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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十四章 流れ落ちる想い
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"夢に見そうで"


 巨大とも言えるような、見上げなければ全てが見えない扉をくぐっていく。

 どうやらとても特殊な造りとなっているようで、扉の先には少々の空間を挟み、更に同じような扉が設置されているらしい。

 二重構造となるこの城門は、たとえ一つ目の門が突破されようとも、二つ目の扉で押さえられるようになっているのだろう。アルリオンとはまた違った二段構えの構造となるが、フィルベルグには扉はひとつしかなかった。

 安全を考慮するのならば、造るべきだろうかとシルヴィアは考えているようだが、頑強な城門を造るとなれば一体幾らかかってしまうのかと彼女は悩んでしまっていた。


 イリスは何となく上方を見上げてみると、あちこちに窓のようなものが設置されているらしく、ここから攻撃する事もできるようになっているようだった。

 たとえ危険種だろうが、ここから弓や魔法などの攻撃に耐えられるとも思えない。

 ガルド対策として造られたのだろうかと考えていると、兵士と思われる二人がこちらへと向かって歩いてきた。


 エステルを止めて、彼らを待つヴァン。

 その姿にぴたりと足を二人同時に止めながら、驚愕した様子を見せてしまう二人。

 犬人種(いぬひとしゅ)の男性と、狼人種(おおかみひとしゅ)の女性だ。

 二人とも同じような鎧を纏っているので、恐らくこの国の兵士なのだろうとイリス達は思いながら、やはり先輩達三人は相当有名なのだと改めて知る事となった。


「……ば、ヴァン・シュアリエ様に、ロット・オーウェン様!

 それにファル・フィッセル様までご一緒だとは! お逢いできて光栄です!」

「……む、むぅ。……様は付けないで貰いたいのだが……」

「とんでもございません! 私達からすれば皆様は雲の上の存在ですから、最大限の敬意を払うのは当たり前のことです!」

「……あはは……。とりあえず先に進んでも大丈夫かな?」

「はい! 勿論ですファル様! すぐに手配致しますので、もう暫くお待ち下さい!」


 憧れと尊敬が溢れんばかりに感じられる二人から、如何に彼らが偉大な存在となってしまったのかが伺えるような気がしたイリス達三姉妹だった。

 大体予想はしていたのである程度驚きは軽減されているが、それでもこう目を輝かせて熱い視線を送られている彼らを見ると、何となくこの国に居辛くなってしまったのだとも思えてしまう。

 おまけにリオネスの件があるから尚のこと、この国にはいられなくなってしまったのだろうと、シルヴィアは冷静に考えていた。


「……変わりないか?」

「はい! 特に変わりはございません! 

 ……そういえば、今からひと月ほど前になりますか。大きな地震が起きまして、街がそれなりにざわついたことがありましたね」

「……地震、ですか?」


 顔を覗かせたイリスは言葉にした女性に尋ねると、視線をイリスの方へと向けて女性は答えていった。


「はい、そうなんです。とはいえ、負傷者が出なかったのは幸いですが、お皿とか額縁とか、そういったものが結構被害にあったのだとか。

 私の実家でも、ちょっとお高いお皿が割れてしまい、母が嘆いていましたね」

「怪我がないのは何よりですが、そういった被害は辛いですわね」

「ありがとうございます、そう言っていただけると嬉しいです」

「この辺りは地震が多いのでしょうか」

「いえ、この国ではあまりそういったことは起きません。

 と言うよりも、俺はこれほど大きな地震を体験した記憶がありませんよ」


 ネヴィアの問いに答えていく男性兵士。

 普段起きないことが起きると、とても不吉に思えたり、何か意味があるのではと思えてしまうと男性は少々心配そうな面持ちで語っていた。

 実際にそれが何かを意味しているのかもしれないが、それを言葉にしたところで不安を煽るだけとなるだろう。下手なことは言わない方がいいと口を噤むイリスだった。


「街の方はどうだ? 何か変わりあるか?」

「……そうですね。……あぁ、リオネス様が嬉々とした表情で戻られて、とても気色悪、じゃなかった、すごく不気味でしたね。私、なんだか夢に見そうで怖かったです」


 その訂正は意味があるのだろうかと考えながらも、やはりそちらの件も波紋を呼ぶことになってしまうのかもしれないとイリスは思っていた。

 流石にあれだけの事を仕出かしてしまったのだから、そう遠くない内にこの国全体へと広まってしまうのだろう。先輩達の件もある。この国にはあまり滞在しない方がいいかもしれないと感じていたイリス達三姉妹だった。


「……ま、まぁ、なんだ。街が平穏なのはいい事だな」

「本当にその通りですね。ガルド以降、危険種も出現報告がないようですし、かなり静かだと言えると思いますよ」


 男性兵士の語ったガルドは、かつてこの国の周辺を襲った"リシルアの悪夢"と呼ばれた方の存在となる。ここでもう一匹とんでもないガルドが出現した、だなどと言葉にできるはずもなく、黙っているのが彼らにも、そしてイリス達にもいい事だろう。


 その名は、この国では悪名が高過ぎる。

 戦えない者は、その存在の名を耳にしただけで震え上がってしまうような、途轍もなく危険な存在として認識されている。

 仕方がないとはいえ、思うところがないとは言えなかったイリスは、とても寂しそうな瞳をしているのを横にいたネヴィアは切なそうに見つめていた。


 他愛無い会話をしていると、大きな音を立てながら徐々に街門が開かれていく。

 エステルが通れそうなほどの大きさまで開かれると、兵士二人は馬車の左右から街の方向を手のひらで示し、息を合わせながら言葉にしていった。


「「ようこそリシルアへ! どうぞごゆっくりとご滞在下さい!」」


 ありがとうと言葉にしたヴァンに、とんでもございませんと強く返されてしまい、再び苦笑いが出てしまっていたようだが、彼らの言葉に反論することなくエステルを歩かせていった。


 まずはすぐに左へと曲がり、厩舎に向かっていくイリス達。

 そこでも彼らは中々の歓迎を受けていたようだ。

 この国で、ヴァン達を知らぬ者などいないらしい。

 当然それは、あの戦いに参加した者達にも言えることなのだが、中でもヴァンは武勲だけでなくプラチナランク冒険者へと昇格してしまっている。

 更にはこの国で冒険者を続けていた経緯もあり、様々な点から有名な存在となっているようだ。それでもロットよりは落ち着いているのだとヴァンは答え、ファルも苦笑いをしながら答えていく。


「ロットは飛び切り目立っちゃったからねぇ。

 そんなつもりはなくとも、そうはさせない国ってところなんだろうね……」


 何とも微妙な空気を感じてしまうイリス達だったが、これが街の中心部へと行ったら一体どんなことになるのだろうかと思わずにはいられなかった。

 しかし、流石にそこまで開けた場所まで行けば、割と落ち着いた様子を見せるのではと彼らは答える。


「大きな場所へ出てしまえば、意外と話しかけてきたりはしないんじゃないかな」

「あたしとしてはその方が助かるけど、それでもなるべく目立ちたくないなぁ。

 ……帽子かぶって、尻尾隠せばいけるかな……」

「残念だが、俺達が目立ってしまっているから、あまり効果はないと思うぞ」

「既に街門で見つかってるし、ちょっと難しいんじゃないかな」

「うぅ、今更なのか……。仕方ない。覚悟を決めよう……」


 諦めがついたのか、どことなく元気になったファルはイリス達と魔物素材を持ち、まずはギルドで換金をすべく、街の中央へと向かっていくことにした。

 宿に関しては問題ないそうだ。

 大きな国である以上、それなりに宿屋は充実しているらしく、余程のことがない限りは宿泊客で埋まることはないと彼らは言葉にしていた。


 それよりもまずは魔物素材だろう。

 ここに来るまで数匹倒しているが、この周囲の魔物は少々大きい。

 フィルベルグ周辺の魔物と比べれば、かなりの大きさとなるため、パーティー全員で素材を持つこととなっていたようだ。


 当然報奨金もかなりの額になるのだが、それに関してこのパーティーでは、あまり気にしたことのない、会話にも出ないような話となっていた。

 イリス達は勿論ファルも少々特殊と言えるらしく、自身の装備を充実させる為にお金は使ったが、それ以降はまるで興味が失せたかのようにお金への執着心が薄れていた。

 実際シルバーランク冒険者ともなれば、魔物の報酬金で十分に生計が立てられるので、更に上のランクにいる彼女もまた、生活に困るような切迫した状況ではなかった。



 エステルに挨拶をしたイリス達は、街へと向けて歩いていく。

 この街までの旅路で、随分とまたイリスにべったりとなっていたエステルだったが、彼女達が見えなくなると納得したのか諦めたのか、美味しそうな草を捜し歩き、もしゃもしゃと食べ始めていった。


 イリス達は来た道を戻り大通りへと出ると、街の中央を目指す。

 残念ながら魔物素材の換金はギルドでしか行なわれていないので、街の中心部へと進むしか方法がなかったようだ。


 徐々に視界が開けてくると、初めて見るその光景に釘付けとなった彼女達三姉妹は、感嘆のため息を洩らしながらも瞳を強く輝かせ、その街並みの美しさに浸っていた。


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