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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第五章 天を衝く咆哮
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"出来ること"を


 仮にロットの盾がまだ何度か使えるのなら、それを基点に攻撃して行きたいところだが、いつ壊れるかも分からない以上、盾に頼り切るのは危険となる。

 もし壊れてしまったら、攻撃手段が直接的なものだけとなってしまうからだ。

 そうなれば一気に危険度は増し、形勢は確実に不利になってしまう。


 目に見えて盾に変化があれば、ある程度その状態の把握する事が出来るが、内面的な損傷を蓄積している場合は、行き成り盾が破壊される事になりかねない。その際の精神的なダメージも考えると、なるべくならそれを起こさない様にしたいところだが、それは少々難しそうだ。ならば可能な限り最大火力を叩き込むしかない。

 だが眷属が身体能力強化魔法(フィジカルブースト)を使う以上、致命傷になる部位は狙う事が出来ない。狙っても確実に弾き返されてしまうだろう。それをミレイの鋼鉄の矢(ボルト)が証明してしまっている。

 あと一撃を放てるかどうかも分からないような武器で狙わなければならない。

 最悪の事態も想定して、クロスボウがまともに使えなかった事も考慮しておいた方がいいだろう。


「まぁ考えても仕方ねぇな。出来ることをやろうぜ」

「そうだな」

「ですね」

「だな」

「いつでも行ける」


 ヴィオラの言葉に、ヴァン、ロット、ラウル、ブレンドンの順に答えっていった。眷属の突進に最前線まで飛び出たロットが盾で返し、ひっくり返していく。

 この手が通じるだけまだマシなのだろう。頭がそこまで回らないのか、それしか攻撃手段が無いのか、それともその両方か。所詮は獣かとため息混じりに思ってしまうヴィオラだったが、する事はしっかりとしていた。

 全員で攻撃を仕掛け、腹に全ての攻撃が深く命中していく。起き上がる手前まで攻撃をして一歩下がり距離を取る冒険者達の中で、その僅かな違和感に気が付いたヴァンは言葉にしていった。


「今のは随分と柔らかく(・・・・)感じたな。強化も限界か?」


 感覚的な話ではあるが、そのように感じたヴァンは少々嬉しそうな声色で話していく。その言葉に反応するかのように怒りを向けながら、周囲へと怒号の様な咆哮を上げる眷属へ、口角を上げながらヴィオラは答えていく。


「相変わらず耳障りだな、お前の声は。――だが、後ろを見なくていいのか?」

「うおらああ!!」

「はあああ!!」


 鋭い大斧と長剣が眷属の背中を切り刻み、悲鳴を上げる眷族。

 栗毛の髪に、胡桃のような瞳の色の男性と、アッシュゴールドの髪に薄い青い瞳の青年だ。大きな斧は深々と眷属の背中を切りつけ、大斧の半分を沈めるほどの強烈な一撃となり、両手で振り下ろした百センルもある長剣も大斧ほどではないが、しっかりと眷属へと切りつけていった。

 彼らへ挨拶をしたい一同だったが、そんな事よりもまずやるべきことがある彼らはそれに続いていく。


 背中への襲撃者に振り向いていく眷属を、ヴィオラは見逃さない。


「よそ見してんじゃねぇ!! 猪!!」


 遠心力をたっぷりと効かせた鋭い一撃を振り下ろすヴィオラ。

 そのままヴァンが眷属の横腹を切り込み、ラウルとロットが追撃していく。


 横腹に突き刺さった戦斧をラウルが掬い上げるように大槌で叩きつけ、戦斧を深く押し込み、ロットが体重を乗せて斧の近くへ剣を突き刺していった。

 更に眷属の逆側をミレイが短剣で刺して直ぐ離れ、ブレンドンがその場所へ向けて鋭く槍で突き刺した。そのあまりの衝撃に地面に倒れ込み横に転がる。まるでのたうち回る姿のように見えたヴィオラは、あざ笑うかのような話し方で言葉にしていった。


「なんだよ、ダメージあるじゃねぇか」


 だがヴァンとラウルの表情は硬い。近くを攻撃したロットも鋭い顔をしていた。

 それ(・・)を見ていた者達はそれぞれに語っていく。

 その声も低く、緊張をはらんだ声だった。


「いや、深く突き刺さった戦斧を、転がる事で外したようだ」

「俺の剣も引き抜かれました。未だに信じられない気持ちで一杯ですが、かなりの知能があるみたいですね」

「厄介だな、これは。本当にここで倒さねばならないらしい」


 尚も地面に横になっている眷属に追撃に移ろうとした瞬間、ヴァンとラウル後方から衝撃音が周囲へ響いていき、続いてミシミシと音を立てながら一本の立派な木が倒れていった。


 その様子を確認出来た者は逆側にいたブレンドンとミレイだけで、それ以外は眷属から目を離さないまま意識だけそちらに向けていた。


「なんだ!? 新手か!?」


 ヴィオラが大きな声を上げるが、もしそうであるなら厄介な事になる。

 ミレイも眷族に意識が向いていたため、状況が分からずにいた。

 確認しようと耳をぴんと立てて集中していくが、すぐさまその顔は驚きの顔になっていく。


 ミレイへ尋ねようと言葉にしようとしたヴィオラを制するように、一人の女性の声が彼女等の元へ届いていく。

 その優しくも強さを秘めた静かな声に、一同は思わず笑みを零してしまった。


「私もご一緒させて下さい。その為の()も準備出来ましたから」



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