155.白い魔馬
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白い魔馬を見ていると、じいちゃんが口を開いた。
「1度は看取るための別の馬房にいたのだが、1か月経っても今の状態だったからこちらに移したのだ」
――なるほど……しかし、食べる量がすさまじいらしいのに、こうして世話しているのは珍しい個体だからか、1頭くらいだったら問題ないからなのか。もしくはそのどっちもで、研究対象として見ているからなのかな。まぁ見限って処分するような人たちじゃないのは分かったし、珍しい個体じゃなくても同じような対応をするんだろうな。
「もう少し近くで見てもいいですか?」
「えぇ、ここの子たちは大人しいので大丈夫ですよ。撫でてみますか?」
「い、いいんですか!」
「ははは、えぇ、かまいませんよ」
「あ、俺も!」
自分の家にも馬はいるし、じいちゃんのところにも魔馬はいるが、撫でるという機会はそうそうなく、せっかくなので俺も撫でさせてもらうことにした。
職員さんが白い魔馬に近づき、頭だけ柵の外に出るように呼んでくれる。
「サラサラですねぇ」
「手触りが気持ちいいね」
「ははは。その子も気持ちよさそうにしていますよ」
職員さんの言う通り、気持ちよさそうに目をつむっている白い魔馬を見る。
――職員さんは"弱っている動物を子供に見せるのはどうなのか"と気にしてくれたみたいだけど、今のところ弱っている感じは全くしないなぁ。"もっと撫でて"といわんばかりに軽く頭を押し付けてくるし。
白い魔馬を撫でながら他の柵にいる魔馬を見てみるが、座ったりしている子はいても、つらそうにしている感じではないので少し安心する。
「じいちゃんの所の魔馬と比べると圧も感じないし、なんなら可愛く見えてきたよ」
「私の所のは、他のと比べても力強い個体だからな」
「そんな魔馬を引き取ったんだ……」
「まぁその分、年はとっているんだがな」
じいちゃんとそう話している間も、白い魔馬はグイグイと頭を押し付けてきており、じゃれついているみたいで本当に可愛く感じてくる。
――じいちゃんの所の魔馬と比べるとかなり小さめで、まだ子供だと言われても不思議に思わない程度の大きさって言うのもあるか……。
飼育場であるここには若い個体しかいないのだが、この馬房にいる他の魔馬より年上なのにもかかわらず、体が小さいこの子を見てそう思う。
「そういえばこの子たちに名前は無いんですか?」
「基本的には育成が終わったあと、それぞれの部署などで決めることが多いので、名前らしい名前はつけないのですよ。とくにこの馬房ではね……」
「死んじゃうかもしれないから、少しでも愛着がわかないように?」
「え、えぇ。そういう意図もありますが、場合によっては個人の魔馬になる可能性もあるので、そうなった際にその方にちゃんとした名前を付けて貰えるようにですね」
まさか俺からそんな答えが返ってくると思っていなかったのか、職員さんは少し困惑しつつもちゃんと説明してくれる。
「ということは、子供のころから名前を覚えさせるとかはしないんですね」
「えぇ、魔馬は賢いので、すぐに自分の名前だと理解してくれますからね。ですが、名前などがないとこちらで飼育するときに不便ですし、かといって番号などで呼ぶのもかわいそうなので、その子の特徴や馬房の部屋番号などを少しモジって、一時的に単純な名前をつけたりすることはありますね。まぁ魔馬たちが勘違いしないように、あまり呼ばないようにはしてますけど。ちなみに、その白い子は"シロ"や"ヒメ"と呼ばれていますね」
「"ヒメ"ってことは、この子は女の子なの?」
「えぇ、ここにいる半数はメスですね」
そう話をしていると"呼んだ?"という感じで、白い魔馬は一瞬俺のことを見たあと、さらに頭をグイグイ押し付けてくる。
「……名前に反応してるみたいなんだけど……」
「あぁ……その子はちょっと事情が事情ですので……世話をする職員も普通に名前を呼んでるので仕方ないですね」
――まぁ他の子を比べると、シロはかなり長い間ここにいるんだもんな……。
「ほかの魔馬も撫でてみますか?」
「あ、はい!」
職員さんにそう言われて兄さんが嬉しそうに返事をする。
俺もついて行こうかと思ったが、撫でている手を離すとシロがどこか寂しそうに見えたので、そのまま撫でてあげることにした。
じいちゃんは万が一魔馬が暴れてもすぐに助けられるようにしてくれているのか、俺の近くで他の職員さんが持ってきた書類に目を通している。
『お腹がすいたなぁ……』
突然後ろから女の子のような声が聞こえ、俺はその消え入りそうなほど小さい声の主を探す。
しかし振り返っても女の子の姿は見えず、そこには柵に入っている白い魔馬がいるだけだった。
――あれ? 気のせいかな?
そう思ってシロを見つつ首をかしげると、シロも同じように首をかしげている。
『それにしても、この子の魔力はいい匂いがするし、撫で方も優しくて気持ちいい~』
またそのような女の子の声が聞こえ、シロが再び頭を押し付けてくる。
――え……この声ってシロ……? いやいやいや、さすがに動物の声は分からないでしょ……。
「ははは。カーリーンはその魔馬にかなり気に入られたようだな。気持ちよさそうに鳴きながらじゃれつかれているとは」
「う、うん、なんかそうみたい」
さすがに幻聴だと思いたかった俺は、ひとまずじいちゃんにはそう答えてシロに向き直る。
「ね、ねぇ、シロ。さっきお腹がすいたって言った?」
じいちゃんたちには聞こえない程度の小声でシロに話しかけると、シロは押し付けていた頭を戻してジィッと見てくる。
――まぁこれで返事がなくても動物に話しかけることはおかしくはないし、変には思われないよな。
『え……君、私の言葉が分かるの?』
どうやら俺の思い違いではなかったらしく、さっきから聞こえていた女の子の声はシロの声だったらしい。
――まって……え、まさかイヴから貰った"言語理解"って動物の言葉にも対応してるの!? い、いや、今までそんなことなかったんだけど、なんで急に!?
おおよその原因は推測できるが、このことをじいちゃんたちに言っていいのか悩みつつ、とりあえず何か理由が分かりそうなことを聞けないかと話してみることにした。
「う、うん。なぜか聞こえてる、というか分かる……でもシロの声しか分からないんだけど……?」
『うぅ~ん……それは私が特殊個体だからなのかなぁ……』
「自分が特殊個体っていう自覚はあるんだ?」
『まぁねぇ。まだ生まれて3年程度だけど、知識自体は色々持ってるんだよ』
――ここで生まれたから外に出たことは無いはずだけど……生まれたときから色々知ってるってことか? そんな不思議現象……あー、いや、俺自身転生者だしな。しかも別世界の……シロみたいな特殊個体がいても全然おかしくはないか。
「そうなんだ。それじゃあ、ちょっと聞きたいんだけど……今の俺みたいに魔馬――じゃなくてもいいけど、動物とかの言葉が分かる人って今までいた?」
『ん~。テイマーとかが動物の言葉が分かるとかでここにも来たことがあるけど、私たち魔馬はどちらかというとモンスター寄りだからなのか分からなかったみたい』
――なるほど……テイマーとかもいるのか……でもモンスターの言葉が分からないってことは、魔物使いみたいな感じの能力ではないのかな? って、今考えたいのはそこじゃないな……。
「うぅ~ん……このことはじいちゃんたちに伝えていいものか悩む……」
『まさか言葉を分かる人間が現れるとは思ってなかったから、驚きだよ』
シロはそう言ってはいるが、声の感じからはそこまで驚いているようには感じ取れなかった。
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