"光と風の世界"
優しく、温かく、幸せで満ち溢れた世界にイリスはひとり佇んでいた。
どこか花の香りを感じさせる穏やかな春の風が、彼女の頬を優しく撫でる。
その感覚に嘗ての草原を連想する彼女だったが、どうやら同じ場所ではないようだ。
ぼんやりとする意識の中、曖昧な記憶を手繰り寄せる。
自身が何をしたのかを少しずつ理解できた彼女は、正面に立つ大切な人達の存在に視線を向けながら、呟くような小さな声で話した。
「……夢でも、幻でも……皆さんともう一度逢えたことを、心から嬉しく思います」
大切な仲間達、祖母、師、母、父、友人、国元で出会った者達、旅先で出会った者達に話しかけるように言葉にする。
本当に多くの者達がイリスを見つめ、笑顔を浮かべていた。
「……でもそれは、一時のことに過ぎないんですね……」
そんな彼らに美しく微笑みながら、彼女はとても静かに、そして悲しげに話した。
「時間はかかると思いますが、必ず皆さんとまた逢えるから……。
だから少しだけ、皆さんとはお別れしなければならないのですね……。
それまでは、もう少しだけ……皆さんの傍に、いさせてくださいね……」
大切な人達の下へゆっくりと歩み進めるイリスは想う。
今、私がこうしているのは、ここにいる皆さんのお蔭だと。
そして心からの感謝を捧げる。
この世界へと導いてくれた、この世界そのものたるコアに。
白銀の眩い光に包まれていく世界。
空へ溶け込みながら、イリスは想う。
あぁ、本当にこの世界は美しいと。
「……この美しく、優しい世界に居られたことに、心からの……感謝を……」
徐々に遠ざかる声は、美しい空に吸い込まれるように聞こえなくなった。




