"なんて浅はかなんだろう"
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
辺りはもう真っ暗で、降り注ぎ続ける雨の中、立ち尽くす少女は月明かりも見えない場所で、それでもずっと考えて続けていた。
どうしてこんなことに……。
なんでこんなことに……。
どうすればよかったの。
どうしたらよかったの。
なにをすればよかったの?
なにをしたらよかったの?
なにが正解だったの?
わからない……。
なにもわからない……。
けんぞくってなに?
どうしてそんなものがいるの?
どうしてわたしは助けてあげられなかったの?
わたしには何もできなかったの?
……わたしには何ができたの?
……わたしには何かができたの?
どうして……。
どうしてお姉ちゃんが、亡くならなければ……いけなかったの?
* *
尚も雨は降りしきり、ただひたすらに、まるで少女を傷付ける様に打ち続ける。
時折強まる雨脚の中、それでも少女は考え続けていく。
何度も、何度も。
こんな苦しみ感じたことがない。
こんな痛みを感じたことがない。
まるで心を切り刻まれてるみたいだ。
からだに感覚がない。
からだが動かせない。
からだに力が入らない。
涙が止まらない。
重い。
痛い。
辛い。
苦しい。
悲しい。
まるで心が悲鳴をあげているみたいだ。
それでもイリスは何度も、何度も考える。
ひたすら考えて、考えて考えて。
それでもどうすればいいか、わらかなくて。
どんなに考えても、どうすればいいか分からなくて……。
どんなに考えても、答えなんて全く出てこなくて……。
『この世界は辛く、厳しく、残酷で、無慈悲です』
エリー様が仰っていた言葉の意味を、私は心底思い知らされる。
その通りだった。
あの時の私は、なんにもわかっていなかったんだ。
エリー様の仰った意味を。
その言葉の意味も、
その重さも。
なんにも理解していなかった。
おばあちゃんや、ブリジットさんの話もそうだ。
私は頑張ればきっと何とかなるかもって、
頑張ればそんな悲しいことにはならないかもって、
どこか他人事みたいに聞いていたのかもしれない。
なんにも理解できていなかった。
分かろうとすらしていなかったのかもしれない。
あぁ……わたしはなんて……。
なんて浅はかなんだろう……。
わたしは努力すればきっと大丈夫なんだって、
なんの確証もなく思ってて。
こんなことになるだなんて、
夢にも思ってなくて。
ただ日々を過ごしていた。
わたしなんてただの……。
無力で、ちっぽけで、なんにも知らない……。
なんにもできない、ただの子供だ……。
「…………青い空なんて見えないよ…………おかあさん…………」
空を見上げ、言葉に出した少女の消え入りそうな声は、激しい雨に掻き消されていった。




