"ひとつの答え"
やがて雨は次第に緩やかとなりつつあるも、未だに止む事はなく振り続け、少女に浴びせ続けていた。
もうじき夜が明ける。
そんな時に少女はひとつの答えに、ゆっくりと近付きつつあった。
……。
そうだ。
わたしが……。
わたしが"弱い"からだ……。
わたしが"弱い"からいけないんだ……。
力も、魔法も、知識も、技術も、
わたしにはなんにもない。
なんにも持っていない。
なんにもないから答えが出ないんだ。
"弱い"からいけないんだ。
わたしはなんにもできない子供で、
なんにも知らない子供なんだ……。
それなら―――
それなら、わたしは。
身体を鍛えればいい。
魔法を修めればいい。
知識を深めればいい。
技術を高めればいい。
そうだ。
もしかしたら、何か方法があったのかもしれない。
例えなったとしても、やっていない今よりはずっといい。
なんにもしていない今よりも、ずっとずっといい。
進もう。前へ――――。
イリスはミレイの遺した最期の言葉を思い出していた。
いや、今初めて、イリスに届いたのかもしれない。
『 ……だいじょうぶ。……もう、だいじょうぶだよ。
……ありがとう。……イリスは前に進んでね 』
明け方まで振り続けていた雨は、いつの間にか止んでいて、既に日が昇っていたようだ。
空から降り注ぐ一条の光がイリスを優しく、とても美しく照らしていく。
それはまるで、イリスの心を表しているかのようだった。
その光を浴びたイリスの瞳はとても美しく、澄んだ色で空を見上げていた。
* *
レスティの一言から誰も喋ることが出来ず、誰一人として立ち去ろうとはしないギルドの扉が静かに開いた。
そこにいたのは、昨日までいた少女ではなく、とても美しく澄んだ瞳をした女性が立っているように見えた。
レスティの元へ来た女性は、おばあちゃん帰ろう? と言いながら、冒険者達に向けてゆっくりと静かに深々と一礼をしたあと、二人はギルドを去っていった。
それを見ていた者たちは、呆気に取られたように固まって動けずにいて、誰からともなく小さな笑い声を出した。
そして一人の男が勢い良く立ち上がり、よーしお前ら! 今日は飲むぞ! と大声をあげ、それに応えて、おお!! と、大きな声がギルド中に響いていった。
それからはもう、いつもの賑やかなギルドの空気で溢れていて、冒険者達は飲んで、騒いで、食べて、また飲んだ。
立ち上がったレナードは乱暴に席へと座り、豪快に酒を飲んだ。
その瞳に溜めた涙をこぼさず、彼はひたすら飲み続けた。
* *
家に着いたイリスは、お風呂に入りベッドへ横になっていく。
今日はお仕事はお休みにするとの事なので、ゆっくり眠らせて貰う事にした。
余程疲れていたのだろう。ベッドに入るとイリスはすぐ眠りに就いてしまう。
その寝顔をレスティは優しい顔で見つめながら、自分の部屋に戻っていった。
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