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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第九章 未来を創る為に
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"強固な外壁"

 

 遠くに見えて来たアルリオンに感激する女性陣。

 その姿に昔の自分を重ねてしまう彼らは、思わず微笑ましく彼女達を見ていた。


 だが十ミィルほど道なりに進んで行くと、違和感を感じるイリス達だった。

 それが何かは良く分からないが、もう十ミィルほど時間が経つとその違和感をはっきりと理解出来たようだ。


「…………えっと……」

「……着きませんわね」


 イリスとシルヴィアが思わず言葉にしてしまうのも仕方が無いだろう。

 エステルの歩みはゆっくりとしたもので、そこまで早くアルリオンに着くとも思っていなかったが、それにしては一向に近付かないように思えた彼女達だった。


 更に暫くの時間の後、イリスはどう反応していいのか分からずに戸惑っていた。

 シルヴィアは目に映るアルリオンを、半ば呆れた様子で見つめ、ネヴィアはぽかんと呆けてしまっているようだ。


 随分と進んでもまだ遠くに見えるアルリオンに、イリスはぽつりと呟くように言葉にした。


「…………大き過ぎませんか?」


 徐々にはっきりと見えてくるアルリオンの城壁と城門。

 どうやら城壁が二重になっているようで、まずは外側の城門を潜らないといけないようだ。その先は城下町のような建物は殆ど無く、広い敷地が内側の城門を取り囲むように、とても広大な土地となっているらしい。


 内側の城門を越えるとアルリオンの街となっているようで、その更に中央部には、巨大な大聖堂が空に向かって伸びていた。

 とても人が造ったとは思えないほどの高さを誇るその大聖堂は、まるで天上の世界へと行けるかのような高さを誇り、歩いて最上階に行くにも相当苦労しそうなほどの建築物となっているように思えた。


 何よりも驚くのは、大聖堂や城下町だけではなく、城壁に至るまで真っ白な石材と思われるもので建設されており、まるで見た者全てを魅了するかのような白亜の王国となっていた。

 そのあまりにも美しい統一感に、イリス達は完全に言葉を失っていた。


 美しく、まるで輝いているようにも見える、日を浴びて白く光る建造物。

 そんなアルリオンを見蕩れている彼女達に、ヴァンとロットは口にしていった。


「アルリオンはここから見えるように、大きな聖堂の周りに住宅が密集しているんだ。聖王国と呼ばれているし、中央にあるのはお城に見えると思うけど、あれでも修道院なんだよ」

「住宅の周りを巨大な壁で囲い、その先を農地や牧場として使われている。更にそれを護るように、巨大な壁で囲われた城砦都市でもあるな」


 ヴァンの言葉に、胸が締め付けられるように感じたイリス達だった。


 あれは人々を護る為の(もの)だ。

 凡そ二百五十年前の、あの事件から造られたものになるのだろう。


 例の報告書には、中央に(そび)える修道院までは破壊されなかったと書いてあった。

 逆に言えば、被害のほぼ全てが住宅や商店という事になるのだろう。


 魔獣に蹂躙され、破壊されてしまった街並み。

 そして多くの犠牲者と行方不明者を出し、世界中にも悲しみが広がるように、沢山の人が嘆いた忌むべき災厄。

 もう二度と同じ事を繰り返さない為にと巨大な城壁を建設した事が、痛いほど理解出来たイリス達だった。


 例え外側の城門を突破されたとしても、その場で戦い、撃退出来るように設計されている。

 だからこそ、人の住まない場所を造り、農地として空間を空けているのだろう。ここから見えるだけでも、住宅が設けられている場所と大きさが変わらないほどの広大な大地に見えた。


 これだけの大きさを誇る城壁を造るのには、一体どれ程の時間がかかるのだろうか。数年どころではないはずだ。下手をすれば、数十年単位の計画だったのかもしれない。

 魔獣に備えた空間の確保と同時に、人々の為の農場や牧場など、必要となるものを生産しているのだろう。


 そんな事を考えていると一つ目の城壁へと着いたようだ。

 見上げるほど巨大な壁に、思わず『ふわぁ』と可愛らしい声を出してしまうイリス。


「住民は凡そ五万人が暮らしていると言われているよ。商店や宿屋、飲食店も沢山あって、とても賑わいを見せている国なんだ」

「この地方には質のいい葡萄(ぶどう)が収穫出来てな。その葡萄で作った酒やジュースが絶品で、ここに来たら必ず飲むようにしている」

「種類もとても豊富で、甘いものから酸味の利いたものまで沢山あるから、自分好みの味を見つけるのが大変なくらいなんだよ」


 目を輝かせながら聞き入るように二人の話を聞くイリス達は、目の前に見えている一つ目の大きな門を越えていく。

 この門だけでも十分に立派な建造物と思えてしまうが、あくまでもこれは門らしく、凄まじく強固に造られたものなのだとロットは話した。


 基本的に日中は、馬車一台が通る事が出来る幅で、扉が開いたままらしい。

 危ないのではと思ってしまう女性陣だったが、常に監視を怠らない警備体制なので、何かあればすぐさま閉門出来るようになっているそうだ。


 特にここは南門となっている場所で、とても見通しがいい。周りは平原に囲まれ、森もそれなりに進まないと行けないような場所になっていた。

 商売をするにしても旅人が利用するにしても、エークリオへと向かうにはこの南門か西門を使うらしく、とても頻繁に利用される門なのだとロットが教えてくれた。


 アルリオンは内門と外門があり、今イリス達が越えようとしているものが外門と呼ばれたものになる。どちらの門にも東西南北に扉が設けられ、どこからでも出入りが出来るようになっている。

 そしてこの強固な壁を突破された事は一度たりとも無く、例え危険種であったとしても難なく撃退出来るほどの、途轍もなく頑強なものとして建造された。

 あの忌まわしき事件の教訓を学んだアルリオンの民は、破壊する事など絶対に不可能だろうと言えるような壁を造り上げていた。


 大きな城門を抜けるとそこには五人以上の兵士が常に警備をしており、すぐ近くには兵士達の宿舎があるようだ。

 とても大きな宿舎のようで、恐らく沢山の兵が常駐しているのだろう。フィルベルグ城にある騎士団の宿舎のように、近くに訓練場もあるのかもしれない。


 嘗ての事件を知りながらも彼らの様な勇敢な者達が、日夜アルリオンを守っているのだと理解出来たイリス達は、近付いて来た一人の兵士へと視線を向けていく。

 その者は馬車の横まで来ると、笑顔でイリス達を迎えてくれた。


「ようこそお出で頂きました。私はアルリオンの警備を任されているデニスと申します。日中は城門が開いていますが、夜間は安全の為に閉門しております。こちらから人影が見えましたら開門させて頂いておりますので、どうかご安心下さい」

「うむ。ありがとう。最近、何か変わった事はあったか?」

「いいえ、特にありません。有難い事に、とても穏やかな日々が続いております」

「そうか。何よりだ」

「このまま道なりに進んで頂きますと、内門へと辿り着けます。

 それではどうぞ、ごゆっくりご滞在なさって下さい」


 デニスは左手で内門の方へと向けながら笑顔で言葉にして一礼した後、持ち場へと戻っていった。


 そのままエステルを歩かせていくヴァン。

 周りには平原のように農耕地帯が左右に広がっていた。

 とても広大な土地に思えてしまうほどの大きさに、目を丸くするイリス達。


 この外門内にある場所では、アルリオンに必要なものを生産しているだけではなく、牧場まで造られている。

 西には果物を含むアルリオンの特産である葡萄が、東には小麦などの穀物などが、北には農場などの施設があるそうだ。南は葡萄と小麦畑が半々と、兵士達の宿舎が置かれていた。


 基本的に自給自足出来るだけの生産力を誇るので、あくまでも商人達が他の街への交易品として扱われているのは、葡萄酒などの特産品や魔物の素材、それらを使った商品が主となるらしい。


 特に葡萄酒は、アルリオンの特産と言われるものの中でも、一級品の扱いを受ける素晴らしい酒なのだと、ヴァンは楽しそうに話した。

 品評会と呼ばれる組織がこの国にはあり、毎年採れた葡萄で作ったものを味見し、その質を十段階評価で決めているらしい。

 ジュースにも言える事なのだが、作られる葡萄にもいくつかの等級があり、その出来栄えによって売値が激変するそうだ。


 特に葡萄酒は、歳月を重ねれば重ねるほどに上質なものとなっていくそうで、十五年以上寝かせたものがヴァンのお気に入りなのだそうだ。

 それでも当たり年と外れ年があるらしく、同じ品種の葡萄を同じように作っても、その年の気候によって全く違うものとなってしまうのだと話したヴァンは、とても楽しそうだった。


「聖王暦七百九十一年に作られた葡萄酒は中々に美味いな。あと数年もすれば、最高のものになるのではないだろうか」

「あの年は大当たりの年だったそうですね。俺はまだ飲んだ事がないです」

「それは勿体無いな。時間が空いたら付き合うぞ」

「楽しそうですわね。私達もご一緒させて頂こうかしら」

「ね、ねえさま?」


 声が裏返るネヴィアは姉を見てしまった。


「あら、良いではないですか。折角の特産品ですのよ? 一度くらい試してみたいですし、これも勉強の一環ですわよ」


 母のような口調で話すシルヴィアだったが、その瞳は興味津々のご様子でとても楽しそうだった。


 シルヴィアもネヴィアも酒を飲んだ事はある。

 これも淑女の嗜みのひとつと母から教わっていた事でもあった。

 そんなシルヴィアは、このパーティーで唯一酒を飲んだ事の無いイリスも誘っていく。


「イリスさんもご一緒しましょう。きっと美味しいですわよ」


 そう笑顔で話すシルヴィアだったが、内心では違う事を考えていた。

 イリスに酒が入るとどうなるか興味があるようだ。


 酒が入ると人の本性が表に出ると、シルヴィアは聞いた事がある。

 そんな状態でのイリスの反応に、とても興味が出てしまったシルヴィアはイリスを誘い、彼女も折角なので少しだけ頂きますと、少々乗り気のようだった。

 イリスも年齢的には酒を飲めるので、無理のない程度なら大丈夫だろうと考えるヴァンとロットだったが、ノルンやエルマではあまり機会が無かった事もあり、内心ではパーティーで酒を飲める事に嬉しさを感じているようだった。


「それじゃあ宿屋を取って、街を散策したらお酒を飲みに行ってみようか」

「うむ。楽しみだな」

「どんな味なのかしら」

「楽しみですね」

「お酒初めてなので、どきどきしてます」


 お酒の話に花が咲くイリス達。

 徐々に見えてくる内門は、先程の外門と同じような構造の、とても頑丈に造られたもののようだ。


 こちらの門は扉の半分が開かれているようだった。

 それでも何かあった時の為にすぐさま閉められるように、監視を続けているらしい。


 この内門にいる兵士達は、経験の浅い者達も多いそうだ。

 逆に外門には戦える事の出来る熟練兵士が待機しており、外門に配備される事は兵士である彼らにとって、とても名誉な事となる。そちらに配属される為に、この内門で経験を積んでいる兵士が多いので、年齢の若い者達が多く配備されているようだ。


 その中でも経験者と思われる兵士が、同じように馬車の横までやってきて、イリス達に笑顔で話し始めた。


「長旅お疲れ様です。私はこの内門の警備を任されております、ヨハンと申します。

 アルリオンは初めていらっしゃったのでしょうか?」

「俺達は何度かあるが、後ろの女性達は初めてになる」


 ヴァンの言葉に明るく微笑んだヨハンは、ようこそお出で頂きましたとイリス達に話しかけ、彼女達もそれぞれ言葉を返していった。

 そのままヨハンはヴァン達に向き直り、言葉にしていく。


「アルリオンについてのご説明はいたしますか?」

「いや、問題ない。ありがとう」


 その返しに笑顔でそうですかと答えたヨハンは、そのまま全員に話していった。


「それでは皆様、どうぞごゆっくりお過ごし下さい。

 ようこそ! アルリオンへ!」



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