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145.リボン

 姉さんたちによって、着せ替え人形のごとく試着まですることになったのだが、俺が"スカートは履かない"と言ったことはきちんと理解してくれていた。


 ――まぁ結局ワンピース系を着ることにはなったんだけどな……しかも"やっぱりゆったりしてるのはいいなぁ"ってつぶやきを聞かれて、1着買うことになったし……。


 今日着ている服はシンプルなものではあるがそれなりにキッチリとしている服だったため、その窮屈さから解放されてつい言ってしまった結果なのでそこは諦めて受け入れた。


 ――諦めるくらいには着心地が良かったから仕方ない。オルティエンで買ったものよりすこし飾りがあるから、寝巻にするにはどうかなぁとは思うけど、それ以外に使い道なんてないからそうするけどな。


 いつまでも俺を着せ替えているわけにもいかず、本来の目的であるリボンの準備ができたことを店員さんが知らせに来たので、解放された俺は姉さんたちのうしろをついて行きながらそんなことを思う。


 案内されたカウンターの近くの机にはアリーシアが頼んだ通り、同じような模様が刺繍されているリボンが色違いで何種類か置かれていた。


 入店したときにはなかったはずなので、頼まれた品を見やすいようにするためにわざわざ用意したのだろう。


「色々あるわねぇ」


「どれがいいかしら?」


 姉さんたちが楽しそうに選んでいるのを母さんたちは微笑ましく見ている。


 ちなみに俺も母さんたち側なのは仕方ないと思う。


 ――普段から後ろに縛ってるから俺もよく身に付けはするけど、無地でも問題ないって思ってるくらいだからなぁ。なんならただの紐でもいいし……それにしても、やっぱり姉さんは普段付けてるようなタレ部分に刺繍があるタイプで、アリーシアさんはヘッドドレスタイプの、中ほどに刺繍があるタイプばかり見てるな。そういう意味では俺も姉さんと同じタイプのリボンになるのかな?


 そう思って今付けているリボンの端を見えるように前に持ってくると、縁に沿うように控えめながらにキレイにまとまった刺繍が見える。


 ――こうやってまじまじと見たことは無かったけど、機械も使わずこんな正確でキレイな刺繍ができるんだなぁ。まぁ前世でも職人の技ってすごかったもんな……。


「ほら、リボンがほどけかかってるわよ」


「あ、ありがとう」


 見るために前に引っ張ったせいでほどけかけていたリボンを、母さんがなおしてくれる。


「……カーリーンにはどの色が良いかしら」


「その前にデザインを決めないと。エルもカーリーン君もヘッドドレスタイプにしてみない?」


「動くときに邪魔にならないかしら……」


 リボンを直してもらっている最中にそんな話が聞こえてきた。


「さ、さすがにヘッドドレスタイプは遠慮したいかな……姉さんじゃないけど、動いたときに気になりそうだし……」


「そっかぁ」


 俺の意見をすんなりと受け入れてくれたアリーシアは、再びリボンが並んでいる机を眺め始める。


 ――ヘッドドレスタイプでも髪は押さえてくれるからそこまでじゃないかもしれないけど、この後ろで縛るのに慣れちゃってるからなぁ……寝るときとかはほどいてるけど、普段動くときに気になるかもしれないし……。


 たまに意見を聞かれてはそれに答え、しばらくの間子供たち3人でリボンを選んでいた。




 それなりに悩んだ結果、アリーシアも今回は細めのリボンを買い、同じような刺繍の色違いの物を買うことになった。


 ――刺繍も派手なものではないからパッと見はおそろいだとは分からないだろうけど、こういうのは本人たちが分かってればいいだろうしな。今回は俺は別に買うつもりはなかったんだけど、2人が楽しそうに選びつつ聞いてくるから断れるわけないわな……。


 買ったリボンの色は、姉さんが赤色、アリーシアが紫色、俺が青色と、それぞれの瞳の色にちなんだ色を買うことになった。


「あ、付けなおして帰るから袋はいいわ」


「はい、かしこまりました」


 アリーシアは店長さんにそう言うと、リボンを受け取って伯母さんの所へ行く。


「お母さま、付け替えてほしいのですけど……」


「ふふ、えぇ、いいわよ。どんな感じにしたいのかしら?」


 伯母さんにそう聞かれ、「えぇっと……」と悩んだ表情で俺の方を見る。


 ――俺が髪型とか気にするかもしれないから気にしてくれてるのかな? というかそうなると髪型も同じになるが……まぁ滅多に会えない友達とおそろいのものを買ったわけだし、せっかくだからそうしたい気持ちも分かるから仕方ないか。


「……ポニーテールでいいんじゃないかな?」


 アリーシアは髪が長いし、手早く付け替えられるからそれが良いと思って提案すると、嬉しそうな顔で伯母さんにそう頼んでいる。


「私も縛りなおしてほしい! あ、カーリーンも同じようにね!」


「うふふ、はいはい、それじゃあカーリーンからやりましょうか」


 姉さんが母さんにそう言ったことで、同じ髪型になるのは確定してしまったが、俺は姉さんたちよりは少し短いので、気にはならないだろうと思って受け入れた。


「姉さん、こっち来て少ししゃがんで」


「え? うん」


 母さんに縛りなおしてもらっている間暇なので、姉さんの髪を縛ってあげることにした。


「あ、縛ってくれるのね!」


 うしろを向かせてサイドテールにしてある髪をほどいたことで分かったようで、顔は見えないが嬉しそうな声色でそう言ってくる。


 俺の髪をすかしたあとのクシをそのまま渡してもらい、姉さんの髪をキレイにまとめて縛っていく。


「……カーリーン器用ね。上手にできているわ」


 俺の髪を縛り終わった母さんが、俺が姉さんの髪を縛るのを見て感心したようにそう言ってくる。


「まぁこれくらいならね。髪質がいいから縛りやすいし」


「ふふふ、そうなのね」


「カーリーン様は、よくエルティリーナ様の朝のご支度時にやっておられますからね」


「そ、そうなの、知らなかったわ」


 実際姉さんが俺の部屋で寝た次の日は、俺が姉さんの髪を縛っていることがほとんどなので否定はしない。


「カーリーン、ありがとう」


 縛り終わった姉さんは、ほどけない程度に髪を触りながら嬉しそうにお礼を言ってくる。


 ――なんかアリーシアさんが何か言いたげな表情で見てるけど……。


「私もカーリーン君に頼めばよかった……」


 ボソッと聞こえてきたアリーシアの言葉は、母さんと姉さんは聞こえていなかったようだが、聞こえてしまった俺と伯母さんは苦笑する。


 伯母さんも使用人に全部任せてるわけではないようで、アリーシアの髪もすごくキレイにまとめられているが、出来栄えの問題じゃないことくらいはさすがに分かる。


 ――あまり気易く髪に触れるようなことは憚られるし、今回はしかたないでしょ……。それにしてもこういう場合でも駄々をこねたり、縛ってもらったリボンをほどいてワガママを言わないあたり、いい育ち方をしてるよなぁ。


「そ、そういえば、他に案内してくれるって言ってたけど、楽しみだなぁー!」


「え、えぇ! この近くの場所なんだけど、美味しいから楽しみにしてて!」


 アリーシアの気を紛らわせようと言った言葉は、その役目をしっかりと果たし、いつもの様子のアリーシアに戻る。


 ――美味しいってことは食べる場所か。お昼は食べてきたから、カフェとか軽食屋かな?


「それじゃあ、もう少しは王都にいるから、また顔を出すわね。その時に色々話を聞かせてほしいわ」


「は、はい! 楽しみにしてます!」


 店長さんに「似合ってます!」と褒められたりしたあと、母さんは店長さんにそう言ってから店を出た。

今年もありがとうございました!

色々書きたいこともあるのですが、そちらは活動報告に書きます!


ブックマーク登録、評価やいいね等ありがとうございます!

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