表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十一章 前に進め
277/543

"対応策と心の準備"


「それで、どうしますの?」

「そうですね」


 イリスは自身で描いた洞穴の構造(マップ)を眺めながら、シルヴィアへと話していった。


「……これだけ深い位置にまで落ちてしまっていると、登る事も出来ませんし、ロープがあったとしても引き上げる事は無理でしょう。となれば、私達もその場所まで落ちて、三人で上を目指すより他はないと思います」

「ダンジョンの構造から察すると、一応上へは戻れるようにはなっていますわね。

 ……それも、上にいるお二人の先に通ずるようですし」

「そこなんです、気になるのは」


 そう答えながらイリスは説明をし始めていく。


 洞穴の入り口に通じているのであれば、脱出は可能となる。

 だがそれは一歩間違えば、"地底魔物(クリーチャー)"が地上へと溢れ返ってしまう可能性を秘めているという事になるだろう。

 もしそんな事になれば、付近一帯が最悪の状況に見舞われるという事に他ならない。


 簡易構造(マップ)を枝で指しながら、イリスは詳しく説明していった。


「今現在、魔物の位置は、落ちた方がいる場所の付近に多数あり、そのほんの少し下の場所に恐ろしい数の反応で溢れています。

 仮にこの方のいる場所を階層として表すのならば、五層となるでしょう。

 ここから四層、ここが三、二と続き、出入り口となるここを一層とすると、徐々に上がるにつれ、魔物の数が少なくなっているようですね。

 三層まで来れば、以降の魔物はたったの二匹と極端にその数を減らしています」

「つまり、四層を突破出来れば、外に出られる可能性が非常に高くなるのですわね」

「はい。但し――」


 イリスは少々難しい顔をしながら、言葉を続けていく。


「この五層が非常に厄介だと思われます。

 魔物の数がとても多く、そのどれもが七匹から十二匹という多数の塊として反応しています。中には二十匹を超える数も……。

 広範囲索敵サーチ・ア・ワイドエリアで表示された印を構造解析ストラクチュアル・アナライズと重ね合わせて見ると、まるで重なり合っているようにも見える印が多数確認出来ますので、"地底魔物(クリーチャー)"には領域(テリトリー)が存在しないという話も、どうやら本当のようですね。恐らく体が触れ合っても、襲い合う事は無いのでしょう。明らかに地上の魔物とは異質の存在です」

「五層と四層の魔物の数はどれくらいですの?」

「四層は地上への最短経路で凡そ六匹。その内の五匹が四層中央となる位置の、この広い空間にいます。位置的に左右に二匹と三匹に分かれてはいますが、恐らく戦闘となれば気付かれる可能性が高く、五匹の"地底魔物(クリーチャー)"との戦いは避けられないでしょう。

 四層の全体で見ると、その総数は凡そ百二十匹にもなりますが、ここと、ここ。それにこちらの大きな空間に、その殆どがいるようです」


 枝で示したその場所は、脱出経路から大きく外れた位置となり、イリス達が通ると思われる場所まで行くには、網目状のようになった細い道を幾つも通らねば、辿り着けないようになっていた。


「安心は出来ませんが、これだけ細く入り組んだ道であれば、発見される心配はないと思えます。中央の空間を越えると、順調に行けば残りの"地底魔物(クリーチャー)"は三匹となりますので、ここを突破する事さえ出来れば、無事に地上へと出られる可能性が高まると思われます」


 続けてイリスは、作戦のいくつかを発言していった。


「ここで取れる策を二つ考えました。

 まずは真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースを使い、"地底魔物(クリーチャー)"との戦闘を可能な限り控えて進む方法。

 これであれば必要以上に危険な事なく、上層へと向かえる可能性がありますので、これが最善だと思われます。

 ですがこれは、真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースによる魔法の効果が効く場合に限り、と言わざるを得ません。現地で確認する事となる為、危うい可能性も秘めている事は留意して下さい。

 もう一つは魔物除けの薬を使いつつ、上層を目指す方法。

 この場合も魔法と同じように、効果がみられない可能性も考慮するべきだと思われます。薬が効く場合でも、"地底魔物(クリーチャー)"の反応次第で危険になる事も考えねばなりません」

「……つまり、押し出されるように上層へと"地底魔物(クリーチャー)"が向かう可能性や、脱出経路となる広い空間に溜まってしまう可能性ですわね」


 はいと短く答えたイリスだったが、それだけではなく様々な異例の事態を考えなければ危険かもしれないと、シルヴィアに言葉にした。

 例えば、魔物除けの薬が逆効果を与えてしまった場合や、魔物が興奮状態となりながらこちらに向かってきた場合などだ。

 異例を挙げればキリなどないが、それでも想定しておかねば危険に落ちいる場合も考えられる。出来る限りの対応策と、心の準備はしておく事が必要だとイリスは言葉にし、シルヴィアもそれに納得していく。


 危険だと思われるのは、予想外の出来事に取り乱し、冷静に対応が取れない事だ。

 そうなれば自分達だけではなく、要救助者ですら命を刈り取られる事となる。

 冷静に、慎重に。しかし、出来る限り迅速に行動しなければならない。


 だが、最も危険なのは四層ではなく、その下となる階層だとイリスは話す。


「……問題はこの五層と、その下である六層、そして更にその下層ですね」


 そう言葉にするイリスは、五層の構造を指しながら説明をしていく。

 要救助者がいる五層となる場所は、非常に複雑な構造となっており、少しでも脱出経路から外れただけで、魔物と遭遇してしまうような場所となっていた。

 想像するに、そこまで小さな道ではないように思えたイリスは、恐らく三メートラほどの大きさがある通路となっていると予測した。

 中には行き止まりとなっている通路も無数のようにあり、内部構造を理解出来なければ危険極まる場所となっている事は明白だった。

 そんな状況下での調査など、無謀だと断言ほどに危険な場所となっていた。


 五層の魔物総数は四層の比ではないらしく、軽く見ても五百は下らないと言葉にするイリスは、シルヴィアの思考を完全に凍らせてしまう事となるも、六層よりも下となる場所は、それどころですらないと警告を発していく。


「六層以下となる下層となると、その総数は軽く見ても八倍はいると思われます。

 ……正直なところ、恐ろし過ぎて数えるのも嫌なほどです。

 文献によると、地下に行けば行くほど魔物が強くなるとありましたので、その全てが相応の強さを持っていると推察します」


 思わずしゃがんでいたシルヴィアが、ぺたりと地面に腰を付けてしまうも、そんな彼女にイリスは言葉を続けていく。

 彼女の声は冷静さを持ったものであったが、その内心は信じたくない気持ちで一杯になり、出来る事なら間違いであって欲しいと、そう思えるものだった。


 しかしこれだけの規模のものとなると、過去に一例しか報告されていない。

 ましてや、これだけ多くの魔物が存在するダンジョンなど、一つしか考えられない。


「……ここは、"コルネリウス大迷宮"です。

 ……少々北西に位置する場所ではありますが、間違いありません」


 地面に張り巡らされた巨大な迷宮。

 その全貌は、イリスの使った構造解析ストラクチュアル・アナライズですらも途切れさせてしまうほど、途轍もない大きさのものだった。そして更に悪い事に、嘗てのプラチナランク冒険者達が到達し、退却を余儀なくされた階層は、三層だと言われている。

 百年以上前の事なので断言など出来ないが、たった数匹の"地底魔物(クリーチャー)"によって半壊されてしまった可能性が出て来た。若しくは、三層の"地底魔物(クリーチャー)"を倒し続け、何かとんでもないものと遭遇した可能性も考えられるが、そういった記述は一切なかったので、恐らくは前者だと思われた。


 それだけの強さを持つのだと理解出来たイリス達だったが、嘗ての彼らは充填法(チャージ)を使えない筈だ。そしてイリスには、この世界で唯一の技術である真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースがある。

 慢心する事も油断する事も出来ないが、これらを組み合わせていけば、救出する可能性が高まる事は間違いないだろう。だが……。


「……少し気になるのは、三層へと向かう細い道の手前にある、このとても大きな空間の中央に、"地底魔物(クリーチャー)"と思われる存在が一匹だけでいる事です」


 イリスが発した言葉に、シルヴィアはどきりとさせられてしまう。

 エルマで遭遇した、一匹目のギルアムを連想してしまったからだ。


 たった一匹で居る存在が、これほど不気味に思える事は無いと学んでいたイリス達は、それについての話もしていく。


「この"地底魔物(クリーチャー)"にも最大限警戒をして、上層を目指す事が必要だと思われます。

 目視で確認しなければ何とも言えないのが辛いところですが、まずは五層にいる方と合流しましょう」

「ええ。そうですわね」


 尚も腰が砕けてしまっているシルヴィアだったが、決意は一切変わらず色あせる事の無い、とても強い瞳をしているようだった。

 彼女の方から告げない限り、イリスがそれを言葉にする事は出来ない。

 それは彼女の覚悟と決意を穢す、恥ずべき行為となる。そんな事は絶対に出来ない。


 イリスはシルヴィアに、作戦の概要を話していき、すぐにでも彼女達は行動へと移していった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ