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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十三章 ごめんなさい
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"役割を担う為だけに"


 そしてイリスはダンジョンの更に先の推察をしていき、メルンを大いに驚かせた。


「ダンジョンはマナを過分に含んだ場所であり、メルン様も推察していると思いますが、この星の中心に"マナを発生させるもの(・・・・・・・・・・)"が存在しているのではありませんか?

 そしてその影響を受けて"生命は生まれている"、ということではないのでしょうか」


 淡々と言葉にするイリスに、末恐ろしさを感じてしまうメルンだった。


「五層まで降りた程度の知識で、星の中心の事を察したのか……。本当に凄いな……。

 アタシはそれの存在に気が付いたのは、二十階層辺りにいた時だったんだが……」


 そんなメルンへとイリスは、あくまでも推察ですからと笑顔で答えて言葉を続けていった。恐らく確証を得られなくとも、確かなものを彼女は感じ取っているのだろう。

 その言葉に含まれる強さにメルンは驚愕しながらも、静かにその話を聞いていた。


「地下に降りれば降りるほど影響を受けやすくなる、より多くのマナが発生され続ける場所で、それを長年取り込み続けた魔物の強さが比例するように強くなる世界の先に、女神様が残された石版があるということは、つまりそういうことだと私は推察します。

 ですが、動物と魔物の関係性、地底魔物(クリーチャー)、魔獣、眷属の存在、そして魔法の薬草(マジックハーブ)に至るまで、これら全てに繋がってしまうと私には思えてなりません」


 彼女の鋭い推察に冷や汗すら搔いてしまうほど驚いていたメルンは、瞳を閉じながら深く呼吸を整えて言葉にしていった。


「……そうだな。その件についても、お前に話さなければならないな。

 その詳細はここを出る時に渡すアタシの知識に含めてあるから、今この場ではある程度は省かせて貰うが、大凡お前の推察通りで間違いないとアタシも考えている。

 しかしその先が大穴になっていた以上、それを目視で確認することはできなかった。

 ここからはあくまで推察に過ぎないが、恐らく間違いはないと最下層までの道のりで考えていた。

 それが存在するという仮定での話になるが、その存在をアタシは"(コア)"と名称した」



 コアとは、星の中心にあるマナを発生させる存在か、物であるとメルンは推察した。

 そこから発生されたマナは、動物に多大な影響を与えかねないと彼女は予想していたが、女神の残した石版から明確な答えを導き出すことができるようになった。

 それはイリスも同じように察することができたが、その内容はとてもではないが信じられないものとなる。


「……コアから発生されたもの、その影響を受けてしまうもの、これから起こり得る可能性を秘めたことを含め、本当にもう時間がないのだと私は思えてなりません。

 メルン様が先程仰った"凶種"ですが、これまでに遭遇した存在もその可能性が高いですし、地底魔物(クリーチャー)ではなく地上の魔物として出現している以上、石版に書かれている通りの状況へとなりつつあるのではないでしょうか。

 何よりも、いつその"現象"が起こるのかは、女神であるエリエスフィーナ様でも正確な予測が困難だとここに書いてあります。そして、力を貸すことはできないとも……。

 数千年後か、数万年後かは分かりませんが、それだけの長い年月を重ねて発生する可能性も考えられますが、私はもうひとつ気になることが、頭の中から離れないんです」

「……頭から離れられないこと?」


 彼女の言葉に、はいと小さく答えていくイリスは、とんでもない推察を口にする。

 イリスの言い放ったその言葉は、メルンですらも青ざめてしまうこととなるが、実際に彼女がその可能性に思いが至らなかったのではなく、正直なところ考えたくもなかったと、頭の片隅に追いやってしまっていた推察だった、という方が正しいだろう。


 だがイリスの仮説は、既にその域を超えるほどの現実味を帯びてしまっている。

 それを女神の石版に書かれたものが、立証してしまっていると思えてならない二人。

 当然この石版は、メルン達の時代とは程遠いほど古い時代に置かれたものであることは間違いないだろうし、何よりもこれはあくまでも仮説に過ぎない。

 しかし恐らくこれも事実であり、変えようのない現実となってしまうのだろう。

 そう確信するほどの信憑性を帯びたイリスの仮説は、メルンの瞳を閉じさせて深くため息を吐かてしまっていた。



「……アタシ達は、これをお前へと伝えるためだけに、存在していたのだろうか……」


 とても小さく呟くメルンの思わぬ言葉に、首を傾げてしまうイリス。

 一体どういう意味なのだろうかとも考えてしまう彼女が発したものに、思考が止まってしまっているようだ。

 そんな彼女に向かって、心情を吐露するように話を続けていくメルンだったが、その声色はこれまでにないほど弱々しいものだった。


 彼女は言葉にする。

 自分がいた時代に"想いの力"を持つ存在がとても多かったことを。

 そして力を持つ者達が自然と集まるように、苦楽を共にしていたことを。


 それは彼女にとって、悪いだなどと思ったことなどこれまで一度としてなかったが、ここにきてそれこそが女神の思惑だったのではないだろうかと感じていたようだ。

 全ては女神の手のひらの上で踊らされ、自分の存在意義そのものが真っ向から否定されてしまったようにもメルンには思え、無性にやるせない気持ちになっていた。


「まるでアタシ達が、未来に繋げる役割を担う為だけに存在しているみたいじゃないか……」


 そう思えば思うほど、これまでの自分が虚しく思えたと、彼女はぽつりと呟いた。


 だがイリスは、その考えを即答でもって否定する。

 いくら女神様が人をお創りになったのだとしても、そこまで人に介入することは絶対にないと彼女には言い切れた。直接顔を合わせて彼女の話を聴いたイリスにとって、それは絶対に違うと断言するだけの確証と強い意思を持って、メルンへと言葉にしていった。


「それは違います。メルン様の時代に"想いの力"を所持する者が多かったのは、魔法が発達し過ぎた世界だったからだと私は推察します。

 その育成方法も、魔法と言う力の凄まじさも。今の時代とはまるで違う世界とも言えるほどの力が扱われ、子供でも遊びに力を使うほどの世界では、"想いの力"を発現させる者が見つかりやすかったか、才能を目覚めさせる可能性が高まっていたか、もしくはその両方だと思われます。

 力を手にした皆様がメルン様の周りに集まったのも、皆様の意思に他なりません。

 この力を世界の為に使うことだって、強い意志と強大な力を正しく使おうとする皆様の心からきているものなのですから、そこに女神様の意思や力は介入していません。

 寧ろ、介入できないからこそ、石版に書かれている最悪の事態へと導いてしまっているのですから、メルン様達が成したことの全ては、皆様が選択してそれを成していった、とても尊い想いに他ならないと私は確信を持っています」


 明確に、力強く言葉にするイリス。

 そんな彼女にまるで救われるような気持ちになってしまうメルンは、どこか悲しみを秘めた優しい笑顔でイリスに返していった。


「……突飛な発想を言葉にすると思ったら、しっかりとした現実的な推察を口にするんだな、お前は。……だが、そうだな。……すまない。どうやら卑屈になっていたな」


 そう言葉にしたメルンは満面の笑みで、後で尻尾に抱きつかせてやろうとイリスへと話し、それを聞いた彼女の瞳をこれでもかというほど輝かせる。


 そんなやり取りに、二人は声を出しながら笑っていた。



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