198.水に慣れる
お昼ご飯を食べ終え、リデーナとドラードが食器を片付けている間に、姉さんが予定を決めたらしく口を開く。
「ねぇ、お父さん」
「ん? なんだ?」
「カーリーンとアリーシアと一緒に森へ行ってもいい? もちろんお兄ちゃんも」
「まぁ俺や義父上、それかドラードと一緒ならいいぞ?」
「私たちがいるから平気よ?」
「いや、エルやライはそうかもしれんが……アリーシアもいるからなぁ」
姉さんはさっき俺に言われたことと同じようなことを言われ、少しムスッとする。
「まぁまぁ拗ねるな。エルならこの森で十分活動できることは分かっているぞ。それで、カーリーンとアリーシアを連れて行くということは、狩りではないんだろう?」
「うん。アマリンゴの木を探しに行きたいの」
「あぁ~……そういえば森へ行くっていう話のきっかけはそれだったか?」
「うん。だから、いい?」
姉さんは自分も忘れていたことは言わず、許可を貰おうとしている。
「さっきも言った通り、誰かと一緒ならかまわないが……泳ぐんじゃなかったのか?」
「う……」
まだ他のやりたいことに未練があるのか、姉さんは言葉に詰まる。
「カーリーンたちに泳ぎを教えるんだろう? それに釣りだって――」
「もう! それもやりたい! でも、森にもいきたいの!!」
父さんの言葉を遮るように、姉さんは席を立ちながらそう言う。
「まぁまぁ、落ち着け」
「……ねぇ、明日も泊まるようにはできないの? 時間が足りないわ……」
「ん~……絶対に無理というわけではないが……」
「だったら!」
「まぁ予定では明日の夕方、日が暮れる前に屋敷に着くくらいで考えていたから明日も時間はあるし、アマリンゴの木を探すのであれば、帰り道に少し寄り道をして探すという手もあるな」
「その方が探せそう……」
「あぁ、だからとりあえず今日のところは湖で遊んだらどうだ?」
「……うん! そうするわ! カーリーン、アリーシア、着替えて泳ぎましょ!」
アリーシアは元々森へ行くより湖で遊ぶ方が楽しみだったようで、嬉しそうに「うん!」と返事をしている。
――俺もこの気温の中森を歩くか湖で遊ぶか選べるなら、湖で遊ぶ方がいいな。それに森にいったとしても、姉さんのことだから見つからなきゃ、諦めず時間ギリギリまで探すだろうし、そうなると本当に他のことができなくなってただろうしなぁ。
そんなことを考えながら、着替えるために母さんとリデーナと子供たちは、テントの近くに置いてある荷台へ向かう。
「【ロッククリエイト】」
母さんとリデーナが服を取っている間に、近くに着替えるとき用にコの字状に壁を作る。
――家族だけならともかく、アリーシアさんもいるしな。テントの中で着替えるのはちょっと狭いだろうし。
「あら、ありがとう。気が利くわねぇ」
「天井もないし、壁で囲っただけだけどね」
「うふふ。十分よ。それじゃあ、エルとアリーシアちゃんはこちらにいらっしゃい」
呼ばれた姉さんとアリーシアが返事をして壁の内側に入ると、リデーナが入口に布を設置している。
「それではライニクス様とカーリーン様はこちらへ」
リデーナにそう言われて、俺と兄さんももう片方へ入る。
着替えの手伝いが必要ない兄さんは、リデーナから服を受け取ったあとすぐに着替え始めた。
見た目は半袖のシャツにハーフパンツという動きやすい服装で、手触りはスベスベしており、軽くて薄い。
しかし、濡れても透けたりすることがなく、普通の布と比べると撥水性もあるようで水を吸いにくく、吸っても重くなりにくい。
――まさに水着用の生地って感じだよなぁ。この世界にも前世のような水着があるのかは知らないけど。貴族だとあまり肌を出さないみたいだけど、町で見かける冒険者とかハンターは、そのあたりは気にしないみたいだしなぁ……。
そんなことを考えながら着替えて出ると、姉さんたちもちょうど出てきた。
2人とも泳ぐのに邪魔にならないように長い髪を後ろでまとめており、同じ服を着ている。
アリーシアが水着を持っているわけもなく、姉さんのものを着ているので、子供たちは全員同じ服装になった。
なぜ、うちに全員分の水着があるのかというと、その原因は姉さんだった。
屋敷の近くに川があるとはいえ、そこで涼みながら遊ぶことはあっても、泳ぐようなことはしたことがない。
しかし、夏になると姉さんは水魔法をぶちまけたりして庭でびしょ濡れになることも多く、さすがに服が透けるのははしたないということで、母さんが全員分用意したのだ。
――そのおかげで魔法の稽古のときに、姉さんに水をかけることを求められることも増えたんだけど……まぁ汗をかいたあとに水をかぶると気持ちいいから気持ちは分からなくはないけど、魔法の稽古メインじゃないときはいつもの運動着だから、あまり変わってないんだよなぁ……。
みんなおそろいの服を着ているのが嬉しいのか、湖で遊べることが楽しみなのか分からないが、すごく嬉しそうに話をしている姉さんとアリーシアを見ながら、そんなことを考える。
「それじゃあ、いきましょ!」
姉さんがそう言って先頭を歩き始めたので、そのあとについて行く。
水際までついてきたのは父さんとじいちゃんだけだったのだが、昼食を摂った場所も近く、そこからでも十分様子を見ることができる。
父さんの指示で軽く準備運動をし、水に慣れるためにゆっくりと湖に入っていく。
「まだあまり奥にいくなよ~」
「はーい!」
姉さんはそう返事をしながら手をあげる。
「ひゃっ! 冷たい!」
アリーシアが腰まで水に浸かったところで、近くにいた姉さんが動いてできた水しぶきが背中に当たり、ビクッと反応しながら楽しそうな声でそう言う。
「でも気持ちいいね」
俺はゆっくりと腰を下ろして体を水に慣らしながらそう言うと、アリーシアが笑顔で「うん!」と返事をする。
「それじゃあ、顔を水につけて、慣れてみようか」
ズボンの裾を折り、近くまで来た父さんがそう言ってくる。
「お風呂でもそう言うことがしたことがないので緊張します」
「あはは。大丈夫よ。何回かやって慣れたら泳ぎ方を教えてあげるわ」
――そう言えば姉さんはお風呂でも泳いだりしてたな……。
そんなことを思い出しながら、アリーシアと一緒に水面に顔をつける。
「……プハッ」
「よし、それじゃあ、頭を全部水につけてみようか」
「は、はい」
少し緊張した様子のアリーシアを落ち着かせるために、先に座るようにして頭の位置を下げ、ザブンッと頭を水に沈める。
すると、すぐにアリーシアも水に浸かったようで、近くで水音がした。
目を開けてみると、体の前でこぶしを握って思い切り目を閉じ、空気を逃がさないようにしているのか、頬を膨らませているアリーシアが見える。
その姿を微笑ましく見ていると、アリーシアの口から空気が漏れたので"そろそろ限界かな"と思い、一緒に水面から顔を出す。
「プハァッ!」
「2人とも上出来だ。どうだ? 怖くはないか?」
「は、はい! 大丈夫です」
「アリーシアさん、あんなに思い切り目を閉じる必要はないよ? もう少しリラックスしても大丈夫だよ?」
「え!? み、見たの!?」
まさか見られていると思っていなかったアリーシアは目を見開き、恥ずかしそうにそう言う。
「ご、ごめん。でも涼しくて気持ちいいね?」
「うん! すごく気持ちいいし、楽しい!」
アリーシアは俺に見られた恥ずかしさより、今の楽しさの方が勝っているらしく、いい笑顔でそう答えてくれる。
「はっはっは。カーリーンは目を開けられるようだし、大丈夫そうだな。それじゃあ、ライとエルに軽く泳ぎを教わってみるか」
父さんが笑いながらそう言うと、兄姉が返事をして俺たちの近くに来たので、それぞれが手を取って基本的な泳ぎ方を教えてもらった。
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