190.事情
ルナのことを大事にしているステラに、言ってはいけないことを言ってしまったと気がついて慌てる。
「い、いや、違うよ!? 本当に"ルナさんがいるもんなぁ"って単純に思っただけで、全く深い意味はないよ!?」
――話の流れ的にマズイタイミングだったし、これは怒られても仕方ない……。
そう思いつつ、覚悟を決めてステラの言葉を待つ。
「……なのよ……」
「え、な、なに?」
てっきり大声で怒りをぶつけてくるかと思っていたが、ステラの口から出た言葉は、か細過ぎて聞き取れなかったので聞き返す。
「そうなのよ! 今までは男の兄弟がいたからそこまで気にしてなかったけど、今回は違うのよ!! ルナがいるっていうけど、あの子の結婚なんて考えたくもないし! でも私も無理だしどうすればいいの!?」
内容的には思っていた通りだったが、怒っているというよりは、"解決策を提案してほしい"という気持ちの方が勝っている感じで言われて困惑する。
しかも、半泣き状態で詰め寄ってくるものだから返答に困る。
――いやいやいや、破壊神様? そんなことを相談されましても……てっきり"あの子に結婚なんてさせるわけないでしょ!"くらい言うかと思ってたんだが??
「い、いや、まだ結婚とか考えるには早すぎるでしょ」
俺もまだ幼く、結婚の話なんてまともに考えたこともなかったので、自分にも言い聞かせるようにそう言う。
「なに言ってるの! ヒト族なんて生きて100年やそこらじゃない! この千年で私が何回転生したと思ってるのよ! あの間に子を授かって育てるってなると、すぐよ! すぐ!!」
――神らしい時間感覚と、実際に何回も転生して実感した感覚があれば、ヒト族の一生なんてすぐって思っちゃうか……でもなぁ……。
「……どちらかを諦めるくらいしかなくない?」
「……やっぱりルナが結婚するか、今回の家族の跡継ぎを諦めるかしか……?」
俺の言葉を聞いて、ピタリと動きを止めたステラが、絶望したような表情でそう呟く。
――家族の今後のことを大好きなルナと天秤にかけて考えるほど、しっかりこっちに馴染んでるなぁ……。
「というか、自分が結婚っていう選択肢はないんだ?」
「当たり前じゃない。肉体はヒト族だけど、中身は神族なのよ? 仮に子を宿したとして、どんな影響がでるか分かったものじゃないでしょ? それに生を終えるまで相手に色々隠して生きなきゃいけないなんて疲れるし、なんだか申し訳ないじゃない」
――たしかにそう言う懸念点もあるか……それにしても、そこで"申し訳ない"って思うあたり、やさしい神様なんだな。"破壊神"っていう立場だったから偏見を持っちゃってたか。まぁこの転生の罰のおかげで心境変化しただけかもしれないけども。
「せめて、弟が……うん? 弟……神……」
俺が考えていると、ステラはそう呟いて何かをひらめいたように表情を明るくする。
「ライチに頼めばいいじゃない!」
「ライチっていうと……生命神様!?」
「えぇ。ライチに弟を授かるように頼めば!」
「いやぁ……そういうことに手を貸す――というか関わってくれないんじゃない? そういうのって自然のことだから神はあまり干渉しないというか、しちゃいけないんでしょ?」
「グラルートたちは祈られれば、わずかながらに力を使ってるし大丈夫でしょ」
――グラルートっていうと豊穣神様か……"たち"ってことは他に狩猟神とかも含まれてるんだろうけど、それとは違うと思うんだけどなぁ……いや、"恋愛成就"とか"子宝を"とかのお祈りもあるだろうし、そうでもないか?
そう思っていると、再びステラに肩を掴まれる。
「この間言ったイヴラーシェへの伝言は覚えてるわよね?」
「も、もちろん。"破壊神を覚えてるか"でしょ?」
「えぇ、それに加えて、私に弟を下さいってライチに伝言を頼んでちょうだい。イヴラーシェを経由した方が聞いてくれそうだから」
「まぁ俺もイヴ以外の神様と会ったことはないし、イヴに話すだけならいいけど……」
真剣な表情でそう言われて"伝えるだけならいいか"と思い、断れずにそう言う。
「前も思ったけど、"自分を天界に戻してほしい"とかじゃないの?」
「それもありはするけど、今回はいいわ。ルナがいるんだもの」
俺が承諾したことで手を放したステラが、腕を組みながらそう言う。
「なるほどね……それだけルナさんが好きなら戻るわけもないよね……」
「そういうことよ。それに"破壊神としての仕事"をするのは、もう少しあとでしょうし。そのうちなくなる世界だし、一緒にいたいと思える存在ができたのだから、少しくらいそう思ってもいいでしょう?」
ステラはどこか諦めたような悲しそうな表情でそう言う。
「うん? なくなる世界……?」
「えぇ……イヴラーシェから聞いてない? まぁ転生者にはまだまだ関係ないことだし、聞かされてなくても当然かしら。簡単に説明すると、この世界を維持するエネルギーが徐々に減って来てて、終わりが見えてきてるのよ」
俺が転生するときにイヴから聞いた話を思い出しつつ、ステラの話を聞く。
「それで最後は私――というか破壊神の力で世界を終わらせるの。だからそのうち天界には戻ることになるでしょうけど、それはまだ先の話だし、今すぐ戻らなくてもいいでしょってことよ」
「あー、それなら大丈夫だと思うよ?」
「なんであなたがそんなこと分かるのよ」
ステラは俺が適当なことを言っていると思ったのか、怪訝そうな表情をしてそう言う。
「だって俺、そのエネルギーを分けてもらうために、別世界からこっちに転生したみたいだし」
「え? は?」
困惑しているステラに、俺がこの世界で生まれる前にイヴから聞いた話をする。
「パイプ役……なるほど…………それならたしかに崩壊の危機はなくなってる……」
ステラは手を口元に当てて、ブツブツと呟きながら考え込む。
「……って、それってあなたが死んだら、パイプも切れて終わりなんじゃ……」
「そうならないように魔法適性を貰ったりしてるし、家族に鍛えられてもいるし、楽しく過ごせてるよ」
「そう……まぁ何かあったら言いなさい。今回の伝言のお礼もあるし、助けてあげるわ」
「分かった。ありがとう」
「さて、それじゃあ、今日はこんなところかしらね。あまり長話してると、変に思われるかもしれないし」
ステラはそう言いながら席を立って、教会の前で待っているドラードの方を見る。
「ドラードならそんなことないと思うけど」
「……この間もいたけど、あの人はあなたの護衛なの?」
「そういうこともしてるときあるけど、うちでは料理人だよ?」
「りょ!? そ、そうなのね……まぁいいわ。それじゃあ今日みたいにたまに顔を出すから、また会ったら話しましょ」
「うん。それじゃあまたね」
そう言ってステラは離れていったので、俺もドラードのもとへもどる。
「結構長話だったなぁ」
「まぁね。よく話をするルナさんのお姉さんってだけあって、結構話しやすいし」
実際、素性をごまかすことなく話のできる相手は、イヴとステラしかいないのでそう言う。
「なんだ? 妹の方とはまた違った雰囲気だが、姉の方がカー坊の好みか?」
ドラードはニヤニヤしながらそう聞いてくる。
「そんなんじゃないよ。それに色恋沙汰は俺にはまだ早すぎるでしょ」
表情から冗談だと分かっているので、呆れた表情をしてそう答える。
「"色恋沙汰"っておまえ……まぁカー坊にはまだ少し早いのはたしかだけどよ……」
ステラと話していたせいで子供らしくない発言をしてしまうが、とくにドラード相手には今さらではあるし、ドラードもそういいつつ苦笑しているだけなので問題はない。
そんな話をしながら、次教会に行くときは誰と行こうか、イヴに会えたら何から話せばいいかなどを考えつつ、屋敷へ帰った。
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