201.魚釣り
水際まで戻ると、それに気がついた父さんとじいちゃんが近寄ってきた。
「水中はどうだった?」
「すごくキレイでした!」
じいちゃんからの問いかけに、アリーシアは嬉しそうにそう答える。
「お父さん、あっちにいっぱい魚がいたわ!」
「ほぉ。たしかにあの岩場あたりなら多そうだな」
姉さんは姉さんで、父さんに水中で見た魚の位置を報告し、父さんもそれを参考に釣り場を考え始めている。
「あとで釣りをする時はそこにするか。それとも、今から釣りをするか?」
「私はそれでもいいけど……」
姉さんはそう言ったあと、俺とアリーシアの方を見る。
兄姉は何度か泳いだことがあるが、俺やアリーシアは泳ぐのが初めてだったので、俺たちの意見を聞きたいのだろう。
「私も魚釣りをしてみたいです」
「俺もそれでいいよ。あとから釣り始めて夕飯までに何も釣れなかったらイヤだし、早めに十分な数釣れたらそのあとまた遊べばいいしね」
「ははは。そうだな。それじゃあ準備をするか」
そう言ってみんなで一度馬車の所へ戻り、釣り道具の準備をする。
後からまた泳ぐかもしれないので着替えはしなかったのだが、撥水性もあるので濡れていて気持ちが悪いということもなく、むしろある程度乾けば普通の布より軽い分快適なので問題はない。
「楽しみに待っているわね」
着替えなかった分準備は手早く終わり、母さんにそう言われて子供たちが返事をして釣り場へ向かう。
一緒に行くのは子供たちの他には父さんとじいちゃん、それに食材関係だからかドラードも釣りをするようだ。
場所は姉さんが水中で見かけた所で釣るらしく、到着するとバケツや釣り道具を降ろして準備を始めた。
釣り竿といっても、竿の先に糸がくくり付けられているだけのシンプルなものだ。
リールなどがついていないため、その分軽くてかさ張りもしないからか人数分の竿が用意してあり、短めのものを子供たちに配っていく。
「餌は、そのへんの石の裏とかを探せばいいの?」
「ははは。まぁそれでもいいが、ちゃんと餌も持ってきてるぞ?」
父さんがそう言いながら見せてきた袋の中には、指先くらいの大きさのペレットが入っていた。
「どっちの方が釣れそう?」
俺たちの会話を聞いていた姉さんが父さんにそう聞くと、近くにいたドラードが答えてくれる。
「どっちもどっちだな。虫の方は動きがあるし、ペレットの方はそれ用に匂いとかがあるからなぁ」
「匂い?」
「あぁ、それは小麦粉に魚の内臓とかを混ぜ合わせているものだからな。虫を食う魚もいりゃ、小魚を食う魚もいるから、どっちもどっちって話だ」
「早く始めたいから、私はこっちでいいわ」
「わ、私も虫はちょっと怖いのでこっちで」
姉さんとアリーシアはそう言って、ペレットの入った袋の近くにしゃがむ。
「ドラードはどうするの?」
「ん? エル嬢たちがペレットを試すなら、オレは虫の方を試すとするかな」
「じゃあ、俺も――」
「カーリーンのもつけてあげるわ。みせて」
父さんからペレットの付け方を教わっていた姉さんが、目を輝かせながらそう言ってくる。
「……俺もペレットで試してみるよ」
「ははは。そうだな。それじゃあちょっと餌を探してくる」
ドラードはそう言って離れていく。
「水の中でも匂うってだけあって、すごい匂いだね……」
餌をつけ終わったアリーシアが自分の指先を嗅いで、顔をしかめながらそう言う。
「そもそも、魚って匂いが分かるのかしら……?」
「ちゃんと分かるらしいよ。一旦川から海に出る魚も、その匂いを辿って元の川に戻るらしいし」
「「「へぇ~」」」
俺の答えに、姉さんたちと一緒に兄さんもそう言う。
「お兄ちゃんも知らなかったの?」
「うん。僕も結構本を読んでるけど、カーリーンは本以外からも色々学んでるみたいだから、僕が知らないことも結構知ってたりするよ?」
「兄さんはモンスター関係の本も読むけど、俺はそれらをあまり読まない分、そういう雑学的なものばかり読んでるから……」
そんな言い訳のようなことを言っていると、父さんが立ち上がった。
「それじゃあ、実際に釣ってみるか。場所はあの辺りから試してみよう」
子供たちは返事をして父さんのあとについて行く。
泳いでいた場所とは違って急に深くなっている所で、最初は教えるためにと、父さんが兄さんに教えて実践させている。
水面に餌のついた針を降ろしたあと、竿を水面付近まで降ろして魚が食いつくのを待つ。
「あとは食いついたと思ったら竿をあげて、針を食い込ませる。まぁ多少動かしてもいいが、あまり激しいと餌が取れるかもしれないからほどほどにな」
父さんはそう言った後、糸同士が絡まない程度に離れた場所で姉さんにも教え始めた。
「あの魚食いつかないかしら……」
みんなが釣り始めて少したったころ、針を降ろした先をのぞき込むように見ながら、姉さんがそう呟く。
「姉さん、見てたら多分釣れないよ。魚だってこっちを見てるんだから……」
「見えてるの?」
「そりゃあ目もあるし、外敵を察知するためにも見えてるでしょ」
「そ、それもそうね…………槍とかあれば捕れないかしら……」
「姉さんなら捕れるかもしれないけど、今は釣りを楽しもうよ。この待ち時間も釣りの醍醐味だよ? それに近くでそんなことされたら魚が逃げちゃうじゃん……」
「むぅ~」
姉さんは納得はしてくれたようだが、少し唇を尖らせ竿を軽く上下に揺らす。
そんな姉さんを見ていると、隣で釣っていたアリーシアが声をあげた。
「わっ! 食べた!」
「アリーシア、竿を引いて!」
アリーシアの声にすぐに反応した姉さんがそう言うと、アリーシアは言われた通りに竿を上げる。
どうやら間に合ったようで魚が針にかかり、その竿がしなる。
リールもない釣り竿なので立てただけではあげきることができず、少し糸を手で引く必要があるのだが、それは近くにいたじいちゃんが手伝っていた。
「おぉ! 十分な大きさだなぁ」
引き上げた先には30センチくらいの魚がかかっており、じいちゃんはその魚をアリーシアの目の前に持っていきながらそう言う。
「大きいわねぇ、重かった?」
「う、うん! 竿ごと持っていかれるかと思った!」
アリーシアは初めての魚釣りで、初めての当たりに興奮しながら、釣り上げられたことを嬉しそうにしている。
「ははは。1発目で釣れるとは、これは期待できるかもしれんな。場所を見つけてくれたエルに感謝だな」
父さんはそう言いながら姉さんの頭をなでる。
「私も釣り上げる!」
そう意気込んだ姉さんは、強く竿をしゃくったせいか餌が外れて餌を付けなおしていたが、すぐにアリーシアが釣った魚と同じくらいのものを釣り上げていた。
父さんや兄さんも次々と釣り上げ、俺の竿にもとうとう魚が食いついたのだが、思った以上に重く、突然の事で竿を持っていかれそうになったが、近くで釣っていたじいちゃんに助けてもらい、俺もなんとか釣り上げることができた。
1人だけ虫を餌にして釣っていたドラードだったが、途中で50センチくらいのものを釣り上げ、それを見た姉さんも餌となる虫を探しに行ったりしていた。
合計の釣果は、魔法で氷が作れるので持って帰れるとのことで、今夜食べる分が釣れたあともしばらく釣っていた。
――まぁ釣れる楽しさがあったからなぁ。結局虫を餌にしてたドラードと姉さんが釣った魚は大きかったけど、あのサイズは俺やアリーシアさんは釣りあげれなかっただろうし、それよりは小さいにしても十分な大きさだったしな。
満足そうな表情で釣った魚を見ながら話している姉さんとアリーシアを見て、そんなことを思いつつ後片付けをして戻った。
ブックマーク登録、評価やいいね等ありがとうございます!
※お知らせ※
ツギクルブックス様より、「異世界に転生したけど、今度こそスローライフを満喫するぞ!」の第1巻が発売中です!
どうぞよろしくお願いいたします!





