159.相談
「陛下、そろそろ昼食の時間となるのですが、いかがなさいますか?」
――来たときにパンケーキを食べたからあまりお腹すいてなくて気がつかなかったけど、もうそんな時間だったんだ。
大伯父さんも「もうそんな時間か」と言っているが、おそらくシロとの会話で色んな情報を得られていたからそう感じているのだろう。
「……兄さんはご機嫌そうだね。そっちは何してたの?」
もうお昼ということは、結構な時間俺から離れていたはずなのだが、ニコニコしながら戻ってきた兄さんがその間なにをしていたのか気になるので聞いてみる。
「魔馬の生態や、飼育方法、乗り方や、しつけ方とか色々教えてもらってたんだよ」
「なるほどね……」
さすが知的好奇心の強い兄さんというべきか、あっちはあっちで職員さんを質問攻めして、色々と教えてもらっていたらしい。
――どおりでご機嫌なわけだ……。
「カーリーンはずっとシロを撫でてたの?」
「え、まぁそうなんだけど……うぅ~ん……またあとで詳しく話すよ」
うちの家族には話すことになると思った俺はそう言うと、兄さんは不思議そうに首をかしげながら「わかった」と返事をした。
職員さんに案内された部屋は食堂とは別の普通の部屋だった。
そこまで広くはない部屋なのだが装飾品なども置かれており、応接室のような雰囲気の場所だ。
普段じいちゃんだけ視察に来ている場合は食堂で食べたりもするらしいのだが、今日は大伯父さんもいるのでこの部屋で食べることになっているらしい。
食事が運ばれてくるまでの間に、兄さんにも俺がシロの言葉が分かることを伝えておこうと、話をすることにした。
「――ってことがあったんだよ」
「あはは、なるほどね」
「……あまり驚かないんだね?」
「いや、これでも驚いてるよ。でもカーリーンは見る力もすごいし、魔法関係は僕より上だから納得するのが早かったって感じかな?」
兄さんは苦笑しながらそう言ってくる。
「一応この話は内緒にしてね? まぁ父さんや母さんには話すことになると思うけど……」
「うん。分かったよ」
――こうやってすぐに受け入れてくれるから、本当にありがたいなぁ……。
そう思っているとドアがノックされて食事が運ばれてきた。
飼育場内に併設されている食堂だとはいえ、先王陛下やその弟でもあるじいちゃんが来ることもあるからか、思っていたより豪華な料理で驚く。
――まぁ今日はじいちゃんたちが来るってあらかじめ連絡をしてるだろうし、この部屋の料理だけ特別なのかもしれないけど。
料理は見た目通り味もかなり良く、美味しく頂いた。
「さて……食事中に考えていたのだが、カーリーンよ、少しいいか?」
食休みのお茶を出してもらったあと、配膳してくれた職員さんを退室させて、大伯父さんが俺にそう聞いてくるので「うん」と返事をする。
「おまえが望むならこの飼育場、もしくはもっと大きなモンスターの研究所などを紹介することもできるが……もちろん、今すぐではなく、もっと成長してからだが……」
「兄上、まだカーリーンにその話は早いだろう……」
「む……そうだな。まぁとりあえず、今回の"シロの言葉が分かるという話をどうしたいか"だな」
「研究所っていうのは気になるけど……というか、ここの研究員さんたちに伝えなくてもいいの?」
「いや、内容自体は伝えるが名前を出していいのかという話だ。カーリーンが望むなら名前も出すし、その方が将来的に有利に働くこともあるだろう。だが、そうなるとシロの言葉が分かるということを証明してもらう必要もあるし、他にも色々やってもらうことにもなるだろう」
「そういうことなら、名前は出さないでいてくれるとありがたいです……あまり目立ちたくないから……」
――今回のは完全に予想外の出来事だしな……目立ちたいなら【アイテムボックス】の公表とかの方が効きそうだし……まぁそっちはもっと情報を集めたりして慎重に行くけど。
「ふむ。これからやりたいことも出てくるだろうし、そのほうがいいな。分かった、今回はそうしよう」
大伯父さんは俺の意見に対して困ったような顔どころか、少しも悩んでいる表情すらせず、微笑んでそう言ってくれる。
「いいの?」
「あぁ、もちろんだ。聞いておきたいことは聞けたしな。内容は"別のところで研究しているものからの情報"として報告しよう。そのものは表には出たくない研究者なのだとな。なに、研究者には己の研究に没頭したいがあまり、そういうものも居はするから納得するだろう」
「聞いておきたいことと言えばもう1つあったな。シロに魔力を流す際に魔石付近に魔力を流していたそうだが、その方が効率がいいのか?」
「うん、そうみたい。やっぱり近くを流した方が、取り込むコツを掴みやすいみたいだよ」
「ふむ……そうなると、別のものも呼んだ方がいいか……」
そう言ってじいちゃんは腕を組んで考え込む。
「ここにいる人たちじゃダメなの?」
「ん、あぁ。ここにも魔法が使える団員はいるし、研究員でも魔力を流せるものはいるが、そこまで緻密な操作となるとな……」
「そうなの?」
「ある程度の魔力操作を身に着けたあとは、その出力をあげたり魔力量を増やす鍛錬ばかりしておるからな……カーリーンほどの魔力操作が出来るものはここにはいないだろう。魔法師団の方にはいるだろうから、そちらから数人呼ぶ必要があるな」
――なるほど……それで伯父さんは俺の【ウォーターボール】の挙動を見て、あんなに驚いてたんだ……。
「カーリーンは触れていなくても魔力の流れが分かるか?」
「ある程度近くで集中すれば多分見えるかな」
「そ、そうか、さすがシドの隠密魔法を見破るだけはあるな……私は触れていないと分からないからな……」
じいちゃんが苦笑ながらそう言ってくる。
「それなら、カーリーンには悪いが、明日もここに一緒に来てくれないか?」
「え? それはいいけど……魔力の流れを確認するなら、多分母さんもできると思うんだけど俺でいいの?」
「あぁ。カレアが見えたとして、今回の報告書にでた"謎の研究者がカレアかもしれない"と思われる可能性があるからな。その点、カーリーンであればまだ幼いからそんな疑念を抱かれることもないだろう」
「たしかに……うん、分かったよ」
「……カーリーンよ、提案があるのだが」
じいちゃんとのやり取りの間、何かを考えているようだった大伯父さんが口を開いた。
「シロを引き取る気はないか?」
「え!? なんで!?」
「シロはカーリーンに懐いているようだしな。それに魔力を与えられると分かっているカーリーンのそばの方がいいだろう?」
「シロは人の言葉が分かるから、シロ経由で他の魔馬の管理もしやすくなると思うんだけど……」
「はははは、たしかにそうだが今までソレがなくても管理できてたのだ。それに今はシロがいるから楽になったとしても、シロがいなくなったときに結局戻ってしまう。それであれば今のうちにここから出してもいいのではないかとな」
――たしかに珍しい個体であるシロ経由で管理するのに慣れると、あとあと困ることになりかねないか……それにシロは人の言葉がわかっても、今のところシロの言葉は俺以外には分からないみたいだし……。
「あー、俺のところにシロがいる場合、魔馬のことで何かあったら手紙で連絡が取れるから?」
「ふははは。そこに気がつくか。まぁそれも理由の1つではあるな。何かあった際に、カーリーンにまた王都まで来てもらうより、手紙に症状を書いてシロに聞いてもらった方が早いからな。まぁ今の魔力不足の症状以外ではとくに困っている事態はないから、そういうことはなかなか無いと思うが」
大伯父さんは笑いながら、そう言って詳しい説明をしてくれる。
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