ」
あっさりと居場所を言うミレイに少し戸惑うイリスも、ネヴィアのためにという気持ちが勝り、口に出さなかったようだ。その言葉を聞いたシルヴィアは目を輝かせてミレイにお礼を良い、ネヴィアは顔を更に赤くしてしまっていた。
そして妹に向かって姉は話を続けていく。できるだけ時間を作ってロットに会いに行きなさいと。それに反論したネヴィアの言葉は尤もであるが、シルヴィアはそれを受け入れなかった。
「で、ですが姉様。王女としての公務もありますので、そうそう出られませんよ」
「何を言うのですか。妹の幸せがかかっているのです。公務はこちらで引き受けます。貴女は貴女の幸せを第一に考え、行動なさいな」
その言葉に涙が出そうになるもそれを堪えたネヴィアは、姉に言葉を返していく。
「姉様にこれ以上負担はかけられません。ただでさえ姉様は忙しいのですから」
はぁっとため息をつきながらシルヴィアはネヴィアに真面目な顔と声で伝えた。
「ネヴィア。貴女はまず自身の幸せを掴みなさい。自分ひとりを幸せに出来ない者が、誰を幸せに導けるというのですか?」
「姉様……」
言葉に詰まるネヴィア。イリスとミレイはほんわかした気持ちで二人を見ていた。
あぁ、この国は本当に素敵な場所なんだなと。王族である二人がこんなに素敵なのだから、そこに生きる人たちはきっと幸せになれる国なんだと思っていた。
優しくて、温かくて、たくさんの人が笑顔になれる幸せな国なんだと。
4人はロット攻略戦についての話を詰めていった。
ああだこうだと話している中、ふとネヴィアは姉に気になる事を聞いてしまった。
「ところで姉様には、意中の方はいらっしゃいませんの?」
その言葉を聞いたシルヴィアは取り乱すように赤くなり、軽く焦りながらも返す。
「わ、私は良いのですっ。意中の殿方の一人や二人位いますわっ」
「いや、二人はまずいでしょ」
「ふふっ、シルヴィアさん、お顔真っ赤ですよ」
「もうっ、お二人とも、私のお話は良いのですっ」
耳まで赤くした可愛らしいシルヴィアに3人は笑いながら尚も話が弾む4人は、恋バナを咲かせ続けていった。




