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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第六章 託された知識
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"姫騎士"

 

 何となく気になったイリスは、鎧にも名前があるのかと二人に尋ねてみたが、剣に名前は付けるが、鎧の方に名前を決めることはしないのだそうだ。言うなればエレガントドレスアーマーというそのままの名前らしい。


 早速身に付けてみて下さいと女王がイリスへと伝えていき、国王はゆっくりと執務室から退室していった。少々慌てながら別の場所で着替えますのでと言ったイリスにロードグランツは、構わないからここで着替えなさいと笑顔でイリスに告げていく。

 とても申し訳なさそうに国王の退室していく後姿を見つめていたイリスにエリーザベトは、部屋の外で待機してるはずなので、(ドレス)に着替えてグランツに見せてあげて下さいと微笑みながら答えてくれた。


 イリスは着替えようにも鎧の着方は分からないため、ルイーゼに教えて貰いながら着替えていった。どうやらこの鎧は着易い服の上に合わせていくものらしい。一緒に用意して貰っていた肌着と動き易い服に着替えていき、足から防具を付けていった。

 胸部から付けると足を付ける時に邪魔になるそうだ。今回は教える為に足から付けていったが、着るのに慣れていけばどこからでも装備出来るものらしい。


 イリスが着替え終えると、室内にいたメイドたちから感嘆の声をあげられた。そんな声に頷きながらエリーザベトとルイーゼは隅々まで(ドレス)を調べていく。

 彼女の為に作られた物ではあるが、本来であれば細かい所で調整が必要となるものとなる。だがどうやらルイーゼの見立てはばっちりだったようだ。


 まるでイリスに合わせながら作っていったような完璧な仕上がりに、エリーザベトも驚いてしまう。毎日のように顔を合わせていたので、イリスの成長も考えた上で作っていったのだそうだ。そちらの才能もあるのではないかしらとエリーザベトが話すも、ルイーゼは相手をじっくりと長期間見続けていないと無理ですねと苦笑いで答えていった。


 その(ドレス)は金属でありながら、まるで重さを感じないとても不思議な素材だった。

 鋼などの合金であればかなりの重さになり、流石にイリスでも動けなくなってしまうと思うのだが、これはどういう事だろうか。

 そんな気持ちを手に取るように察した二人は笑顔で答えていく。


魔法銀(ミスリル)製ですから軽い筈です」

「ええ。これであれば強度も重量も、イリスさんなら問題無く持てるはずですよ」

「これが魔法銀(ミスリル)……。凄く軽くてびっくりです」


 鍛える前のイリスさんであれば流石に動けなかったでしょうねと、笑いながらルイーゼは答えた。確かに以前の彼女ならロットの盾を持つだけでぷるぷるとしていたくらいだ。それ以上となる重さを軽く感じるだけイリスは成長しているという事なのだろう。


 そしてこの鎧はエリーザベトとルイーゼの渾身の作品となっていた。そのデザイン性だけではなく、何よりも動き易さを重視した作りとなっており、広がり過ぎないスカート部分の作りが一番拘っているのだとか。

 何度も何度も協議を重ね、仕事の合間を見てはひたすらこの動きやすさを重視しながらも、見た目を妥協する事無く作り上げていったそうだ。

 文字通り寝る間を惜しんで開発したのだとか。それもたったの2ヶ月で仕上げたのだという。それは女王がイリスの成長具合を見に行き、驚愕したその日からルイーゼと協議を重ねていったと聞かされ、驚きを隠せないイリスだった。どうやらイリスのあの姿を一目見ただけで、凄まじい領域にまで成長するとはっきりと分かった為、急いで作り始めていったのだとエリーザベトは語った。


 イリスは左腰に剣を付けて貰った。剣帯になると皮製の物となり、折角の純白の(ドレス)が台無しになってしまうとの意見から、腰部に直接付けられるような仕組みに改良されているのだとか。当然、動いただけで外れるような仕組みではないが、外そうと思えば簡単に外せるのだそうだ。

 これにより剣による斬撃と、鞘による打撃の両方が使えるようになった。尤も、魔法で身体能力を上げての攻撃をすれば、剣を抜かずとも鞘で事足りると思われるのだが。


「確かに皮製となると折角の上品な(ドレス)が台無しですからね。流石エリザです」

「これならばデザインを損なう事無く、剣を持ち運べます」


 鎧の胸部も盾のように丸みを帯びており、胸を強調する事無く全体のバランスを引き立てていた。


「身体のラインを強調し過ぎると品が無くなります。態々(わざわざ)胸の形に板金を作る必要もありません。イリスさんはまだ成長期ですからね。普通の体系であれば太って見えますが、イリスさんは華奢ですから丁度いいバランスを保てていますね」

「寧ろこの鎧で丁度良く見えますね。素晴らしいですエリザ」

「ルイーゼの見立てがあってこそですよ」

「いえいえ、エリザの美的感覚(センス)には勝てませんよ」


 お互いに微笑み合い、笑い合う二人。

 とてもいい仕事をしたと満足そうだった。


 執務室に残っていたメイドに国王を呼びに行かせ、ロードグランツが見たイリスの姿は、どこから見てもお姫様が武装した格好となっていた。とても似合うではないかとイリスを褒めるロードグランツだったが、ふと素朴な疑問が出た為、エリーザベトに尋ねてみた。


「…………目立たないか?」


 十五歳となったイリスは少女のような面持ちは無くなり、既に立派な女性へと変わっている。更にこんな純白ドレスを纏った冒険者など、流石に聞いた事がないとロードグランツは思っていたが、すぐさまその事実に気が付いた。


「……そうか、エリザが考えたからこうなった(・・・・・)のか……」


 思わず口に出てしまった言葉に心外ですねと反論するエリーザベトだったが、それを否定することが出来なかったルイーゼだった。


「素敵なデザインなのですから良いではないですか」

「それに関しては私も同意見なのだが、イリスさんとしては如何なのかな?」

「確かに目立ってしまいますけど、とても素敵な(ドレス)だと思います」


 満面の笑みで答えるイリスに、思わず苦笑いしてしまうロードグランツだった。

 どうやらこの場にいる女性陣はこのような格好を好むようだ。正直目立ち過ぎると思うロードグランツであったが、何よりもイリスが気に入っているのなら仕方ないと、苦言を呈するのを諦めたようだ。


 こんこんとノックがされ、女王が返事をすると装備をした王女達が入ってきた。シルヴィアはいつもの赤いドレスアーマー。そしてネヴィアは以前の胸部だけ鎧を纏ったワンピースではなく、姉と同じデザインの白いドレスアーマーに変わっていた。


 二人は執務室中央にいる(ドレス)の女性を見つけると、叫び出すかのように大きな驚きの声を上げてその女性に話しかけていった。


「イリスさん!? 何ですの!? その素敵な格好は!?」

「イリスちゃん可愛くて綺麗! しかもとっても強そうです!」

「好評のようですね。分かってましたが」

「む、むぅ……」


 女王の言葉に続けることが出来ないロードグランツはそれでも思っていた。もっと落ち着いた格好の方が良いのではないかと。

 いや確かに上品で美しいドレスアーマーだ。これ程の一品となると世界にまず無いだろう。それはつまり、世界で一番目立ってしまう、という事にもなりかねないのではないだろうか。


 ロードグランツの心配をよそにきゃっきゃと話している三人の姫騎士。


「ネヴィアさんもシルヴィアさんとお揃いの(ドレス)なんですね。とっても素敵です」

「イリスさんの(ドレス)の方がずっと素敵ですわよ」

「ふふっ、そうですね。良く似合ってますよ、イリスちゃん」

「ありがとうございます」


 頬をほんのり赤くするイリス。

 正直なところイリスは冒険者登録を済ませたら、手頃な胸部だけ革鎧(レザーアーマー)を買う予定だった。それがまさかこんなに素敵な鎧と、更には剣まで頂いてしまうことになるとは思っていなかった。

 なんだか申し訳ない気持ちと、こんなに素敵な(ドレス)と剣を頂けてとても嬉しい気持ちとがせめぎ合うが、嬉しい気持ちが残ったようだ。


 そんな娘達に向けてエリーザベトは言葉を発していった。


「さて、それではギルドへと向かいましょうか」

「エリーザベト様もご一緒するのですか?」

「ええ。ロナルドに用事もありますし」


 笑顔で答えるエリーザベトに嬉しさで顔が綻んでしまうイリス。その姿に一同はほっこりした気持ちになるが、ロードグランツは言葉を返すように告げていく。


「私は王城にいるよ。皆で行って来るといい」

「あら。王族一同で行くのも面白いと思ったのですが」


 とんでもないことを口走るエリーザベトに、ルイーゼが言葉を返していった。


「流石に居合わせる冒険者が驚きますよ?」


 それもそうですねと言葉にするが正直な所、その驚いた顔が見たかったエリーザベトだった。楽しみがひとつ減ってしまったという表情を出さなくても理解してしまう親友ルイーゼは、『全く貴女という人は』といった顔にしながらエリーザベトを見ていた。


 そんな一行はエントランスに隣接してある馬車に乗り込み、冒険者ギルドへと向かっていく。馬車の中ではギルドに着くまで、楽しそうな話し声が止まることはなかった。




 ネヴィアさんの鎧は白銀です。それはイリスと違い、どちらかといえば金属っぽいつやつや輝く鎧で、イリスはまっさら純白鎧です。

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