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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十五章 問題の存在
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"集う冒険者達"

 扉の奥にはゆっくりと弧を描くように、下へと続く階段が続いていた。

 それはまるで街の深部へと入っていく印象を受けるイリス達だったが、徐々に地下へ向かっていくとなれば否が応でも"あの場所"を連想してしまう。

 先程の男性兵士の様子から察するところ、あまりいい状況とは思えない。

 恐らくは、という推察は付くが、それを言葉にできずに歩き続けるイリス達だった。


 どうやら内部は随分と手をかけているようで、天井も三メートラはあるために窮屈な感じを受けないが、あくまでもここは鉱山への入り口であり、頑強な扉を設置するのに必要となる構造となっているのだろうとイリスは予想していた。


 しばらく階段を下りていくと、開けた場所に出るようだ。

 広々とした空間となっているらしく、多くの冒険者達がその場で待機していた。


 人数は目算で凡そ五十名ほどだろうか。

 それぞれチームを組んでいる者同士で固まっているような印象を受ける。

 その先には小さな街門のような見ただけで頑強だと分かる扉が設けられているようで、そこから鉱山へと続いているのだろうと判断した後輩達だった。


 イリス達が冒険者達の方へ歩みを進めていくと彼女達の存在に気が付いたようで、その場に待機している冒険者の多くはちらりと視線を向けてきた。

 初めはイリス達の(ドレス)に驚きを隠せないといった表情を見せていたが、それも先輩達の姿を見るまでだったようだ。

 すぐに視線はヴァンとロットに向かれていき、ざわざわと何やら話し始めていた。

 やはり彼らの存在は、リシルアを離れても有名だということなのだろう。

 それだけプラチナというランクが異質なのかもしれないと考えていると、一人の冒険者がこちらへとやって来て話しかけてきた。


 豹人種の男性で、ヴァンとの身長さを考えると百七十八センルほどの細身の方だ。

 胸部、腕部、足部に銀色の軽鎧を身に纏い、両腰には細めの剣が二振り携えている。

 目付きは鋭いものの、その口調はどことなくヴァンを連想させ、声色から優しそうな印象を受ける男性だった。


「久しぶりだな。ヴァン、ロット、ファル」

「グラート殿か。まさかこんなところで再会できるとは」

「お久しぶりです、グラートさん」

「おひさし、グラートさん。エグランダに拠点を移したの?」

「いや、たまたまこちらに来る機会があってな。そのまましばらく滞在はしていたんだが、依頼を受けることはなかった。あくまでも休暇みたいなものだが、そろそろリストールに戻らねばならないと思っていた矢先に呼ばれた、ということだな。

 しかし、まさかファルまで一緒だとは、これも何かの縁だろうか」


 顎に手を当てながら考えていた彼は、イリス達へと視線を向けて言葉にしていった。


「……そうか。ファルにも仲間ができたか」

「うん。毎日楽しいんだ。ありがとね、グラートさん」

「と、すまなかったな。自己紹介が遅れた。

 俺はグラート・ガラヴェッロという。見ての通り豹人種だ。

 ヴァン達とはリシルアの一件で知り合ってな。共に戦った戦友なんだ」


 つまりはガルド戦で活躍したリシルアの勇者のひとり、という事になるのだろう。

 そんな彼へと自己紹介を含む挨拶をしていくと、彼はファルへと言葉にしていった。


「余計な世話だろうがそれでも安心した。笑顔でいられるってのはいいことだからな」


 どこか嬉しそうに話す彼もまた、独りでいるファルのことが心配だったのだろう。

 理由が理由であるために話すことはできないが、それでも彼はその理由を尋ねる事はなかった。個人的な話には首を突っ込まないのが冒険者ではあるのだが、それを抜きにしても、ファルが笑顔でいるならそれで十分だとグラートは思っていた。


 だが、この世界は時として、不条理なことが唐突に訪れる。

 いつ起こるのかも分からない、偶然としか言えないような不幸な出来事が襲いかかる世界で、たった独りで冒険することの危険性を感じない者はいない。

 ファルもまた、独りを好んでいたわけではないが、そうなっていた以上、多くの者達に心配をかけていたのだろう。それを改めて再認識したファルだった。


「うん。ありがと、グラートさん。……そういえば、ブルーノさん達はいないの?」

「あぁ、あいつらは面倒臭がってな。話を聞くのはリーダーで十分だろうと、そこいらを散策しているそうだ。後で説明しなければならないから、二度手間なんだがな……」

「……相変わらず、こういった時だけリーダー扱いされてるんだね……」

「まぁな。あいつらは割と自由なところがあるからな」


 しょうがないなぁといった表情で言葉にしたファルに、瞳を閉じながら答えていく。

 実際には体よく面倒事を押し付けられたのだが、それを特に気にしていないようだ。


 メンバーである仲間達は獣人男性で構成されたチームで、血の気の多いリシルアにはそれほど思い入れはなく、拠点を転々と変えているのだと彼はイリス達に話した。

 現在はリシルア南東のリストールに居を構え、冒険者稼業を続けているそうだ。

 大きな国に所属していないことに、何か深い事情でもあるのだろうかと考えるシルヴィアの様子を察した彼はそれに答えていった。


「お前さんの言いたいことは何となく分かる。仲間達はゴールドだが、俺はプラチナでな。そういったことから、大きな国の冒険者ギルドに所属することは控えているんだ。

 特にリシルアにはいられないからな。あの件を終えてからは早々に立ち去ったよ」


 彼はリシルアの一件でロットが昇格するよりもずっと前からプラチナランク冒険者として活動をしているらしく、様々な街を気の合う仲間達と共に転々としているそうだ。

 大きな国に滞在することもあるそうだが、ギルド依頼を頼まれることが多いようで、なるべくならそういった依頼の少ない小さな街で過ごしていると話した。

 転々としているのに大きな意味はなく、ただの気まぐれで移動する事が多いらしい。

 どことなく猫人種に通ずるものを感じてしまうイリス達に、ファルはどこか嬉しそうに言葉にしていった。


「グラートさんの種族とあたし達猫人種は、遠い遠い親戚なのかもしれないねー」

「確かに。自由を好む猫人種と、どことなく似ているのかもしれないな」


 そんなことを話していると、後方から数名の人物が降りて来たようだ。

 先頭には高齢で細身の人種男性。続けてその部下と思われる中年女性二名と恰幅のいい中年男性が続くように歩いていた。

 高齢の男性はイリス達の方を見ながら目を丸くし、足を止めて言葉にした。


「話には聞いていたが、ヴァン・シュアリエとロット・オーウェンにグラート・ガラヴェッロか。更にファル・フィッセルも同行しているとはこれも女神の導きだろうか。

 いや、今それは重要な問題ではないな。この場に居てくれる幸運に感謝はしたいが。

 ……これから詳細を話すのだが、すまないがここに残って貰えるだろうか」

「こちらもそのつもりではあるが、仲間を連れている以上できることは限られる」

「俺らはリストールへ戻らねばならない。少々約束もあるのでそう長居はできないが」

「構わない。できれば参加して貰いたいが、まずは話を聞いてから判断して欲しい」


 男性の役職と置かれた状況について見当の付いたイリス達は扉の方へと進んでいく高齢の方に、あの国に所属している同じ立場の者とはやはり違うと改めて考えていた。

 扉の前へと辿り着いた男性は、こほんと咳払いを一つしたのち、話し始めていった。


「急な呼び付けにもかかわらず、これだけ多くの者が応えてくれた事に感謝している。

 ここにいる多くの者達は知っていると思うが、私はエグランダ所属冒険者ギルドの長を務めている、ランナル・フリークルンドという者だ。

 現在のエグランダに置かれている状況について、手短ではあるが報告する。

 詳細と質問については、追って横にいる者達が説明させてもらう。

 昨日、エグランダ鉱山八層付近に、危険種と思われる存在の痕跡が発見された。

 未だ推測の域を出ないが、ザグデュスである可能性が高いだろうと我々は判断し、諸君らを招集させて貰った次第だ」


 ランナルの言葉に、どよめきと困惑のざわめきが周囲を満たしていく。

 それを押さえるように右手を上げた彼は、自身へと意識を向けて静かにさせた。


「エグランダギルドはこれをギルド依頼とし、ザグデュスの討伐をお願いしたい。

 諸君らも知ってのように、七層まで魔物の存在は確認されていない。

 更には問題の八層も、本来であれば魔物が確認されていない階層となっている。

 魔物と遭遇せずに八層へ向かえると思われるが、危険種の痕跡を確認してからは封鎖されている。確実な安全の確保ができている訳ではない。警戒を厳に進んで貰いたい。

 尚、これは強制ではない。命がけとなる依頼故、自由参加とする。以上だ」


 そう言葉にしてランナルはその場を後にし、こちらへと向かって来るようだ。

 冒険者達は各々行動を取っていく。ギルド職員に詳細を尋ねる者、仲間同士で話し合う者、中にはその場を去る者達も少なくはなかったが、そんな彼らの瞳に宿る光はしっかりとしたもので、準備をする為に一旦引き返しただけだということがはっきりと理解できた。


 彼らはこの街の冒険者だ。

 そんな彼らがこの街の為に行動を起こさぬはずもない。

 この街に住まう冒険者であれば、危険種を放置などできるわけがない。

 それはすなわち、街が滅びることに直結してしまうのだから。

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