164.それぞれの予定
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「引き取るのは決定でいいのだけれど、一応経緯を聞いてもいいかしら?」
母さんがそう聞いてくるので、俺とじいちゃんで飼育場でのやり取りを説明する。
「――なるほどねぇ。それならたしかにうちが引き取ったほうがよさそうね」
「お馬が増えるの!?」
会話を邪魔しないように今まで黙っていた姉さんは、さっきまでの不機嫌そうな表情から一転、嬉しそうな表情である。
「えぇ、そうみたいね。それで、いつ頃お迎えすればいいのかしら?」
「明日の予定が終わり次第、王都の屋敷へ引き取ってもらい、そのままオルティエンへ連れ帰ってほしいのだが」
「急だな……まぁなんとかなるから問題はないが。オルティエンの屋敷の厩舎の件は、ロレイに手紙を出しておこう。改装まではしなくとも、多少手入れはしたほうがいいだろうからな」
お願いも急だったが、引き取ること自体も明日という急な事態に、父さんは苦笑しながらではあるがちゃんと用意をする手筈を整えてくれる。
「それでカーリーンには明日も飼育場へ同行してもらいたいのだ」
「そうね。事情を聞いたところ、その方がスムーズに済みそうね。カーリーンもそれでいいかしら?」
さっき飼育場での出来事の説明をしたときに、俺が魔力の流れが見えることや、魔法師団の人を呼んで試すことも話していたので、母さんは納得したように頷く。
魔力の流れが見えることは、魔法の稽古のときに把握されているため驚かれることはなかったが、それを目当てに連れ出されるようなものだからか、少し申し訳なさそうな表情で聞いてくる。
「うん。もちろんいいよ」
そう返事をしたあと、姉さんたちはどうするのかと思ってそちらを見ると、再び拗ねたような表情になっている。
――え、なんで? あー、また俺だけ出かけるからか? 俺から誘ってみたほうがいいのだろうか。じいちゃんたちは拒否しないと思うし……。
「まぁカーリーンは魔力の流れを見て、私や兄上に耳打ちする程度だから何も心配はないぞ?」
じいちゃんが母さんの表情を見て、不安になっていると思ったようでそう言う。
「そのあたりのことは信用しているわよ。それにちょうどよかったわ」
「ちょうどよかった?」
俺がそう聞き返すと、母さんは困ったような表情で事情を説明してくれる。
「実は明日、エルとアリーシアちゃんはお茶会に呼ばれているのだけれど、ライも呼ばれているのよね……」
「お披露目パーティーが済んでいるライも呼ばれたのか」
「えぇ。そこまでお硬い雰囲気のお茶会ではないから、カーリーンを連れて行っても大丈夫ではあるんだけれど……他にそういう子はいないだろから退屈するでしょうし、明日もお父さまさえよければ、見ていてほしいってお願いしようと思っていたのよ」
――なるほど……さっきの申し訳なさそうな表情は、飼育場の件がなかったとしても、お茶会に俺だけ連れていけないからだったか。それに姉さんのあの表情の理由もコレか……。
「ねぇ、そのお茶会に行かないとダメ?」
姉さんはお茶会自体が嫌なのか、飼育場に一緒に行きたいのか分からないが、そうお願いしている。
「うぅ~ん……今回は侯爵家主催のだし、今年のお披露目パーティーに参加した子がメインの集まりだからダメねぇ……ライは行きたくないならそれでもいいんだけれど……どうする?」
「僕はお茶会の方に参加しますよ」
「むぅ~……お兄ちゃんも行くなら、まぁ……」
兄さんがお茶会に参加すると分かって、姉さんが少し落ち着く。
――兄弟で自分だけ仲間外れじゃなくなったから諦めたか……何にせよ兄さんグッジョブ。
「まぁ明日は研究員や魔法師団のものもいるから、今日のように遊ぶ時間はほとんどないだろうからな……」
「それにほら、明日にはその魔馬を連れて帰るから、屋敷で遊べるよ?」
「そうね! どんな子がくるか楽しみだわ!」
俺の言葉で姉さんの機嫌もすっかりなおり、ワクワクしているようだ。
「わ、私も見に行ってもいいでしょうか!」
「えぇ、それじゃあ明日のお茶会が終わったら、そのまま一緒にうちに向かいましょうか」
アリーシアも一緒にシロと遊びたいようで、母さんに承諾されるといい笑顔を見せる。
日が暮れる頃になるまでナルメラド家で雑談しつつゆったりと過ごし、夕飯は帰って食べることになったので屋敷へ帰った。
翌日、お茶会は昼間にやるらしく、午前中はいつものように過ごした。
昨日はお披露目パーティーの準備などがあって稽古をしていなかったので、その反動か姉さんは普段以上に稽古に励んでいた。
そして、いよいよ兄さんに向けて【ウォーターボール】を撃つという、兄さんと俺の練習も始まってしまったのだが、やはり撃つのを躊躇ってしまい、父さんたちに向けて撃つときより、見るからに威力の弱い魔法になってしまった。
普段より小さくなってしまった水の球は、破裂したときの威力はほとんどないのだが、速度や軌道自体はそのままなので兄さんはすべてに対応しきれず、最後の方に当たってしまった。
水を滴らせて苦笑いしつつ戻って来る兄さんに怪我などはなく、結果的に弱くなっててよかったとホッとした。
「やっぱり実際に受けてみると全然違うね。よくあれだけ曲げられるね?」
「私も受けてみたいわ!」
やる気満々の姉さんが、前に断られていたこの練習への参加を再度お願いする。
――兄さんに対してすらこれだけ無意識に手加減しちゃってるのに、姉さんに対してまともに魔法が撃てる気がしないんだけど……。
そう思っている横では、父さんが今の魔法を見て考えているようだ。
以前の威力であれば、姉さんに向けて撃つのはまだ早いと思っていたようだが、今使った俺の魔法はそのときと比べると弱く、しかし軌道や速度はそのままなので悩んでいるようだ。
「うぅ~ん……今くらいの威力であれば問題はないとは思うが……」
「アレくらいだったら受けられるわ!」
「あはは、でも僕みたいに、朝からビシャビシャになるかもしれないよ?」
どうしても参加したい姉さんを、兄さんがリデーナから受け取ったタオルで頭を拭きながら、そう言って宥める。
「まぁ今日はたまたまかもしれんから、明日以降の様子をみてからだな」
姉さんは今日は参加できないから不満そうにするかと思いきや、しばらくは参加できないと思っていた練習に、早ければ明日から参加できるかもしれないので嬉しそうにしている。
俺は逆に、姉さんに魔法を撃つことになるかもしれないと不安になりつつ、直撃した兄さんを見る。
――兄さんも平気そうだし、あれくらい弱ければ大丈夫か……まぁ速度とかを変えなければ、目と反射速度を鍛えることはできるし、威力自体はなくても問題ないだろうしな。
そう思うことで自分を納得させていると、いい時間になったことで稽古が終わり、お昼ご飯を食べる。
そのあと汗を流すついでに、俺以外のお茶会に参加するみんなはそれ用の服に着替えるようで、父さんと兄さんはすぐに着替え終わったのだが、母さんと姉さんは少し遅れてリビングに来た。
昨日のお披露目パーティーは、国が主催ということもあって豪華なドレスを身に纏っていたが、今日のお茶会には、普段より少し飾り気が多いくらいのドレスを着ていくようだ。
それでも普段は動きやすさ重視の服を着ていることが多い姉さんは、そういうドレスを着るだけで印象が一気に変わるが。
みんなが屋敷を出るときに、一緒に出られるようにじいちゃんが迎えに来るらしいので、その時間になるまで、姉さんのドレス姿を褒めたりしていた。
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