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142.お茶

誤字脱字報告ありがとうございます!

いつも大変助かっております!

 ドラードから教わったソースが使われた料理は、オルティエンで食べた味とは少し違っていたが、それはそれでとても美味しかった。


 寝る前に廊下でドラードとばったり会ったので、夕飯の話をする。


「オルティエンのとは少し違ったけど、美味しかったよ」


「おぉ、そりゃあよかった。まぁ全部を完璧に教えたわけじゃないから、多少変わってくるのは仕方ない。それはそれで料理人の個性だしな」


 あまり味の違いが分からない俺でもそう感じたので、敏感な人からすれば完全に別物扱いされるかもしれないが、美味しかったから何も文句はない。


 そのあと少し話をしてドラードと別れ、魔法の練習は昼間にやったので部屋ではとくに何もせず、眠ることにした。




 翌朝、目を開けると見慣れた姉さんの寝顔が見える。


 昨夜ウトウトとしていた時に来たことを思い出し、起こさないように腕の中から抜け出してベッドの縁に座る。


 ――昨日、俺の魔法を受けるにはまだ早いって言われたからなぁ……姉さんたちに撃つのはまだ怖いからわざと威力を落とさなかったこともあって、少し後ろめたい気持ちもあったから言われるがままに一緒に寝るのを許可したんだっけか……。


 気持ちよさそうに寝ている姉さんの顔を見ながら、そんな事を考える。


 ――まぁ姉さんが来た時には既に眠かったから、何も言う気が起きなかったってのもあるけど……というか、俺が自然に起きたのにまだ寝てるってことは、今日は特に予定を決めてないのか。


 昨日の夕食のあと、両親から今日の予定は特に何もなく、ゆっくりとできる日にしているとは聞いていた。


 しかし、剣の稽古をまともにできていない姉さんは、朝からするのではないかと思っていたのだが、この様子だと違ったようだ。


「おはようございます、カーリーン様。エルティリーナ様もこちらでしたか」


「おはよう、リデーナ。初日はさすがに目新しいからか疲れてたからか、自分の部屋で寝たみたいだけどね。リデーナが起こしに来たってことは父さんたちはもう起きてるんだ?」


 昨日はリデーナが両親の朝の支度を手伝っていたためリアミが起こしに来ていたらしいので、そう聞いてみる。


「はい。といっても、本日はゆっくりと過ごされる予定と聞いておりまして、カーリーン様たちの起床も少し遅めでいいとのことでしたので」


 ――自然に起きられたけど、いつもよりは遅い時間だったのか。


「姉さんは起こしておくから、兄さんがまだならそっちの手伝いに行ってていいよ」


「かしこまりました。のちほど戻ってまいります」


 そう言ってリデーナが部屋を出たあと姉さんを起こし、戻ってきたリデーナに着替えを手伝ってもらってから、リビングへと向かった。




 朝食は食べ終わったが、今日は本当に予定通りゆっくりと休むらしく、稽古の話も出なかった。


 そのことで姉さんが何か言うかと思っていたが、父さんは昨日の貴族の集まりで精神的に疲れているのを察していたのか、とくに何も言わなかった。


 しかし、そんな姉さんが庭に出るときに、父さんも体を動かして気を晴らしたくなったのか一緒に出ていき、結局稽古のようなことをしている声が聞こえてきた。


 普段は本を読んでいることが多い兄さんも、稽古としてナルメラド騎士団の訓練に参加する日が近いからか一緒になって庭に出ているので、リビングには俺と母さんとリデーナしかいない。


「こちらがいつもの紅茶で、こちらがカーリーン様が買ってきたものです。一応飲み比べるために少量ずつにしております」


 リデーナがそう言って俺と母さんの前に、紅茶が半分くらい入ったカップを2つずつ用意してくれる。


「ありがとう。せっかくだからリデーナも一緒に飲みましょ?」


「かしこまりました。それでは失礼します」


 こういうやり取りも見慣れた光景だが、徐々にリデーナはすんなりと受け入れることが多くなってきている。


 ちょうどおやつ時間だということもあり、お茶請けにクッキーも出してくれているのだが、普段はそれらを先に摘まみながら飲む母さんも今回は味をたしかめるためか手をつけず、いつもの紅茶を先に飲む。


「それじゃあ頂くわね」


「う、うん」


 普段飲んている方の味を確認したあと、俺が店員さんに頼んで調整してもらった方をひと口飲む。


 ――ひと口飲んだけど、鼻に抜ける香がたしかに甘い感じになってたのが俺でも分かるくらいだったな……味の方はとくに違いを感じられなかったけど、母さんはどうだろう……。


 少しドキドキしながら、母さんが感想を言うのを待つ。


「ふぅ……この甘さもいいわねぇ。私はこっちの方が好きよ?」


「よ、よかったぁ……」


「ふふふ、そこまで緊張してたの?」


「一応1袋は普通のものを買ってきたけど、勝手に味を変えちゃったから少しは不安にもなるよ……」


「私の言葉を覚えてて変えてくれたんだから、嬉しい以外の気持ちがあるわけないじゃない」


 母さんは微笑みながらそう言ってくれる。


 ――たしかに母さんがこういう事で何か小言を言うのは想像できないんだけどさ……まぁ喜んでくれたようでよかった。


「リデーナはどう?」


「えぇ、味もそうですが、鼻に抜ける甘い香りもいっそう感じられて美味しいと思います。配合割合をメモしたものが貼ってありましたので、今度からこちらになさいますか?」


「えぇ、そうしましょうか。ありがとうね、カーリーン」


「う、うん。そ、そういえば、今まで味を変えたりはしなかったの?」


 改めてお礼を言われたことで照れくさくなった俺は、話題を変えるためにそう聞いてみる。


「そうねぇ……カーリーンに聞かれた時みたいに、変えようと思ったことは何度かあるのだけれどねぇ……」


「奥さまは、もともとそこまで味にこだわりがないので、紅茶も市販されているもので十分満足されていたのですよ」


「そうねぇ。元から好みの味ではあるし、わざわざ変える必要もないかと思っていたのだけれどね」


 ――そうだよな……今でこそ優雅にお茶を飲んでたりするけど、一時期は野営とかメインで活動してたような人だもんな……この紅茶の味の違いは分かるほど敏感だけど、べつに味にうるさいってわけじゃないんだよな。


「でも本当にカーリーンが買ってきた紅茶の方が、私は美味しく感じられて好きだわ」


 話を変えようとしたはずなのに、結局再び褒められて照れくさくなり、それを隠す様にクッキーを食べる。


「あー、おやつ食べてるー!」


 ちょうど、ちょっとした運動という名の稽古も区切りが着いたようで、木剣を片手に汗を垂らしながら姉さんがリビングに戻ってきた。


「姉さん、そろそろ温かくなってきたとはいえ、汗はちゃんと拭かないと風邪ひくよ?」


「これくらいなら平気よ?」


 ――まぁたしかに姉さんどころか、両親や兄さんも体調を崩したところを見たことは無いけどさ……うちの家系は体が丈夫なのだろうか。まぁ父さんや姉さんが風邪で寝込む姿は想像できないが……。


 そう思っていると、姉さんがクッキーを欲しそうに見ながら口を開けたので食べさせてあげると、満足そうに食べながら汗をサッと拭いている。


「あとでお風呂に入って、汗を流していらっしゃいね」


「はーい」


 リデーナが戻ってきた姉さんや父さんたちの分のお茶を用意し、俺たちの分も普通に注いでくれる。


「うん、僕はコレ好きだなぁ」


「たしかに香りは甘い感じになったか」


「えー、味も甘くなってるよ?」


「そ、そうか?」


 調整してもらったお茶の感想を貰おうと、父さんたちにも飲んでもらっているのだが、それぞれがそう言っている。


 ――父さんは予想通りって感じだけど、姉さんは意外にも味に敏感なのか……あ、だから野菜が苦手なのか?


 そんなことを考えながら、その後は家族でゆっくりと過ごした。

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