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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十五章 問題の存在
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"愛でて大切にするもの"

「綺麗ですわねぇ」

「そうだねぇ。なんだかほっこりするねぇ」


 やんわりと優しく光る優しいランプに、ほんわかしながら見つめている二人。

 そんなシルヴィアとファルを、とても微笑ましそうに見つめる四人だった。


「……しかし、凄いランプになったな」

「ですね。世界にひとつだけかもしれませんね」

「やっぱり目立っちゃうでしょうか? 少し手を加えます?」

「とても素敵なランプですからこのままがいいと私は思います。姉様もファル様もとても喜んでいますし、これで完成でいいのではないでしょうか」


 そうネヴィアは言葉にするも、やはり少々目立つ気がしてしまうイリスだった。

 暗闇を照らし出す、とても美しくも優しい光。そんな暖かな光源に引き寄せられるようにエステルまでもが傍に来てランプを見つめるように目にしているようだった。



 あれから何度かランプに手を加えながら、目立たないようにと作り直したイリス。

 現在は野営中の、それも食後のお茶を頂きながら、いつものように楽しくお話をしている頃合となる。

 随分と出来のいいものを作れたとはイリスも思うが、実際に作って明かりを灯してみるとそれがはっきりと自覚させられてしまった。


「……やはり、目立ちますね……」

「……む、むぅ」

「こうして魔石の光をランプに通してみると、イリスちゃんの作ったお花が想像していた以上に美しく彩っていますね。とっても素敵です」

「確かに素敵ではあるんだけど、あまり街中では見せない方がいいかもしれないね」


 ロットの言葉にしたように、このガラスでできた美しい花のランプは、恐らく世界のどこにいっても買えないものなのではないだろうかと彼は考えていた。

 実際にイリスはガラス加工をしたわけではなく、"願いの力"を使って作り上げたものとなるそのランプは、一流のグラス職人でも作れるのだろうかと思えてしまうほどの出来栄えとなっている。

 しかし、"真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルース"による道具生成魔法を使わなかっただけでも、ずっと制限されたものを作れたのだとイリスは言葉にした。


「レティシア様の創り上げたこの力は、正直なところ手加減というものが出来ない魔法がとても多いんです。当時はそんな必要など皆無だったと思われるので、それも当然なんでしょうけど、それでも今の時代で普通に魔法を使って何かを作り上げてしまうと、この時代ではありえないほどの高度なものが作れてしまうんですよ」


 意外な所で"真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルース"の弱点を見つけてしまったように思えた四人だった。

 だが本来、手加減など全く持って不要だっただろう。

 当のレティシアでさえ、そんなことは想定すらしていなかったと思える。


 攻撃魔法であれば、込めるマナの量である程度の制限は利くように思われがちだが、実際に最低ダメージ量は一切変えることができない。つまり、手加減などできずに攻撃力をあげることしかできないということでもあるのだが、よくよく考えてみれば戦うための力に制限など必要ないと、レティシア達に断言されてしまうだろう。

 ましてや、メルンの知識に書かれていた言葉通りに表すのならば、所謂"対人戦"を想定した力となるのだから、"真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルース"に限らず言の葉(ワード)を使う者でさえも、そのような手加減など想定すらされていないだろう。

 込めたマナの量で勝敗が決する世界で、そんな悠長なことを言う者など存在すらしないかもしれない。一瞬の迷いが命を分かつ戦いなのだから、そんな言葉など使われていなかったとも考えられる。


 誰かの命の為に、別の誰かの命を奪う。

 そんな危険な世界に生きている人達が手加減などと思うとは、とても考えられない。

 当時の常識とまで言われるその考えは、本当に悲しいと思えてしまうイリス達だった。


「素敵な色だねぇ」

「素敵な色ですわねぇ」


 そんな重々しい空気を振り払う二人の言葉に、同じような表情でほっこりすることができたようだ。


「まさか、こんなにも気に入って下さるとは思ってもみませんでした」

「何を仰いますの。これほど素晴らしいランプなど、世界中探しても見つかりっこないですわと私は断言致します!」

「確かにそうだねぇ。いっそ最高品質のものを作っちゃえばいいんだよ。

 随分落ち着いた作りになっちゃってるけど、最初に作ったのは比較にならないほど素晴らしいものだったよ」

「……ファル、言ってる事が最初と全く違うぞ……」

「気のせい気のせい」


 笑いながら言葉にしたファルはそのままランプに視線を戻し、優しい光を放つとても美しい芸術作品を見つめていった。


 どうやら魔石の光は、その結晶体の加工によっても放つ輝きに変化があるようだ。

 それを作り上げるまで知ることはなかったイリス達だったが、できあがったその魔石から放たれる優しくも暖かな光がきらきらと様々な色を彩る光は、イリスの加工したペアシェイプ・ブリリアントカットが大きく影響していると思われた。

 花の中心部分となる魔石の加工具合と、それを覆う花弁が更に複雑な光を放つようで、イリスの想像していた以上に美しく輝くランプとなってしまった。

 これも一つの怪我の功名と言えなくもないのだが、思い付きで加工した魔石を含むガラスの花に、世界の人々は驚愕してしまうのではないだろうかと思えてならなかった。


 実際にはこれでも十分手心を加えたものとなるので、今現在の技術力ならば現実的には不可能ではないと自信を持って作ったはいいが、その輝きを見て考えは大分変わってしまっているようだ。

 正直に言うと、本当にこれで大丈夫だろうかとイリスは思っていた。

 シルヴィアとファルの言葉を借りるならば、これだけの芸術作品に手心を更に加えたり、魔石の加工をやり直したり、ましてやこれを作り変えるなど以ての外だと強く言われてしまった。


 ファルは始め、なるべく目立たないように作った方がいいとさえ一定他のにも拘らず、どうやらこのランプの光に魅了されてしまったようで考えが真逆になっていた。

 それだけの美しさを放つものになってしまったことは、イリス達にも十分理解できることではあるのだが、それでも本当にこのままでいいのかとも考えているようだ。


「……まぁ、街でランプを使わなければ特に問題にはならないだろうな。念の為、しまった方がいいとは思うが、それほど神経質にならなくてもいいのではないだろうか」

「そうですね。俺もそう思います。必要以上に使うこともないだろうし、こうやって夜営の時くらいしかランプは灯さないから、そう気にすることもないんじゃないかな」

「そうですわ! こんなに素晴らしいものを作り変えるなど以ての外ですわ!」

「これはイリスチームのお宝だよ! お宝は愛でて大切にするものなんだよ!」

「……ファルの発想は理解しかねるが、言いたいことは分からんでもない。

 確かに素晴らしいランプであることには違いないし、何となくではあるが、とても微妙なバランスを保ってこの光が出ている気がしてならない。あえてそれを壊すようなことはしなくていいのではないだろうか」

「微妙なバランス、ですか。……確かにそうかもしれませんね。私もこれを作る時の感覚はとても曖昧なものだったので、同じようなものを作れと言われても難しそうです」


 イリスの言葉に強く現状維持を訴えるシルヴィアとファル。

 それを苦笑いをしながら見つめるイリス達四人だった。


 結局、パーシフォリアのガラスランプは現状維持することがパーティーメンバーによって決められ、しっかりと保存魔法まで使った、もとい使わされたイリス。

 それでも少しだけ質を落としたいと思えてしまう彼女はランプを見つめ、不覚ため息を吐きながら諦めていったようだ。



 焚き火の木がはぜる音が周囲に小さく響く中、シルヴィアは何となく思ってしまったことを先輩達に尋ねていった。


「ランプの光に魔物が寄せ付けられる、ということはないのかしら?」

「その可能性はないとは言えないけど、もっと強い焚き火が輝いているからね。

 正直な所、魔物についての生態は未だ知られてなくて、光源もその一つなんだ。

 視界の中に冒険者を見つければ襲い掛かってくる相手も、焚き火の光は嫌う傾向を持っているんじゃないかと一部の魔物学者は考えているらしいよ」

「それは俺も聞いたことがある。あくまでもまだ確証の得られない情報らしいが、いくつか検証をした結果、焚き火にはあまり反応を示さないと結論を出したという」

「それは、とても不思議なことに思えてしまいますね。寧ろ、焚き火に引き寄せられると言われた方が、どこか納得してしまう私がいるのですが……」


 それに答えられるのは、世界でもイリスだけとなっていた。

 当然それには、レティシアやメルンの知識があってこそのものではあるのだが。


「焚き火には魔物は反応をあまり示さないらしいですね。

 そして遠くから人に襲い掛かるという理由にも、それは繋がるようです」


 イリスの言葉で考えが至った仲間達。

 そんな彼女達にイリスは説明をしていくも、その内容は世界にいる学者達には信じがたいものとなっているようだ。


「魔物はマナを取り込むことで生きていますので、とても強いマナを自然と身体から発している人に襲い掛かるのも、極々自然なのではとメルン様は結論付けたようですね」


 彼女の放ったものは、一般的には受け入れられないような内容となっているが、それも真実と言えるようなものを知ることができた仲間達には、極論とも言い換えられてしまうようなことを自然と受け入れ、納得していた。


 だからこそ、魔獣のような存在が生まれるのではないだろうか、とも思えてならなかったシルヴィア達だったが、それをイリスに問うことはできなかったようだ。

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