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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第六章 託された知識
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"一角"

 

 冒険者ギルドを出て"森の泉"まで向かう一行は、目的地が直ぐ近くにあるという理由で歩いて行くことにした。

 みんなでぞろぞろと歩く様子に、すれ違う人は立ち止まりながら目を丸くしていく。流石に女王陛下と騎士団長がこんな場所を歩いていれば驚きもするだろう。しかも姫様方が武装した姿なのだから、驚かない方がどうかしていると言い切れてしまう。


 おまけに王国でもう知らぬ者はいないと思われる愛の聖女に加え、第二王女のフィアンセでありプラチナランクでもあるロットを連れ、フィルベルグに最近移住したヴァンでさえ、知る人ぞ知る有名な人物となっている。そんな有名人達がこんな街中を闊歩しているのだから、ぽかんと口を開けてしまうのも仕方がないことだろう。


 そんな様子を気にも留めず先頭を歩くエリーザベトは、イリスのバッグの件を考えているようだった。途中ルイーゼとああではないか、こうではないかと楽しそうに話をしながら歩いていた。


 家に戻ったイリスは扉を開けて女王達を先に入れていくと、カウンターにいたレスティは驚いた様子で挨拶をしていった。


「まあまあ、女王陛下がお出でになるだなんて」

「驚かせてしまいましたね」

「いえいえ、とんでもございません。何分狭い家ですので、碌なおもてなしも出来ずに申し訳ございませんが」

「どうぞお気遣いなく」


 笑顔で答えるエリーザベトと、頬に手を当てて驚きの表情を和らげていくレスティだった。


「ただいま、おばあちゃん」

「あらイリス、おかえりな――まあ! なんて素敵なドレスなのかしら! とっても良く似合っているわ、イリス!」

「ありがとう、おばあちゃん」


 ほんのりと頬を赤く染めたイリスは答えていった。

 それでねとイリスが事のあらましを説明していくと、レスティは少々驚いた様子で言葉にしていった。


「まぁ、そうなの? それじゃあ、お薬持って行かないといけないわね」


 レスティは女王とルイーゼに一声かけて、ぱたぱたと準備に小走りで二階へと行き、私も行って来ますねと一同に告げて祖母の後を追うイリス。二人が見えなくなってしまった店内を見回しながら、感慨深そうにネヴィアが話していく。


「ここが、イリスちゃんのお家なんですね」

「そういえば、私達はここに来るの初めてですわね」

「姫様達はいつもお城のガゼボでお茶を飲みながらお話してましたからね」

「そうでしたわね。思えば街のお店に入ったのも初めてですわ」


 目を輝かせながらとても楽しそうに店内を見回していくシルヴィア。彼女たちにとっては素敵で可愛らしいお店に見えたようで、その表情はとても楽しそうだった。


 そんなシルヴィアはある場所を見ると、ぴたっと止まり固まってしまった。

 その様子を見たネヴィアは不思議に思いながら姉に声をかけていく。


「姉様? どうされたので――」


 シルヴィアの視線の指す方向へ目を向けたネヴィアも固まってしまう。

 その二人の思惑をロットは察したようで、その説明をしていった。


「……あぁ。あれはレスティさんが作った特別販売スペースらしいよ」

「む、むぅ。俺はまだ慣れないな。ここに来るといつも見てしまう」


 カウンターの左にある壁側にとある販売スペースが設けられていた。調合部屋とは逆に位置したその場所は、とても目立つというか、異彩を放っている空間となっている。

 その一角は、木の板を様々な色で塗ってある文字で一文字ずつアーチ状に組み合わせて作られた、手作り感の溢れる特別な販売スペースになっていた。


 そこには文字でこう書いてある。


『 可愛い孫が丹精込めて作った

     愛のポーション    』


 左上には『すごい!』と、そして右上には『高品質!』と書かれていた。

 何ともその空間だけ凄まじい違和感を感じてしまう。気のせいか眩しくも見えた。


 これを張り出した当初、ロットもその場に居合わせてしまい、イリスとレスティが様々な言葉の応酬を繰り広げていた。

 イリスは恥ずかしいからやめてと顔を真っ赤にしながら懇願し、レスティは折角イリスが作ったポーションだもの、しっかり宣伝しなきゃだめよと笑顔で否定していた。

 どちらも主張を譲らず膠着(こうちゃく)状態が続いていたらしい。


 その場に来てしまったロットにその判断を委ねられそうになったが、タイミングよく(いやイリスにとっては悪くだが)来客した中年女性がその特別販売スペースを見て可愛いと言ってイリス製ポーションを買ってしまい、レスティの意見が今も尚続いているのだそうだ。


 しばらくイリスも抵抗していたが、その直後レナードに見つかってしまい、いいじゃねぇかと笑顔で言われたイリスはそれ以降諦めたという。


 年齢の近い女性二人がこの場にいるので、ロットはこれについて聞いてみようかと思ったが、聞かずとも答えは出てしまっているようだ。イリスの友人二人はとても白い目でその場所を見つめていた。続いて『イリスさんも大変ですわね』とシルヴィアが呟き、ネヴィアは瞳を閉じながら苦笑いをしていた。


「その時のイリスさんの表情が、はっきりと見えるようです」

「流石に私だったら恥ずかしくて堪りませんよ」


 そんな事を口にしたエリーザベトとルイーゼだったが、エリザはふと置かれているポーションに張ってあるラベルを見て、思わず言葉にしてしまった。


「…………愛のライフポーション、愛のマナポーション、愛のスタミナポーション、愛の自然回復薬、こちらも愛の、あちらも愛の、どれも愛の……」

「うぅっ……」


 それを以前から知っているルイーゼは涙を止められず、目線を逸らしてハンカチで口を覆ってしまった。そんな彼女を見たシルヴィアは、流石にそれ程までの事ではないのではないかしらとルイーゼを見つめていたが、涙を流しながら彼女は声を震わせながら言葉にしていった。


「おいたわしや、イリスさん……」


 そんな遣り取りをしていると、イリス達が戻って来たようだ。


「すみません、お待たせしましって、ルイーゼさん!? どうされたんですか!? 何かあったんですか!?」


 驚くイリスにきょとんとするレスティ。

 そんなイリスにルイーゼは小さく告げていった。


「…………本当にご苦労様です」


 その言葉に察したイリスは驚いた顔から苦笑いに変えて、もう慣れましたからと答えていった。


 *  *   


 右の腰にバッグを持ったイリスはレスティに挨拶をしていく。

 目的地は近いが夜になってしまったらそのまま一晩外で過ごすので、もしかしたら帰ってくるのは明日になるかもしれないよとイリスは再びレスティに告げ、それを彼女も了解していった。


「それじゃあおばあちゃん、いってきます」

「いってらっしゃい、イリス。気をつけてね」

「うん!」

「皆さんもどうかお気をつけて」


 それぞれに言葉をレスティにかけて、ギルド前に止めてある馬車に向かっていく一同はこのまま街の外まで馬車で移動し、そこから歩いて行くことになる。流石に女王がフィルベルグの街中を堂々と歩いて行くのは問題があるだろう。

 姫様達は今はまだ冒険者登録を済ませたばかりの為、しばらくは時間がかかるだろうが、冒険者からの人伝てでその内自然に広まっていくだろうと、落ち着いた様子で予想するエリーザベトだった。


 流石にこの大所帯で馬車に乗り込むのは人数的に少々厳しいが、一応この馬車は要人が乗るような大型の馬車なので乗ることは出来るようだ。


 城門を出たところで馬車は止まり、一同は降りていった。


 エリーザベトとルイーゼはここまでとなる為、ここまでありがとうございましたとお礼を言うイリス達と、それを笑顔で答える二人だった。


 エリーザベトとルイーゼは、三人に言葉をかけていく。


「イリスさん、シルヴィア、ネヴィア。貴女達は冒険者です。心の赴くまま冒険を楽しみなさい」

「お三人はとても強くなられました。だからといって油断は禁物です。何が起こるか予測など出来ないのですから。ですがどんな困難であっても、皆が力を合わせればきっと何とかなります。頼もしい先輩方が二人も付いて下さるのですから」

「「「はい!」」」


 そしてエリーザベトは、ヴァンとロットに向き直り、言葉にしていった。


「ヴァンさん、ロットさん。どうか娘達三人(・・)をよろしくお願い致します」


 深々とお辞儀をするエリーザベトの気持ちに、ヴァンとロット応えていく。


「最善を尽くします」

「必ずお守りします。この盾に誓って」


 背中の盾を外し、装備してエリーザベトに見せながら誓うロットにヴァンもそれに習い、言葉を続けていった。


「ふむ。盾に誓う、か。ならば俺はこの斧に誓おう」


 背中に付けていた戦斧を外し、地面に斧を付けながら誓っていくヴァン。

 何とも頼もしい者達に心からの感謝をしながら、エリーザベトは表情を隠すことはせず、満面の笑みでそれに応えた。


 走り去っていく馬車を見送り、一同は新たな仲間と共に再び古代遺跡へと目指していった。



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