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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十五章 問題の存在
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"専用の土地"

 "灰簾石(かいれんせき)の寝台"を出たイリス達。

 外はまだ明るく、太陽の位置から察するに昼の鐘を少々過ぎた頃合となる。

 受付で仕事をしていたオラシオに鍵を渡し、現在は必要なものを買い揃えようと街を散策しながら楽しくおしゃべりをしていた。

 そんな中、シルヴィアは気になっていたことをイリスに尋ねていく。


「そういえば、灰簾石とはどんな石なんですの?」

「あー、それあたしも知らなかったなぁ。

 前にピラルさんに聞こうと思ってて、そのまま忘れちゃったのを今思い出したよ」

「何かの石材として使われるものなのでしょうか?」

「灰簾石とは、美しい緑色の輝きを放つ宝石の原石のことで、透明度の高いものは綺麗に加工され、中々の高額で取引されているのだと聞いたことがあります」


 そう言葉にしたイリスは、それについての話を始めていった。

 詳しくは未だ解明されていない鉱石ではあるが、その周囲には緑だけでなく、青や黄、紫やピンクといった色の原石も多数発見されているようで、一説によると全て同じ石でありながらも、中に含まれる成分によって色を変化させているのでは、という説を唱える鉱物学者もいるのだと言われている。

 この石はとても不思議な力が宿ると言い伝えられているそうで、持ち主を幸福にする力を秘めているのだとか。

 更には不安や恐怖心を取り除くとまで言われている石で、そういったところから宿屋の名前として採用されたのだと思いますよと、イリスはシルヴィア達に説明をした。


 相変わらずの博識っぷりに驚く一同ではあったが、それも段々と慣れてきたようだ。

 実際にイリスもそれについて学んだのではなく、様々な勉強の合間に読んだものだと言葉にした。流石に勉強するだけでは疲れてしまうので、そういったお休みとなる本を読むことも多くあったとイリスは話していた。

 今回話した知識も、休息がてらに読んだ本の一冊となっているようだ。

 そういった意味では、冒険にはあまり使えそうもない情報も数多くあるそうで、家具の修繕だったりガーデニングであったりといった知識も彼女は手にしているらしい。


「家具の修繕はおばあちゃんに喜んでもらう為に読んでいたものだったんですけど、結局使わずじまいの知識になっちゃいましたね。家具はそんなに傷まないですから。

 ガーデニングは完全に趣味ですね。いつかはお花を大切に育てて綺麗に飾りたいと思っていたので、どちらもそのうち役に立つかもしれないですね」

「家具の修繕はあたしもちょっとだけできるよ。これが中々に面白いんだよね。

 木々の切れ端を安価で手に入れてさ、家具なんかを作るのも楽しいよー」

「集落では俺も良く家具作りはしていた。これでも中々に好評を得ていてな、木材があれば大抵のものなら作れる。少しくらいなら教えることもできるぞ」

「あら、それは中々面白そうですわね。今度お二人に教わろうかしら。

 ガーデニングは難しそうですが、それならば私でもできる気がしますわ」

「うんうん、できると思うよー。とは言っても、木を切る道具とか色々と必要になるから、冒険しながら家具作りはちょっと難しいかもね」

「……剣でこう、スパっとできないかしら」


 右手を縦に小さく振り下ろすシルヴィアの仕草に、何とも言えない表情になりながらも答えていく三人だった。


「そ、その発想は、流石にあたしもできなかったよ……。

「でもなんだか、シルヴィアさんなら出来そうな気がします……」

「む、むぅ……。確かにできなくは……いや、俺には無理だな……」


 苦笑いしか出ないイリス達は剣でスパっと木材を切るシルヴィアの姿を想像するも、彼女には物凄く様になっているように思えてならなかったようだ。

 寧ろ、木を切る道具よりも遙かに上手く切り分けてしまうのではないだろうかと彼女達が思っていると、ネヴィアも言葉にしていった。


「私はガーデニングに興味がありますね。シャーロットお婆様も大変お好きですから、良くお婆様の庭園にお邪魔しては色々を教えていただいていました」

「ネヴィアらしい趣味だね。俺も一緒にガーデニングやってみたいよ。

 そっちの知識は俺にはないから、今度詳しく教えてもらおうかな」

「勿論です。是非ご一緒にお庭造りをしましょう。

 お花も季節によって変わりますから、無限大に楽しめると思いますよ」

「お城は広いですから、どこかの一角をお借りして何もない場所にゼロから作ってみるのも楽しいと思いますよ。耕して、種を植えて水をあげてと、毎日楽しい日々を送れると思います」

「是非イリスちゃんもご一緒しましょう!

 折角ですから、家庭菜園を作ってお野菜を育てても楽しそうですね」

「いいですね! 私、トマト育ててみたいです!

 ……あー、でも。お城の土地をお借りしちゃっても大丈夫なんでしょうか?」


 娘のように慕ってくれているとはいえ、血の繋がりもなければ王族でもないイリスにお城の貴重な土地を貸してもらえるのだろうかと考えていると、シルヴィアは大丈夫ですわよと言葉にした。


「少しくらいの土地など、問題ないと思いますわ。

 寧ろ、そこで作ったお野菜をお城の皆に振舞えば良いのです。

 母様にもイリスさんのお料理を食べてもらいたいですし、丁度いいですわ」

「お城のみんなに振舞うとなると、相当お野菜を作らないといけないんじゃない?」

「それならば、折角ですから皆さんでお野菜を作ってみませんか? 土地をお貸し頂けないのであれば、国内のどこかに皆さんで土地をお借りしてもいいと思います」

「いいね、それ。凄く楽しそうだ。それなら自由に作れるし、ガーデニングも出来るね。いっそ大きめの土地を借りて、そこで家具作りも出来るようにすればいいよ」


 ネヴィアの提案に乗っていくロット。

 それであれば様々なことができるようになる。

 パーティー専用の土地というものに魅力を感じてしまう一同は、それについての話をとても楽しそうにしていった。


 フィルベルグの地価はアルリオンほどではないが、エルマほど高くはないらしく、これまでの旅で貯めてきたパーティーのお金で、十分過ぎるほどの土地が買えるとロットは言葉にする。寧ろ、リシルアで換金した素材の代金だけでも、相当広い土地が手に入ってしまうかもしれないとロットは話した。

 ただ漠然とパーティーの資金として手にしてきたお金の使い道は、大きい買い物といえばツィードグラスくらいで他には生活費くらいしか使うことはなかったが、そういったものを購入するためにお金を使ってもいいんじゃないかなという話になっていくが、それでもとても使いきれるものではないなとヴァンは微妙な表情になりながら言葉にしていく。


大口(・・)の魔物討伐料があるからな。全く持って問題ないだろう。

 いっそこれまでの資金で、フィルベルグに拠点となる家を造ってもいいくらいだ」


 ヴァンの提案は何気ないもので冗談のつもりではあったのだが、その言葉にぴたりと足を止めてしまった全員は仲間達へと向き直りながら言葉にしていった。


「わぁ! 素敵ですね! "みんなの家"だなんて!」

「そうですわね! とても素敵ではありませんか!」

「それなら広いお庭と畑の土地を購入して、各々好きに家具作りもガーデニングも楽しめますね!」

「凄くいい考えですね、ヴァンさん。家も好きに家具を入れられるし、みんなでそれを作ることもできます。みんなで一から作るのも楽しそうです」

「何だか凄く楽しそう! それならあたしもフィルベルグに拠点を移せるし、みんなとずっと一緒にいられそう!」

「正直冗談のつもりで言葉にしたが、悪くないと思えてしまうな。

 寧ろいい考えかもしれない。それだけ近くにいれば二人も城から来やすいだろう」


 思わぬことからフィルベルグに拠点を置こうかと考えていくイリス達。

 それぞれの趣味に合わせて様々なことができる素敵な家をと楽しげに話していく彼女達は、再び歩き出しながらもそれについて語り合いながらこれから必要となるものを購入すべく、ゆっくりと足を進めていった。

昼の鐘は15時を知らせるものではありますが、フィルベルグとアルリオンのみとなりますので、エグランダを含む他の街にはそういった時刻を知らせる鐘はありません。

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