161.散歩
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飼育場の敷地内にある放牧場は、元気な魔馬たちが走ったりできるようにかなり広い。
さらには、軽症の馬房にいる魔馬たちもシロのように散歩をして体を動かすこともあるらしく、病気だった場合に感染しないようになのか別の広場まである。
そっちはメインの放牧場と比べると狭いのだが、弱っている魔馬たちは走ったりはしないらしいので、その広さでも十分なようだ。
シロは"感染するような病気ではない"と判断されているようだが、走ったりする元気はなかったのでいつも狭い方の放牧場で散歩しているらしく、今もそちらへ向かっている。
――でも、もうシロは元気になってるんだよなぁ……いきなり走り回ったりしたら驚かれるだろうけど……まぁさすがにそんなことはしないか?
職員さんに連れられて、上機嫌に尻尾を振りながら移動しているシロを見ながら、少し不安になる。
広場の入り口に来たところで、職員さんが手綱をはずしながら大伯父さんと話をしている間に、シロに話しかけることにした。
「シロ、一応聞いておくけど、急に走ったりしないよね?」
『え? ダメなの?』
シロは話しかけた俺を見て、コテンッと首をかしげながら、不思議そうに聞き返してくる。
――仕草が人間っぽいな……普段から人に会ってるし言葉も分かるから、そういう仕草をするようになってても不思議じゃないか。分かりやすいし可愛いからそこはいいんだけど……話しかけて正解だったな。
「今まで走ったりしてなかったんでしょ? 急に走ったらビックリするよ?」
『うぅーん。たしかに今まで走ったことはなかったけど、【身体強化】もあるから体は平気だと思うよ?』
どうも話がかみ合わず、俺とシロは軽く首をかしげながらお互いを見る。
「……あー、いや、たしかにシロの体の心配もあるけど、それよりも職員さんが驚くと思うんだ……」
『あぁ、そっちの話なんだね。たしかにそうなるかも……』
話がかみ合ったところで、つづけて一応の注意をしておく。
「元気になったから走りたい気持ちは分かるんだけど、そうなると"何で急に元気になったのか"って話になって、色々と調べられることになりかねないよ?」
『……そうなると君と一緒に行けなくなる?』
「可能性があるってだけで絶対ではないけど、多分すぐには難しくなると思う……もしシロが残ることになった場合、俺が原因かもしれないって疑われて、俺も何かしないといけなくなるかもしれないし……俺の都合で悪いんだけど、連れて帰るまではいつものように歩いての散歩にして欲しいかな」
『うん、君がそう言うならそうするよ』
「ごめんね」
『ううん、いいよ。君に連れて行ってもらうためだもん。今日は我慢する』
シロがそう約束してくれたので、なでてあげると『行ってくるね』と言って、離れていった。
「シロと何を話していたのだ?」
じいちゃんが近くにきてそう聞いてくるので、話していた内容をそのまま伝えた。
「たしかにそうだな……カーリーンが原因であることは隠せるだろうが、すぐにシロを引き渡すことは難しくなってたかもしれんな……」
「まぁ引き取ったあとは、走ってもいいよって言っちゃったけど……」
「まぁそこまで済めば問題あるまい。王都でも屋敷の敷地内なら他のものに見られることもないだろうし、オルティエンまで行けばそもそも環境が違うのだ。そちらで元気になったところで、"特殊個体かもしれないから王都に戻してほしい"なんてことにはならんよ」
じいちゃんが微笑んでそう言ってくれるので安心する。
シロが散歩に行ったのでその様子を見るついでに周りを見てみると、職員さんの言っていた通り、広い放牧場の方にも数匹の魔馬が走ったり、のんびりと寛いだりしていた。
シロのように真っ白な魔馬はいないものの、灰色やこげ茶など全体的に黒っぽくはあるが、色んな毛並みの子がいるようだ。
――たしかにこれだけ色んな色がいるなら、白色が珍しくはあってもそこまで特別視もされないか。じいちゃんの所の魔馬は綺麗な真っ黒だったからなぁ。体格も良くてかなりデカかったし……そう言う意味ではシロと正反対だな。
メインの広場にいる魔馬たちより年上らしいが、遠目で見比べても小柄だと分かるシロを見ながらそう思う。
そんなシロは俺との約束通り走ってはいないが、元気になったことでウズウズしているのか、早歩きくらいの速度で広場の外周を移動している。
「シロは今日は元気ですね」
「いつもはもっとゆっくりなの?」
同じくシロを見ていた職員さんの言葉に少しドキッとしてしまうが、それを声に出さないように聞いてみる。
「えぇ、もっとゆったりと歩いてますね。今日はよほど調子がいいのでしょう。もしかしたら、ライニクス様やカーリーン様が来てくださったので、人間の子供を見て心境に変化があったのかもしれませんね」
職員さんはそんなシロの様子を見て、安心したような、嬉しそうな表情をしてそう言う。
シロを見ながらそんな話をしていると、目が合ってシロが戻ってきた。
『ねぇねぇ。私に乗ってみない?』
「え、急にそんなこと言われても……というかなんで?」
『元気が有り余ってるのに、走れないからウズウズしちゃって……誰かを乗せて散歩できれば収まるかなぁと』
「なるほど……」
「シロはなんて言ってるの?」
兄さんは急に戻ってきたシロが何か言っていると察したようでそう聞いてくる。
「シロに乗って散歩しないかって言ってるね」
「うわぁ! いいね! 許可がもらえればぜひ乗ってみたいなぁ」
「うん? シロに乗ってみたいのか?」
シロは俺と話すと思っていたじいちゃんたちは、職員さんの気を引くように話をしてくれていたのだが、兄さんの言葉が聞こえたようだ。
「乗ってもいいなら……?」
「ふむ……どうだ?」
「そうですね……今日は調子がいいようですので、子供たちくらいの重さであれば問題ないでしょう。サドルを用意しますので少々お待ちください」
職員さんはシロの様子をみて大丈夫だと判断したようで、兄さんと俺に微笑みながらそう答えたあと、馬房に向かっていく。
「シロ、乗っても大丈夫だって」
『ほんと!?』
「でも、俺は馬に乗ったことないんだけど……」
身近に馬はいるし、兄姉は乗馬の練習をしたり、父さんと出かけるときは馬に相乗りしたりしていることは知っているが、俺がいるときの外出はいつも馬車を出していたので、未だに馬に乗ったことがない。
「僕が乗れるから大丈夫だよ。しっかり支えてあげるから」
兄さんもシロに乗れることが嬉しいのか、自信満々のいい笑顔でそう言ってくれる。
――乗る側のこっちより乗せる側のシロの方が嬉しそうだなって思ったけど、兄さんも負けず劣らず嬉しそうだなぁ。
「それじゃあお願いするよ」
「うん。任せて」
そう話していると職員さんが戻って来て、手早くシロにサドルを装着する。
兄さんは自分でまたがることができるが、当然俺はまだ届かないので、じいちゃんに抱き上げてもらい、兄さんの前に座る。
普段から身長が高い父さんやドラードに肩車されることもあるため、高さで怖いと思うことはなかったが、前世を含めても初めての乗馬経験となるので、兄さんと一緒に乗ってるとはいえ緊張はしている。
「シロ、いい? ゆっくりだよ、ゆっくり歩いてね!?」
「あはは。大丈夫ですよ。先ほども走ったりはしてませんでしたし、乗せることに抵抗しなかったってことは、シロもそのあたりは分かってますよ」
職員さんは俺の言葉を聞いて安心させるように笑いながらそう言ってくるが、俺は乗る原因が"元気が有り余っているから"と知っているので、割と必死だった。
念のため、じいちゃんが手綱を持って横を歩く形でシロは歩き始める。
シロは俺が言った通りゆっくりと歩いてくれているのだが、思っていた以上に上下に揺れる。
「これだけゆっくり歩いてくれてるのに、結構揺れるんだね……」
「あはは、そうだね。走るとまではいかなくても、駆け足くらいになるだけでももっと揺れるよ」
――そうなると跳ねてお尻にダメージが蓄積されていきそうだなぁ……乗り方をマスターする前に俺なら魔法で対処した方が楽かもしれないな……。
兄さんと話しながらそんなことを考えつつ、シロに乗っての散歩をつづけた。
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