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202.夕方の準備

 日暮れにはまだ時間があったので、子供たちは再び水辺に向かった。


 さすがにアリーシアは普通の泳ぎができるようにはならなかったが、犬掻きのようにして泳げるようにはなっていた。


 ――水への恐怖心とかがないからだろうなぁ。何にせよ、楽しんでるようでよかった。


 そんなことを思いながら、途中で近寄ってきたシラヒメも誘って、水を掛け合ったりして遊んだ。


 徐々に日が傾いていき、完全に夕暮れになる前に水辺で遊ぶ時間は終わった。


「楽しかったね」


「うん。今度はちゃんと泳げるようになってみせるわ」


 着替え終わって即席更衣室から出ると、そんな姉さんたちの会話が聞こえてくる。


「さぁ、夕飯までまだ時間はあるから、その間に寝る場所の準備だな」


 俺と兄さんが出てきたのを見て、父さんがそう言ってくる。


 床に敷くように持ってきていたマットは、それなりに大きいのでテントを設営したあとに運んでもらっているが、クッションや掛布団代わりの布などはまだ荷台に積んである。


 といってもマジックボックスからは出してもらっているし、子供たちにそのあたりの準備も経験させるためだろう。


 ――俺が作ったテントは、床部分まできっちりキレイに固めっちゃったけど……マットがあるから痛くはないよな?


 そんな多少の不安と一緒にクッションを抱えて、兄さんと一緒にテントを設営したところへ向かう。


 さすがに子供4人で寝るには少し狭いので、男女で別れて別々のテントで寝ることになっている。


 ――これが冬とかなら、4人で寝ればいい感じに温かく眠れそうだけど、この時期じゃなぁ。


 そんなことを思いながら、自分が作った石製テントに入る。


「うわっ! あっつ!?」


 日光にさらされ続けていた石製のテントは、かなり熱くなっており、そう声を上げてすぐに外に出た。


「あはは。そうだろうね」


 俺の反応を見て、兄さんは困ったように笑いながらそう言う。


「窓とかも作ってたけど、木陰に入らない位置だったからか、すごいことになってる……」


「まぁ寝るころには冷めてると思うよ?」


「うぅ~ん……床の硬さが気になるから確かめたいし、ちょっと魔法で冷ますよ……【クーラー】」


 俺はそう言って冷却魔法を使い、テント全体を冷やしていく。


 ――他の氷魔法で一気に冷やした方がいいか。あ~、急に冷やすとひびが入る可能性もあるから、これでゆっくり冷やそうか……。


「その魔法、カーリーンも使えるようになったんだね」


 冷却魔法を使ったついでに自分と兄さんの周りも涼しくしたので、兄さんが感心したようにそう言ってくる。


「うん。母さんから許可も貰ったからね。まぁ寝てる間も使える自信はないけど、寝る前には涼しくできるよ」


「それは快適そうだね」


 そんな他愛もない話をして、石製テントがほどよく冷めたのを確認して再び中に入る。


 俺くらいの身長であれば立つことが可能なくらいの高さはあるが、マットの上を土足で歩くわけにもいかないので、四つん這いになって奥へ進む。


 少し奥に敷かれているマットは十分なクッション性があるようで、手が若干沈む感覚を覚える。


「これなら寝ても痛くなさそうだね」


 同じようにして横に来た兄さんにそう言うと、「そうだね」と同意してくれる。


「まぁ気になるなら、掛け布をたたんで敷けばいいよ」


「あはは、なんか兄さんがそういうこと言うの意外だなぁ」


 一緒に寝た回数はそこまで多くはないが、いつもきちんと掛布団も使っていい子に寝ていたのでそう思う。


「さすがに暑いとね」


「まぁそうだよねぇ」


 苦笑しながら言った兄さんの言葉に同意しつつ、クッションを奥の方に置いてテントを出る。


 冬場であれば、温かくするためにもっと毛布などを持ち込む必要がありそうだが、今は最低限マットがあれば十分快適に寝られそうな時期なので、準備はこれで終わりだ。


 みんながいる机の方へ戻ろうとすると、俺たちと同じようにクッションなどを持った姉さんとアリーシアが向かってきていた。


「あ、お兄ちゃんたちは終わったの?」


「うん。まぁそんなに持ち込むものもないからね」


「暑いもんね。って、あれ? カーリーン、涼しくする魔法使ってるの?」


 兄さんと同じように冷却魔法に気がついたようで、姉さんがそう聞いてくる。


「うん。母さんからも許可を貰ってるから、また寝る前に姉さんたちのテントにも使ってあげるよ」


「うん! お願いするわ」


 兄さんにした説明と同じことを伝えると、姉さんたちは嬉しそうにそう言ってテントの方へ向かった。


 そのあとは特にやることもなく自由時間になったので、俺は料理をしているドラードに話しかけることにした。


 ドラードは釣りのあと俺たちが遊んでいる間に魚の下処理をしたり、余分に釣った魚を氷の入った箱に詰めたりしてくれていたようだ。


 そんなドラードは、今は魚に串を刺しているようで、手際よく魚の体をくねらせて迷いなく刺していっている。


「お、カー坊、暇になったか?」


「うん。料理はどんな感じ? いい匂いがするけど」


「あぁ、パンも焼いてるし、スープもほぼできたからな」


 そう話をしている間も、ドラードの手は止まらず、次々と串を刺していく。


「はは。そんな気になるか?」


「え? いやまぁ、さすがだなぁと思って」


 ドラードは俺が手元を見ているのに気がついたようで、笑いながらそう聞いてくる。


「まぁな。お、ちょうどこれはカー坊が釣った魚だな」


 そう言って見せてきた魚の尾びれの付け根には、青色の糸が結ばれていた。


「おぉ。分かるようにしてくれてたの?」


「その方が喜びそうだろう? とくにエル嬢やアリーシア嬢は」


「あはは。そうだね。でもこう見るとやっぱり大きいね。これにスープとかもあるってなると……食べきれるかな……」


「はは。まぁ無理そうならフェディが食ってくれるだろ。スープの方にも魚が入ってるし、今日は魚尽くしだな」


 ドラードはそう言って、人数分の魚が乗ったトレイを持ってかまどの方へ向かう。


 スープを作っているコの字型のかまどの裏に、焚火をするように円状に石を置いてあるところの近くにしゃがむ。


 その周りに魚を刺した串を等間隔に立てていき、焚火に火をつけた。


「おぉ~。シンプルに塩焼きなんだね」


「釣りたてだし、せっかくの野外料理だからな。暇なら焼き加減の監視でもするか?」


「うん、やるよ」


「おっし、それじゃあ任せたぞ」


 ドラードはそう言って俺の頭を軽くポンポンと叩き、石窯の方へ向かう。


 ――かまどとか、これだけの設備があれば凝った料理もできそうだけど、新鮮な魚の塩焼きは美味しいもんな。両親はともかく、貴族であるじいちゃんたちもいるけど……いや、気にはしないか。アリーシアさんも自分が釣った魚だと分かるから喜びそうだ。


 青色の糸が結ばれている魚の隣にある、紫色の糸を見ながらそう思う。


 焼き加減を見ていると姉さんたちもきて、一緒に焚火を囲んだ。


 姉さんの魚は赤色の糸で、それを教えてあげるとドラードの言った通り喜んでいた。


 子供たちの釣果は、釣った数はアリーシアが一番多いのもあり、じいちゃんとばあちゃんの分もあるようで、紫色の糸が一番多い。


 しかし、大きさでは姉さんが釣ったものが一番大きく、それはスープの方に使われていると、串を返しにきたドラードが言っていた。


 ――姉さんが釣ったやつなら、そっちもちゃんと食べないとなぁ。俺の焼き魚の半分は、父さんにあげることになりそうだ……。


 徐々にあたりがオレンジ色に染まる中、ユラユラ揺れる焚火を眺めながらそう思った。

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