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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十五章 問題の存在
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"なってもらうんじゃない"

「……この街には、噴水や広場といった憩いの場所がないのですね」


 街を散策しながらぽつりと呟くネヴィアに、仲間達の視線が集まる。

 言われてみれば、この街にはそういったものが置かれていないように思えたイリス達は何故だろうかと思うも、恐らくはそういうことなのかもしれないと早々に考えが纏まったようだ。


「きっと街の成り立ちが鉱山を主に考えていたから、なのかもしれませんね」

「なるほどね。それなら納得できるかも。あたしはあんまり考えなかったことだけど、思えば広場がない街って世界中でもかなり少ないんじゃないかなぁ」

「そうかもしれないね。ほとんどの街にはそういった広場はあるから、ある意味では珍しい場所と言えなくもないんじゃないかな」

「私としては、広場や噴水といった場所は、憩いの為に必要な施設という認識が強いのですが、この街に住まう方達にはあまり必要のない場所なのかしらね」

「ふむ。そうなのだろうな。この街の鉱夫だけでなく多くの冒険者達が街の外ではなく、街の中(・・・)へと向かっていく傾向が非常に強く俺には感じられる。

 そういった者達にこそ憩いの場所が必要になるのではとも思えてしまうのだが、どうやらそうではないようだな。俺達には分からない何か他に理由があるのだろうか」


 そもそもこのエグランダは、鉱山で採掘できる魔石の原石によって潤っている街だ。

 その有用性も現在の世界では非常に高いと言えるのだが、それらを採掘するだけでも命がけなので正直なところ高い収益とも言い難い。

 実際に命を落とす冒険者は他の街と比べても残念ながら多いらしく、逆に言えばそれだけ危険手当とも言える報酬金が多く支払われているそうだ。


「……お金をたくさん頂いたとしても命はひとつなのですから、失ってしまっては何にもならないのではないかしら。……なんだか、やるせないですわね……」


 とても辛そうな、どこか物悲しそうな言葉が周囲に静かに響いていった。

 この街にある鉱山の魔物は非常に強いとイリス達は聞いている。その詳細は先輩達も行ったことがない為に分からなかったが、それでも高額の報酬と引き換えにするほど冒険をしなければならないのかと、どうしても考えてしまう後輩達三人だった。


 それだけの莫大な資金を必要とする人が、そうそういるとは思えない。

 中には本当に欲する者もいるのだろうが、それでも命を懸ける必要があるのだろうかと彼らには思えてしまっていた。

 エグランダで生計を立てている冒険者の多くがこの街を去り、その数を半減させたとしても街の収益としては落ちるだろうが、その分冒険者達が安全に行動することとなり、命を落とす可能性も下がるのではないかと考えてしまうイリス達だった。


 街には街のやり方というものがあり、それをいち冒険者であるイリス達が口を挟むことではないのも彼女達は理解している。

 そういった世界に生きる冒険者達を否定する気もない。


 それでも、命が奪われ続けてしまっている現状を嘆かずにはいられなかった。




 しばらく街を歩いていると、目的の店へと辿り着いたようだ。

 雑貨屋のような商品が置かれるこの眼前の店は、冒険者達が必要なものを専門に扱う店のひとつなのだと、先輩の一人が説明を始めていった。


「ここは、エグランダの冒険者達が足しげく通うお店のひとつでね。冒険に必要になる干し肉や乾燥パン、防具じゃない装備品なんかを売っているお店なんだよ。

 ここに来れば大抵のものは揃えられるから、あたしもここで次の街までの準備をするんだ。尤も、うちのパーティーの場合って料理ができるイリスがいるし、基本的に馬車の移動が主になるからこういった機会でもないと食材屋さんの方がたくさん行くみたいなんだけど、一般的な冒険者はこういったお店で保存食を買っていくんだよ」


 なるほどと頷きながら答えていくイリス達は、とても興味深そうにお店を見ながら言葉にしていった。


「そういえば、一般的な冒険者さんが拘ったお料理をする事はあまりないそうですね」

「折角の冒険なのに、お料理にも力を入れなければ楽しさ半減なのではないかしら」

「そうですね、姉様。私としては調味料を背負ってでも美味しいものを、とも思ってしまうのですが」


 思い付いたように言葉にするイリスと、半目で残念そうに言葉にするシルヴィア、そして苦笑いをしながら話すネヴィアに、先輩達は続いていく。


「馬車持ち、調理技術持ち、水属性魔法持ちだからな、うちのパーティーは。

 水を出すくらいなら修練を積めばできなくはないが、並の冒険者には馬車と料理に関して用意することは難しいだろうと俺は思うぞ」

「まぁ、普通はそうなんだよねぇ。

 あたし、正直みんなとの旅は快適過ぎて、幸せを感じるくらい楽しいよ。

 毎日世界がきらきらして見えてるし、こんなに冒険者やってて楽しかったことなんて、これまでなかったんじゃないかなぁって思ってるよ」

「そうだね。俺もいくらエステルに乗ってるとはいっても、これほど旅が楽しいとは思ったことがないよ。本当にとても不思議な体験をしているのかもしれないね」


 笑顔で言葉にしていく先輩達に連れられて、店の扉へと向かっていく。

 そんな中シルヴィアだけは、ファルの放った言葉が自身と同じものを感じていると知り、心から嬉しく思っていた。

 それと同時に同じ気持ちになれる彼女とであれば、新しい友人になって貰えるのではないだろうかと考え、それについておずおずと彼女へ尋ねてみるも、扉に手を触れたままきょとんとした表情でシルヴィアへと視線を向けたファルは答えていった。


「…………え? あたし達って、もう友達なんじゃないの?

 あたしはそのつもりだったんだけど、もしかしてそれってあたしだけだった?」


 思わぬファルの言葉に、同じような表情を返してしまうシルヴィアとネヴィア。

 何とも微妙な空気が流れている中、ファルは話を続けていく。


「同じ部屋に泊まっておしゃべりして、別のものをみんなで取り分けながら食べて、お茶飲んでまたお話して街を歩いてってさ、こんなこと本当に仲が良くなければ普通の冒険者はしないと思うよ。もうとっくにみんなとは友達だとあたしは思ってたんだけど」

「そ、そうなん、ですの? もう私達、お友達になれていたんですの?」

「あー、そうか。……うん、何となく二人の置かれてた状況が分かった気がした。

 あたしはきっとお姫様にはなれないね。大丈夫。あたしは二人とはもう友達だよ」


 満面の笑みで分かりやすく言葉にしていくと安心したのだろう。

 二人も満面の笑みになりながらファルに応えていった。

 そんな二人を微笑ましく見つめるイリス達は、二人が置かれていた状況を改めて考えさせられる。


 お姫様とは、斯くも大変なのだと。

 友人を作るというたったそれだけのことが、彼女達には困難になっていたのだと。

 そもそも友人関係とは、こんなやりとりでなるものではないと考えたファルは、それをはっきりと言葉にした方がいいと思い、二人に話していった。


「あのね。シルヴィアが話したように、友達はなってもらうんじゃないんだよ。

 友達ってのはね、いつの間にか自然となっているもんなんだ。

 お願いして友達になるってのは違うんだとあたしは思うよ。

 二人には少し難しいだろうけどさ、自分がその人と一緒にいて楽しいなって思えて、その人も同じように楽しそうにしていたら、それはもう友達なんだって思うんだ。

 ちょっと二人は特殊な事情があって気付き難いとは思うけどさ、自分の近くにいる人で笑顔で応えてくれている人の中に、そういった人もいるかもしれないよ」


 ファルの言葉を真剣に聞いていたシルヴィアは、そうなんでしょうかとどことなく不安気な声色で話すも、きっとそういうもんだとあたしは思うなとファルは笑顔で答えていった。


「年齢も性別も関係なく自分と波長が合ったり、一緒にいて楽しいなって思える人はもう友達だとあたしは思ってるよ。そんな難しく考えることじゃないんだよ。

 もっと単純に、思い詰めずに気楽に考えてみたらいいんじゃないかなー」


 そう言葉にしたファルは、どこか嬉しそうに笑いながら扉を開けていった。


 シルヴィアだけでなく、ネヴィアもまた同じような視線を自分に向けていた。

 真剣に友達になりたいと思ってくれていたことに、嬉しいと思わないはずもない。

 こんなにも自分を良く思ってくれていることに嬉しく感じつつも、どこかちょっと抜けている姫様達に微笑ましくも思えていたファルだった。

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