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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第六章 託された知識
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"切れ者"

 

 シルヴィアの言葉にイリス達が続いていく。

 今後の目的となる大切な事についてだ。


「はい。石碑のひとつはアルリオンにある筈とレティシア様は仰いました。石碑の場所は各々好きな場所に置いているそうなのですが、ある程度近付けば今回のように声が届くようになっているそうです」


「アルリオンを目指すのは私も賛成です」

「俺も構わないよ。それに前々から街並みを見せてあげたかったし」

「うむ。俺もアルリオンは一度しか行っていないから、楽しみだな」


 快く受け入れてくれた仲間たちに嬉しく思うイリスは、話を続けていった。


「まずはエリーザベト様にご報告しないといけません。白紙本の件もありますし」

「そうでしたわね。まさかあの本が翻訳本だったとは思いも寄りませんでしたが」

「でもおかしいですね。その本はレティシア様が放っておいたものなのですよね? でしたら何故あんな場所にあったのでしょうか」

「それは愛ですわよ、ネヴィア。フェルディナン様が大切にしまっておいたのです。この本は、愛しいレティシア様のお作りになられた書籍ですもの」

「内容的にも大切なものではあるし、フェルディナン様が保管していたのは確かだと思うけど」

「しかし鍵付きの宝箱に入っていたのだろう? そんな場所に仕舞うだろうか? 

 それこそ、強力な保存魔法を込めてあるのだから、放っておいても問題ないだろう。何よりも魔法で細工がされている為に、レティシア様と同じ力を持つ者しか読めないぞ。

 今はイリスがいるから可能ではあるが、他の者には読めないのだったら、保管する意味もなさそうだと思うが」


 ヴァンの言う事も尤もだった。

 石碑に訪れたのはイリスが初めてだとレティシアは言っていた。つまり八百年は真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースを持つ者がいなかったという事だ。その強大な力を受け継ぐ者は、レティシアに認められた者だけだと彼女は言っていた。

 ましてや石碑に辿り着けない者が、その強大な力を自力で手に入れる事など、魔法書によって制限された今の世界で出来るとは思えない。


「これ程まで長い時間、力を持つ者が現れるとは思わなかったのでは……。いえ、違いますね」


 イリスは言いかけた言葉を止めて、推察を述べていった。


「フェルディナン様は解読本だと知った上で保管していたでしょうから、もしもの可能性に託したのかもしれません」

「もしも、とは何ですの?」


 シルヴィアはイリスに問い返すも、大凡の見当は付いていた。

 正直な所、言葉にするのも恐ろしいと思えるような平和な世界にいることを、彼女は改めて考えさせられていた。


 そしてイリスは推察を続けていく。


「戦争や何かしらの危機が訪れた時に備えて、解読本を後世へと残したかったのかも知れませんね。現に眷族が現れ、エデルベルグ王国は放棄せざるを得なかったようですから。読める者へと渡す為には、あえて隠し部屋に置いた鍵付きの宝箱に入れたのではないでしょうか。そうする事で白紙の本であっても、何かしらの意図があるものと思えるでしょうし」

「だとすると、王の読みは確かに当たっていたかもしれないね」


 ロットの言葉に納得するヴァンは続けて答えていった。


「ふむ。確かに眷属が現れ、適格者であるイリスがそれを手にする事が出来た。かなりの時間はかかったが、無造作に置かれた白紙の本であれば棄ててしまう可能性だってある。だが鍵付きの宝箱に入っていれば、そう思える者が多いだろう。

 中々先見の明を持つ切れ者だったようだな」


 だがそれも可能性はかなり低いと言わざるを得ないだろう。

 そもそも隠し部屋自体、見つけたのもイリス達だった。

 エデルベルグ城は現在、ダンジョン探索の際の注意事項を学ぶ為の、初心者用訓練場のような扱われ方をしている。調査隊が派遣されたのは十五年ほど前だと言うが、それ以前はそういった事すら行われていなかったようだ。

 レティシアの推察では、八百年と言う長い時間の中で魔法効果が続かなかったとではないかと予想していた。もし本が劣化してしまった為に調査隊が派遣され、書籍の類をフィルベルグへと移したのであれば、保存魔法をかけ直したのだろうとイリスは思えた。


 その件もエリーザベト様にお聞きしたいですねとのイリスの言葉に、シルヴィアとネヴィアが呟くように話していった。


「……本当に母様は一体いくつの事を隠しているのかしら」

「母様、抱え込み過ぎではないでしょうか……」


 母を心配する二人だったが、最近のエリーザベトはイリスが初めて会った頃よりも、とても楽しそうな表情を浮かべるようになっており、その姿は活き活きと過ごしているようにも思えるとイリスは感じていた。

 その事をイリスは話すと、シルヴィアとネヴィアは眼を丸くして驚かれてしまった。そして娘達にはそういった表情をあまり見せないとシルヴィアは言った。


「今年の三月(さんつき)の頃くらいになると、とても楽しそうにルイーゼさんと私の訓練にお付き合いして下さってましたよ」

「ルイーゼ様とはとても親しい友人の間柄なのだそうですから、母様も良い息抜きになったのでしょうね」

「……娘達ほったらかしてイリスさんの所に行っていたとは、流石に思いも寄りませんでしたわ」


 思わず半目になりながら答えるシルヴィアと、その様子を見て苦笑いしてしまう一同だった。


「そういえば、アルリオンに行くには乗合馬車に乗るのでしょうか?」

「思えば私もネヴィアも、移動は公用の馬車でしたものね」

「護衛依頼を受けながら別の街に移動するのが、冒険者には割と多いと思うよ」


 そう答えたロットに続き、ヴァンも言葉にしていった。


「俺がフィルベルグに来た時も、商人を護衛(ガード)しながらここまで来た。その時はエークリオから直接荷馬車で来た為に、少々長旅になったが」


 この世界についてもイリスは本で学び直していた。

 フィルベルグからエークリオに向かう道は馬車で移動すると、凡そ十二日はかかると世界の街を記した本には書かれていた。当然、天候や魔物の出現で大きく変わる事もある為、大体という曖昧なものではあったが。

 途中にある街は八日ほどで立ち寄れるが、位置的にはフィルベルグの北東にあたる。依頼者の意向により、エークリオからフィルベルグを最短距離を目指した為、長めと言える十二日の長旅になったのだとヴァンは言った。


 わざわざ途中の街を経由しないのには何か理由があるのだろうかと三人は言葉にするが、どうにも急な依頼をされたらしく、その依頼主である商人は急遽フィルベルグへと向かわねばならなくなったと、ため息混じりにヴァンへと話したそうだ。


「その者はエークリオにある大きな商館の中堅商人でな。取引先から大量に納品して欲しいと頼まれ、急ぎフィルベルグを目指したいと依頼して来た」

「随分な話ですわね」


 そうシルヴィアが言ってしまうのも、仕方がないのかもしれない。

 そもそも急な発注とはいえ、急いで納品しなければならない事態にはならないだろう。商人は命をかけて街を行き来するのだから、それなりの準備というものがある。それを無視して行き成り来いというのは、少々乱暴と言えてしまう。


 大きな商館では稀にそういった事も起こると、その者は言っていたとヴァンは話してくれた。


「今回は止むを得ない事情があったという事で了承したようだが、急にフィルベルグを目指せる冒険者などいなくてな。最悪の場合は商人達だけで向かうつもりだったらしい」

「そ、それは流石に危険では……」


 言葉にするイリスだったが、それはシルヴィアとネヴィアも同じ気持ちのようだった。


 商人は自衛程度しか戦えない者が殆どだと、イリスはルイーゼに聞いていた。その為に冒険者に依頼をして護衛をして貰うのが一般的だが、今回のような場合は誰も引き受けてはくれないのだと、その商人は半ば諦めていたそうだ。

 交易をするのも、護衛するのも、そして旅をするのも命をかける事だ。幾ら特別料金を貰える依頼だったとしても、準備なくして冒険に出る者など滅多にいない。それこそ近場で訓練をしようといった事でもなければ、そんな危険な依頼を受けるのは、よっぽどの訳ありの者くらいだろう。


 そんな時にヴァンは、エークリオで声をかけられた。

 元々フィルベルグを目指すつもりだったヴァンは、その商人の必死な様子に思わず力を貸してしまったのだと言うが、それには大きなリスクも伴う事であり、少々早計だったと今は若干後悔もしているそうだ。


「それでも放っておけなかったんですよね、ヴァンさんには」

「私なら流石にお断りをしておりましたわ」

「私でもお断りをしたと思います。お優しいのですね、ヴァン様は」


 女性陣には思いの外高評価のようで、思わず瞳を閉じてしまうヴァンだった。



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