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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第二章 想いを新たに、世界へ
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リシルアからの"手紙"

 

 そこに立っていたのは虎人種(とらひとしゅ)の獣人で、ロットよりも10センルほど背の高い男性だった。


 全身が真っ白な体毛で覆われて、黒いラインのような体毛が彼の個性を物語っており、その上から黒いハーフプレートアーマーを着ているようだ。輝きのある漆黒の鎧は、彼の身体の白さととても合っているように見えた。


 背中には大きくて長い槍のような斧のような物を背負っているようだ。2メートラほどあるだろうか。とても大きな斧で、先端にダガーのようなものが付いていた。


 色鮮やかな金色の鋭い目の奥には闘志が静かに漲っているようにも見え、イリスにはそれがとても力強く感じられた。


 ロットはそんな彼を見ながら、困ったように言葉を返していった。


 「ヴァンさん、よしてくださいよ、その呼び名は」

 「はっはっは、いやすまない。再会できたのが嬉しくてつい、な。10ヶ月ぶりか?」

 「そうですね、もうそのくらいになると思います。お久しぶりです」


 たくましそうな方だなぁと思っていたイリスは、ヴァンをじっと見つめてしまっていた。それに気が付いたヴァンは微笑みながらイリスに話しかける。


 「すまないなお嬢さん、怖がらせてしまって。虎人種(とらひとしゅ)を見るのはどうやら初めてのようだな」


 その言葉にはっとしたイリスはすぐさまヴァンに謝った。


 「す、すみません。人様の顔をじろじろと」

 「構わないよ。よく怖いと言われるからな。気にしなくていい」

 「?怖い、と言われるんですか?」


 きょとんと首を傾げるイリスに、うん?とヴァンは今までに無かった反応に戸惑うも、少々イリスに興味が沸き、自分の事をどう思うかが気になったので聞いてみることにしたようだ。


 「俺はよく怖がられるんだ。顔や体格、目つきの鋭さなどからな。お嬢さんには俺がどう見えたんだ?」


 そういうヴァンは、恐らく今まで言われてきた言葉が返ってくるとばかり思っていたが、どうやらイリスは違う見方をしているようだ。


 「えと?とても強そうな方だなと思いました。でも怖いとは思いませんでした」

 「ふむ?これはなんというか、斬新な答えだな」

 「イリスちゃんはこういう子なんですよ。人を見た目で判断をしないんです」

 「あ、名乗り遅れました。私、イリスと申します」


 お辞儀をするイリスにこれはこれはと言いながらお辞儀をしつつ自己紹介をするヴァン。


 「俺はヴァンと言う。ヴァン・シュアリエだ。虎人種(とらひとしゅ)白虎(はくこ)族と呼ばれる種族だ。よろしく頼む」

 「こちらこそよろしくお願いします」


 笑顔で語るイリスに少々驚かされたヴァンであった。その強さや身長の高さ、見た目のゴツさから、誤解されやすく避けられやすい為である。

 全員が全員そうではないとしても、それは関わったことがある者達だけであり、第一印象は大抵怖がられてきた彼であった為、この反応は初めてのようで若干戸惑っていた。


 「この反応は初めてだって顔になってますよ、ヴァンさん」

 「む?そうか、顔に出るほど驚いていたのか」

 「えぇ、初めて見ましたよ、そんなに驚いてるヴァンさんは」

 「まだまだ精進が足りないか」

 「カッコイイと思いますよ、ヴァンさんは」


 何気ないイリスの一言に目を見開いてしまうヴァンがそこにいた。


 「か、カッコイイ?俺がか?」


 この姿も見たこと無いなぁと、ロットは思いつつも口を出さないようにした。


 「え?はい、カッコイイと思いますよ。ロットさんとはまた違った良さが光ってると思います」

 「ふ、ふむ。ちなみにそれはどういった感じなのかを聞いてもよいだろうか?」


 ヴァンの長い縞々の尻尾が少し揺れているのにロットが気づき、嬉しそうだなと冷静に分析していた。


 「そうですね。例えるのなら、ロットさんは優しく静かに輝く月のような男性で、ヴァンさんは力強く照らす暖かい太陽のような男性でしょうか」

 「ほ、ほう。そうか。なるほど」


 どうやら縞々の尻尾がぴょこぴょこしているようだ。これはかなり嬉しいんだなとロットは思っていた。


 「すみません、勝手な印象を持ってしまって」

 「いや、とんでもない。感謝する。こういった事を言われたの初めてでな。少々戸惑ってはいるが、素直に嬉しいと思ったよ」

 「それなら良かったです」


 笑顔で微笑むイリスを見て微笑んでいたロットがヴァンに話しかける。


 「そういえば、こんなに遠くまで何かの依頼ですか?」

 「うむ。そうなんだ。少々厄介な案件を引き受けざるを得なくてな」

 「ヴァンさんがそこまで言う依頼なんですか」

 「そうだ。だが会えたのでな、これで依頼達成となる」

 「依頼達成ですか?一体何を―――」


 と言いかけたロットであったが、すぐに顔色が曇っていく。変わっていなければ現在のヴァンの拠点はリシルア国だ。それだけでロットが察するには十分すぎたようだ。その様子にきょとんとしているイリスと、理解して何よりだと言うヴァンであった。


 「そうだ。俺の受けた依頼は、ロットにこの手紙を届けることだ」


 そう言いながらヴァンは一通の手紙を手渡した。手に持ったまま宛先を見ようともしないで固まっているロットにまた首を傾げてしまうイリス。微妙な顔をしているロットにイリスが聞いてみることにした。


 「どうしたんですか、ロットさん」


 そう言われロットが、はっとしたように現実に戻ってきた。


 「え?あ、ああ、うん。えっとね、内容は開けなくてもわかると言うか、開けたくはないというか・・・」

 「?」

 「一応開けて貰わねば俺としては困るのだが」

 「・・・はい。わかりました」


 そう言いながら封を切っていくロット。手紙は一通でどうやら一言だけ書いてあるようだ。


 「やはり例の件か?」

 「はい。例の件です」


 どんな件です?という顔をしているイリスに気づき、ロットが答えていく。


 「実はリシルア国王からの手紙なんだよ」

 「こ、国王様からの手紙なんですか!?ロットさんすごい!」

 「う、うむ。凄いかどうかはこの際置いておくとして、正直面倒なのはわかるが」

 「そうですね、面倒ですね。何とかなりませんか?」

 「いや、俺に聞かれてもな。嫌なら放置していいんじゃないだろうか」

 「えぇ!?国王様のお手紙を放置しちゃだめなんじゃ・・・」


 その二人の対応に若干引いてしまうイリスであったが、二人は説明をしてくれた。


 「実はね、イリスちゃん。リシルア国の王様は実質権力を持っていないんだよ」

 「うむ。形だけの存在なんだ」

 「形だけの存在、ですか?」

 「そうだ。リシルア国の王は、4年に一度開催される武術大会の優勝者が王となる。正確には大会優勝者に現国王と勝負する権利が与えられ、一騎打ちで勝つことが出来ればその者が王となる仕組みなのだ」

 「その国王様って言うのが大の戦闘好きでね。俺はある事件で目立ってしまって、一度戦って欲しいとその国王様に言われているんだよ」

 「正直な所、ロットに何の益無(やくな)い事なんだ。勝っても負けてもな」

 「勝っても負けても、ですか?どういうことなんですか?」


 先ほどから疑問符が全く抜けないイリスにヴァンが話してくれた。どうやらそれは本当にロットさんにとって良い事がないようで・・・。


 「国王権限にはひとつだけ融通が利くものがあってだな、それが好きな相手と一騎打ちが出来る権利という物なんだ。正直ロットのような者には全く利の無い事で、もしも勝ってしまうとそのまま国王が入れ替わる仕組みになっているんだ」

 「えぇ!?それじゃあロットさん勝っちゃったら国王様になっちゃうの!?」

 「そうなんだよ、イリスちゃん。わざわざ負けるためにリシルア国まで行きたくないし、正直国王様とも戦いたくも無いんだよ。まぁ戦っても勝てるとは思えないんだけどね」


 ロットの言葉に若干腑に落ちないイリスにヴァンが教えてくれた。


 「現国王は過去4大会12年間無敗の男だ。しかもこの記録は文字通りの意味で12年間無敗なんだ。来るものは拒まずの精神の持ち主でな、街を歩くだけで喧嘩を吹っかけられ、その全てに勝利している。

 本来であればどっしり王座に座ったまま、大会優勝者が挑戦するのを待つものなんだが、その男は三度の飯よりも戦いが好きな戦闘狂とも呼ばれるほどの男でな。大会が無い時でも強そうなやつを見つけちゃ自分から喧嘩を吹っかけてるんだ。

 しかも大会になると、わざわざ一般参加者と同じように参加して、その上で優勝をしてしまう男なんだ」

 「そ、そんなに強いんですか」

 「いや、イリスちゃん、問題は強さじゃないんだよ」

 「うん?どういうことです?」


 どうやらその王様はイリスの想像の範疇を超えた人物のようで、イリスにとっては全く理解できない方のようだ。


 「問題はその男に目をつけられると、相手と戦うまで諦めないという執念深さの方にあるのだよ。おまけに気性がそれを加速させている」

 「それってつまり・・・」

 「うん。つまりね、イリスちゃん。一言でいうなら面倒な人(・・・・)なんだ」

 「勝っても負けてもロットに利がないのだ。勝てばロットは国王、そして勝つまであの男は再戦を繰り返すだろう。負ければ日を改めての再戦、と言ったところか」

 「でしょうね。困ったものです」

 「うわぁ・・・」


 そう言いながら血の気が引いていく音が聞こえた気がしたイリスであった。


 「ギルド依頼ではなく国王の勅命ではあるが、形だけの王である以上従う必要は無い。故に、ロットは手紙を読んだ上でリシルア国に行かねばいい、という事で良いのではないか?」

 「まぁ、そうなるでしょうかね」

 「大変ですね、ロットさん・・・」

 「うん。ありがとうイリスちゃん。本当に困った王様だよ」


 ふと手紙の内容が気になったイリスはロットに聞いてみた。


 「それでどんな風に書かれていたんですか?」

 「ん?手紙見るかい?」


 そう言ってイリスに手紙を手渡してくれた。内容はとても簡潔に書かれていた。


 『 リシルアで待つ 』


 宛名も書いてないけど、リシルア国の国璽(こくじ)と思われるものが押されていた。


 「ロットさんがリシルア国に行きたがらない理由がわかりました」

 「ありがとうイリスちゃん」

 「うむ。見た上で忘れると良い」


 微妙な空気が流れる3人にロットが話を切り出した。


 「それでヴァンさんはまたリシルアに戻るんですか?」



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