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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十五章 問題の存在
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"ここにしか"

 翌日、エグランダを散策しながら楽しくおしゃべりをしていたイリス達八人は、のんびりとした時間を過ごしていた。

 朝一番にもうひとりの仲間であるエステルを紹介すると、彼女も二人を気に入ったようで頬を擦り寄らせてパストラとメラニアをとても喜ばせた。


 喉が渇けばカフェで飲み物を頂きながらお話をして、また街をのんびりと歩く。

 そんなことをしていると、すぐに日が傾いてしまったようだ。

 楽しいことをしていると時間が経つのも早いわねと言葉にしたパストラに賛同しながら、今後の話をしていくイリス達だった。


「これから私達は、お願いしていたローブを受け取りにいくのですが、よろしければパストラさんとメラニアさんもご一緒しませんか?」

「そういえば、私達も保存食が切れていたのよね。追加しておこうかしら」

「うぇー……正直アタシ、あんなの食べたくないけど、仕方ないよねぇ……」

「随分と個性的なお味ですよね、あのお味は……」

「栄養価は高いと聞きますが、それでも私はもう食べたくはないですわね」


 はっきりと言葉にするシルヴィアに同意してしまう一同だったが、それに関しても考えていたイリスは言葉にしていった。


「それなんですが、冒険に必要になる保存食は私が作ろうと思っています。

 とはいえ、お肉くらいしか用意できないのが残念なところではあるのですが、フライパンで焼けて保存もできるパンも考えているので、ある程度は何とかなると思いますが、よろしければ作った保存食をお二人にもお渡しできると思いますよ」

「おぉー! イリスのお料理で保存食とか、絶対美味しいに決まってるねー!」

「あら、そうなの? ファル。ですが、なんだか申し訳なくも思ってしまいます」

「パストラ姉ー、アタシあんなのもう食べたくないよー。美味しいのがいいー」


 話に聞くと彼女達は、保存食をこれまで食べたことがなかったそうだ。

 特に彼女達は二人で冒険を続けているため、移動は乗合馬車が主となるらしい。

 となると、遭遇した魔物素材を同行している者達で分けてたとしても、十分過ぎるほど食材が手に入ることがほとんどではあるのだが、先日運悪く、食材が手に入らないことがあったそうだ。


「そういった時に限って魔物とも遭えなくってねー。一食だけ保存食を食べてみよっかって話をパストラ姉として試してみたんだー」

「これまで私達も保存食を食べることなく冒険を続けていたので、誰もがそう言葉にするという個性的な味を試して見ましょうかとなったんですよ」


 どうやらその考えそのものが大きな間違いであったことを、非常に強く感じながら後悔をしたようで、一口含んだだけで凄まじい衝撃が全身を駆け巡ったそうだ。

 興味本位で食すものではないと彼女達は悟り、以降は本当に危ない時にだけ食べましょうねという話を二人でしていたのだとパストラは語った。


「まぁ、食べ物を粗末には出来ないから、頑張って全部食べたんだけどさー。

 あんなモノ、人が食べるものじゃないってアタシ達は結論付けたんだよー」

「栄養価がとても高くとも肝心のお味が個性的過ぎて、私達にも合わなかったのよね」

「うんうんー。正直もう、あんなものは食べたくないくらい不味かったー」


 とても遠い目をしながら茜色に染まる美しい空を見上げる二人は、どこか達観した瞳をしているようにイリス達には見えた。

 冒険者用品店までの道でイリスは、保存魔法をかければ長期保存が可能となることを利用し、特製の干し肉を作りますよと言葉にしてシルヴィア達を喜ばせていく。

 絶大な評価を受けているその味を知らぬ二人にとって、一体どれほどまで美味しいのかと期待に胸を膨らませてしまうが、どうやらイリスはこれまでの旅で手にしてきたお肉の特性を考え、更なる高みを目指していると話し、シルヴィア達を驚かせていく。


「……あれほど美味しい干し肉を、更に高みにまで上げられると仰るんですの?」

「……信じられんが、イリスならば実現してしまいそうだな……」

「……俺にはもう、どれほど美味しくなるのか想像も付きません……」

「あの干し肉のお味は、保存に適しているとは思えないほどの美味しさを感じました」

「そうだねぇ、ネヴィア。あたしもあれなら毎日食べても飽きないや……」

「まだ考案中ではありますが、お肉に含まれる油分やお肉自体の風味を考えて、ブッフェルスの油身が少ないお肉を購入して作ってみようと思います。

 幸い、香辛料も十分にありますから、結構美味しい干し肉になると思ってますよ。

 ですが熟成時間は短くなるので、それほど凄い美味しさは感じないとは思いますが」


 以前の干し肉の味を知っている仲間達からすれば、今イリスが言葉にした内容の意味を理解することはできなかったようだ。まさかあれ以上に美味しいものができるのだろうかと疑問に思いつつも、どこかその美味しさを期待しているシルヴィア達だった。

 楽しみにしてて下さいねとの言葉に思わず胸が踊る仲間達と、期待に胸が膨らむパストラとメラニアは想いを馳せながら、その味を想像して思わずごくりと喉を鳴らせてしまっていた。



 "プラチナ雑貨店"まで来たイリス達は、お店の中へと入っていく。

 暫くすると店の奥から店主リースベットがやってきて、笑顔で挨拶をしてくれた。


「はーい、いらっしゃーい。ご注文の品は出来てますよー。

 あとは皆さんに着てもらって、微調整をするだけとなっておりまーす」


 とても嬉しそうに話す彼女からすると、他のものを見ることもなく自作ローブを気に入って買ってくれたイリス達に感謝をしているようで、すぐに渡せるようにと既に準備をしてくれていた。

 それぞれのサイズに合わせたローブを並べていき、着方も教えてもらって身に纏っていくイリス達。その様子を少しだけ後ろで見ていたパストラは目を丸くして頬に手をあて、メラニアは瞳をきらきらと輝かせながら眺めている。

 サイズ確認をするリースベットだったが、きらりと瞳を光らせて含み笑いをしながら言葉にしていった。


「むふふー、流石私ですねー。完璧すぎて手直しする必要もなさそうですー」

「本当に素敵なローブですわね。これは最早世界でも最高のものではないかしら」

「それにとっても暖かいです、姉様。優しい温もりを感じます」

「動きやすさも考えられていて、戦いも問題なくできそうですね」

「はぁー。さらさらあったかローブだぁー」

「あらあら、うっとりとしちゃって。皆さん素敵なローブですね」

「うわ!? パストラ姉! これほんとにすっごいローブだよー!」


 メラニアはうっとりしているファルのローブを触りながら言葉にて、パストラに触ってみるように話していく。

 促された彼女もその美しい白銀のローブに触れてみると、目を丸くしながら驚いてしまった。どうやら彼女達も旅先でこれほど素敵なローブを目にしたことがないようで、やはり世界でも最高峰のものであることは間違いないと思えたイリス達だった。


「パストラ姉! アタシこれ欲しいー! 絶対ここにしか売ってないものだよー!」

「確かに素敵なローブですね。でも流石に何着も用意できないんじゃないかしら」

「在庫としてはもうないけど、あと二着なら何とか作れる素材があるよー。

 ただ生地から作ることになるし、大きさもお姉さん達二人分なら作れる感じだねー。

 魔法付呪(エンチャント)を施すことも必要だから、一週間くらいはかかっちゃうよー?」

「待つ待つー! いくらだって待っちゃうー! ね!? パストラ姉!?」

「もう。子供みたいにはしゃいじゃって、メラニアは。……でも、そうね。こんなに素敵なローブは特注品で作らない限り、もう見つからないかもしれないわね」


 こくこくと強く頷くメラニアに、くすくすと笑ってしまうパストラは、二人分のローブをお願いする事にしたようだ。

 そのまま二人の採寸をしていくリースベットの仕事ぶりを、真剣に見つめるイリス。

 本職とも言える技術を持つ彼女の手際を目で学んでいるようで、その姿に微笑ましく思えた仲間達だったが、そうやって少しずつ学んでいったのだろうと考えていた。

 寧ろ、こういった技術に関しては、本で学ぶよりも目で見て学んだ方がずっと勉強になるんだよねとロットが言葉にすると、リースベットは採寸をしながらそれを肯定し、自分もそうやって技術を手にしたんだよと微笑みながら答えていった。


 本で学べることは非常に多い。

 それこそ、星の数ほど学べることがあるだろう。

 しかしそれも技術的なことになってしまうと話は別となる。


 例えば料理にも言えるかもしれない。

 調理法やレシピ、分量などを書物から学ぶことはできても、それをしっかりと技術として扱えるようになるには実際に触ってみなければ上達することはない。

 料理の得意なイリスではあったが、母の実演があってこその今の技術となる。

 それには相当の時間を費やした彼女ではあったが、そういった技術的なものに関してはある程度知識を深めた後は本ではなく、自身の目で見て学ばなければならない。

 これだけの素晴らしいものを作り上げたリースベットの技術となれば、たとえ採寸であろうと効率の良く素早い対応を見せていた。更にはそんなイリスに様々な知識を言葉にしながら採寸をしていく彼女の言葉は、イリスにとって非常に勉強になったようだ。


「こういった技術は覚えておいて損はないと思うよー。

 自作のお洋服とかも作れちゃうし、これはこれでとっても奥が深いんだー」


 真面目に聞いていたイリスの横で、シルヴィアとネヴィアもいつの間にかリースベットの言葉に集中して聞き入っているようだった。

 お姫様である二人が裁縫をすることもないのでは、とも思えてしまう先輩達だったが、これもガーデニングなどに通ずる趣味として服を作ろうと彼女達は思っているのかもしれない。

 そんな風に感じていた先輩達三人は、微笑ましそうに後輩達を見つめていた。



   *  *   



「それじゃー、一週間くらいしたらまた来てねー。

 調整もしなきゃいけないから一度来てもらわないとねー」

「うん、わかったー! のんびり待たせてもらうよー!」


 笑顔で答えるメラニアは、とても嬉しそうな表情を浮かべていた。

 あれだけ素敵なローブなのだから気持ちが高ぶるのも分かるが、本当に子供みたいねとどこか嬉しそうに見つめているパストラだった。

 他にも何かご入用ですかと笑顔で言葉にするリースベットに、イリスはお肉を多く扱っている専門店のような店はあるかと尋ね、彼女は行きつけのお店を教えてくれた。


「また何かご入用の際は是非、当店をご利用下さいー」


 笑顔で答えてくれた彼女にお礼を伝え、イリス達は店を後にする。

 さらさらすべすべの美しいローブを手に持ちながら、楽しげに街を歩いていった。

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