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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十五章 問題の存在
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"どれだけ先のことを"

先日のお話でドルトの場所がエグランダ北東となっていましたが、正しくは北西です。大変失礼しました。

 誰もがシルヴィアと同じ考えを持ってしまうのも仕方がないと言えるほど、レティシアの時代に存在していたリシルアやアルリオンからも相当離れた場所に石碑が置かれているようだ。


 その場所はこの街よりも遙か遠く、とても声の届くような場所だとは思えない。

 今回はそういったことなく正確な場所の知識をイリスに託してくれている。恐らくは最後にアルエナと逢ったとしても、同じようにその位置を伝えてもらえたのだろう。

 これは今現在に限ってのことなのかもしれないが、地図にすら表記されていないほど街から遠く離れた場所に石碑を置く理由などあるのだろうかと思ってしまうシルヴィア達にとって、レティシアが何を考えているのか全く理解することができなかった。


 それについてはメルンの知識から、その可能性のひとつを考えていたイリスは話していくが、それは先輩達でも予想が付いたことのようだ。

 恐らくという言葉は付く曖昧なものではあるし、その真意の大凡を未だ仲間達へ言葉にできないイリスには、"奈落"をその目にして欲しいとレティシアが思っているのではと話すことしかできなかった。

 イリスの言葉にした推察と同じように考えていた先輩達は、各々話していった。


「石碑があるという場所の周囲は現在の人には未知の場所となっているけど、石碑よりも北にあたるこの地域には、大穴と現在では呼ばれている"奈落"が存在している。

 きっとレティシア様は、"奈落"をイリスに見て貰おうとお考えなんじゃないかと俺も思ったよ」

「あたしもそう思うよ。噂でしか聞いたことがないけど、そういった場所があるって言われてるんだ。猫人種(あたしたち)の集落にも、アルト様が遺した言葉が伝わっているんだよ」

「俺達白虎にも似たようなことが伝わっている。尤も誰ひとりとしてそれを見たことがないし、距離も相当離れているから信じている者はほとんどいなかったが、リシルアに出てそれが本当にあるらしいという噂を聞き、驚いたのを今でも覚えている」


 そんなことを話す先輩達に目を丸くしていたシルヴィアとネヴィアは、それについて思わず尋ねてしまったのも当然なのかもしれない。


「……ドルトの先に広がるという"奈落"とは別のもの……なのですわよね?」


 まさかとは思いつつも、流石にその考えを否定しながら答えていくシルヴィアだったが、どうやらそれは間違いではなかったようだ。

 彼女自身もそれを感じ取った上での言葉だったのだろう。尋ねた彼女の顔色は悪く、イリス達四人には彼女がそうであって欲しくないと考えながら話していたと思えた。


 メルンはそれを『人がどうこうできるようなものではない』と言葉にしていた。

 同時に彼女の時代ではそう言われていたのだと、イリスは伝えてくれた。

 それだけ巨大な大穴という認識をしていた二人だったが、先輩達の話から察するところ、違った意味に聞き取れてしまっていたようだ。

 それを察したシルヴィアは言葉にならず、その答えとなるものを妹が話していく。


「…………"奈落"とは……そこまで大きく、広がっているもの……なのですか?

 私はドルトの先に大穴がある、という認識しか持っていなかったのですが……」

「ロットもファルも同じように聞いているのかもしれないが、俺の集落では北の大陸全土に広がるかというほど大地が抉れていると伝え聞いている」

「アルト様は『尋常ならざる巨大さに、人如きでは再現など不可能』ってお言葉を残しているんだよ」

「俺はドルト所属の先輩冒険者から話を聞いたんだ。その人は今も現役で冒険者を続けている凄い人でね。偶然アルバの酒場で逢うことができたんだ。

 十年近く前に行なわれたっていう大規模調査依頼にも参加してそれをその目に焼き付けた方で、その人から直に当時の話を聞くことができたんだよ」

「となると、ロットの情報が一番正確なところではあるか」

「そうだね。その目で見てきた人の言葉だからね。

 あたしもそれを直に見たことはないから、正直なところ話半分で聞いていたよ」


 その冒険者曰く、世界の果てのような場所だという印象を強く受けたそうだ。

 突如として広がるその光景に言葉を失ったが、実際に世界の果てではなく、遙か遠くには小さな山のようなものがうっすらと見えていたことから、大穴であることは間違いないと思ったのだとロットは聞いていた。


「……その人は、まるで果てのない暗闇の底に吸い込まれそうな気持ちになったと、とても難しい顔をしながら話していたよ。俺も実際に見たことはないけど、はっきりと想像できる気がしたのを今でも強く覚えているんだ」


 その冒険者はドルトからあまり出ることはないらしいので、街に行かねば旅先で逢うことはほとんどないと思われたが、それでも直接話を聞いてみたいと思えてしまうイリス達だった。


 "奈落"についての文献の類は、図書館にも置かれていない。

 世界最大所蔵数を誇るフィルベルグでも知ることはできなかった。

 イリスがその存在を知ったのは、メルンの知識によるものである。

 ごく僅かながら人々に広まっている知識は、大陸の北の方に底の見えない大穴がぽっかりと口を開けるように存在するといった程度のものであり、それも噂が噂を呼んだに過ぎないのだろうとイリスを含めた先輩達は思っていた。

 シルヴィアとネヴィアの二人がそれを知らずとも、なんら不思議な事ではない。

 正確な情報など、専門に研究している学者と一部の冒険者しか知り得ないのだから。



 何故、レティシアが彼女にそれを見せたいのかという疑問は残るが、きっと何かを考えてのことだろうとだけはシルヴィア達にも理解ができる。

 室内に沈黙がしばし流れる中、イリスは持論を言葉にしていった。


「レティシア様がどれだけ先のことをお考えなのか、私は勿論メルン様でさえ理解の及ばぬほど遠くを見つめているように思います。

 必ず何か大きな意味が含まれているとは思うのですが、現段階で憶測を言葉にすることは良くないと言えるかもしれません。未知の領域へと足を踏み入れるわけですから、まずは安全を最優先に考えてエグランダで準備をしていこうと思います」


 とはいえ、ファルの集落から北東を目指して進むことになる。

 村では店もなくはないが、売っているものは極々一般的な雑貨屋となっているらしく、食材の補充くらいしかできないよと彼女は話した。

 今よりも北に位置する場所がどのくらいの気温変化をみせるのか、正直なところ見当すら付かない。地形によっては急激な寒さを感じるようになる可能性を考慮して、マントかローブのような防寒具を手に入れなければならないかもしれないなとヴァンは言葉にした。


「俺達は寒さに強いと言われている種族でな。

 正直なところ、低い温度と他の者が判断していても気付き難いところがある。

 逆に暑さや匂い、音には弱いという弱点もあるが、今回に限っては問題ないだろう。

 イリス達はしっかりとした防寒具を買った方がいいかもしれないな」

「防寒具、ですの? それもエグランダで手に入るのかしら?」

「うんうん、大丈夫だと思うよ。寧ろウチじゃ真冬でも防寒具なんて買えないから、ここで手に入れて出発しないと戻ることにもなるかもしれないよ」

「そういえばロット様は以前、美しい青のマントを身に纏っていらっしゃいましたが、あのような防寒具を皆さんで用意する、ということなのでしょうか」

「あれは使わないと思ってフィルベルグに置いてきちゃったんだよ。

 防寒具なら旅先でも買えると思ったし、夏は暑いし戦闘の邪魔になるからね。

 それにそう高いものでもないから、必要に応じて買おうっと思っていたんだ」


 ヴァンがマントを羽織らないことと、冒険に出たのが寒さ対策の必要のない春だったこと、ひとりだけ目立ってしまうなどの理由から彼は付けることはなくなっていた。


 マントとは、身体に風を当てないために使われる外套(がいとう)のひとつだ。

 背中だけでなく全身を覆うものも数多くあり、防寒具として北では重宝されている。

 場所によっては風に当たるだけでも体温を著しく失う事になるので、こういった装備も時には必要になるんだよとロットは後輩達に教えていった。

 夏とはいえ、これから向かう先には必要になるかもしれないなとヴァンは話す。

 それも現地の地形次第ではあるがと付け加えて言葉にするも、やはり鎧の上から着られるものを買うべきかもしれないと先輩達は考えていた。

 

「必要ないかもしれないが、それならそれでいいだろうな」

「そうですわね。寒さのあまり来た道を戻るなど、時間が勿体無いですわ」

「各々食料品を持てるようなバッグも必要になりますね」

「それは最小限でも大丈夫かもしれないよ。

 魔物からお肉は手に入るし、野草なんかでも食べられるのはたくさんあるからね。

 イリスがいるから長期保存もできるし、干し肉や乾燥パンを持っての移動になるだろうね。……まぁ、そういうのはあんまり美味しくないと思うけどさ……」


 しょぼんと項垂れてしまうファル。

 普段イリスが作る美味しいものを食べているせいか、そういったものがあることですら考えもしなくなっていた先輩達だったが、本来冒険者とは、野営中でも料理とは言えないような質素なもので腹を満たすのが一般的だと言えるだろう。

 だからこそファルを含め、ツィード手前で出会ったホルスト達や、エルマで逢ったドミニク達が目を丸くしてイリスの料理を絶賛していたのだが、世間知らずとも言える三人の後輩はそれに気付くことはなかったようだ。



 今後のことを様々話し合っていく中で、エグランダにいる間に入手するべきものが徐々に固まっていく。

 ファルの故郷から先は安全を最優先に行動し、保存用の食料品が半分を切った時点で戻ることが決められていった。

 当然、何か異例の事態や不慮の出来事が起こった場合も同様に帰ることとした。


 中でも警戒すべきは魔物だろう。

 一体どんな魔物が生息しているのかですら定かでない以上、深入りは非常に危険なことは言うまでもなく、先程先輩達が話していた件も気になるところだった。

 場所が違うとはいえ、"奈落"の近くにいる魔物の危険性も考慮しなければならない。

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