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140.魔法を受ける練習

 そのあとしばらくは、【ウォーターボール】を待機させて魔力操作の練習をしていた。


 しっかり魔法がうまくなっていたアリーシアは、限界が近づくとちゃんと魔力操作をして少し離れた位置に飛ばしていたので、誰も濡れることはなかった。


 といっても、さすがのアリーシアもすぐに魔法を待機させることはできず、水たまりはすぐに広がっていったのだが、元々稽古などに使っている庭なのでそのことで何か言われることはないようだ。


 むしろ、ばあちゃんやイリスは少しでも待機させられると褒め、待機させている間は「頑張れ~」と応援していて楽しそうである。


 そして少しずつ魔法を待機させられるようになっていくアリーシアをみて、姉さんは負けられないと思ったのか、家でやるとき以上に集中して魔力操作を頑張っているようだった。


「僕もちょっと休憩」


 姉さんとアリーシアは頻繁に魔法を飛ばしては小休憩していたのだが、兄さんは最初の魔法を維持したままその様子を見ていたのでさすがに疲れたらしい。


「カーリーンはまだ平気そうだね?」


 2つに分けて待機させていた【ウォーターボール】をたまにクルクル回したりしながら、兄さんと同じように姉さんたちの様子を見ていた俺に、休憩し始めた兄さんがそう声をかけてくる。


「あー、俺もそろそろ疲れたから、休憩しようと思ってたところだよー」


 ――実際はぜんぜん疲れてないけど、さすがにこの状態を維持しっぱなしってのもな……前に待機させてるのを忘れて自分を濡らしたことがあったし……。


「ははは。まぁそういうことにしとこうか」


 俺の言葉が棒読みだったからいつもの稽古風景を知っているからかは分からないが、兄さんは笑いながらそう言って俺も座れるように少し移動してくれる。


「ふむ……カーリーンはもともと魔法がうまかったがさらに上達しておるようだし、ライもしっかり稽古に励んでいたようだな」


「兄さんと姉さんは剣の方もあるからね。そっちも頑張っててかなり上達してると思うよ」


 褒められて悪い気はしないのだが、実際俺は剣の方はまだで魔法の練習ばかりしているのは事実なので、気をそらすためにそう言う。


「ほう。今日はあまり時間がないから見られないが、楽しみにしておこう」


 じいちゃんのその言葉で、今日は剣の稽古をしないことが確定したと分かった姉さんは何か言いたそうな表情になるが、もうじき日も陰ってくる時間なので何も言わないまま少し拗ねているような表情でお茶を飲む。


「剣の稽古といえば、最近カーリーンも参加してるんですよ」


「うん? そうなのか? まだ体力づくりくらいだと聞いているが」


 唐突に兄さんにそう言われるがじいちゃんの言う通り、剣の稽古の時間は体力づくりをしているくらいで、まだ剣を握ったことすらない。


 ――剣の稽古の時……魔法を父さんに向けて撃ってることか……?


「えぇまぁ、稽古の初めの体力づくりは一緒にやって、そのあとの素振りとかはやってませんが、魔法を使って剣の稽古を手伝っているんですよ」


「そういえばそんな報告も受けたな……実際は何をやっているのだ?」


 ナルメラド騎士団の隊長であるコーエンが、"オルティエンでそういう稽古をした"と報告はしているようだが詳細は伝えていないらしく、じいちゃんは内容を兄さんに聞いている。


 ――さっき【ウォーターボール】を2つに分けたのを見て驚いていたし、この感じだと"10連射していた"とかの報告は受けてないんだろうな……。


「僕たちはまだ参加させてもらってませんが、父さんに【ウォーターボール】を撃ってます。もう少しすれば僕たちもその稽古に参加させてもらう予定です」


「……なるほど、たしかにそれならカーリーンの練習にもなるし、防御の練習にもなるわけか。まぁフェディほどになれば怪我どころか、まともに当たりすらしないだろうが……」


 納得したように言っていたじいちゃんだったが、途中から少し何か考えている表情になる。


「コーエンから報告を受けた時は、カーリーンは魔法をうまく使えるようになっているのだなと喜んだが……おまえたちの方針にあまり口出しするつもりはないが、殺傷力が低いとはいえ攻撃魔法を人に向けて撃たせるにはまだ早いのではないか……?」


「カーリーンはちゃんと言いつけは守るし、聞き分けもいいから大丈夫よ?」


「いや、まぁ……たまにしか会わない私でも、そこは充分に理解しているが……」


 母さんの言葉を聞いてある程度納得はしているようだが、少し心配そうな表情で俺を見る。


 ――まぁこんな幼い子がそんな物騒な稽古してたら不安にもなるよな……いくらこの世界には危険が身近にあるとはいえ、物心ついたらすぐに戦うすべを身につけなければならないほど危ないわけではないし……。


 魔法を使えること自体が楽しく、父さんに向けて撃つ稽古も加減や操作の練習にもってこいなので、じいちゃんの言葉でそれがなくなる可能性をなくすために、俺からも大丈夫だと伝えることにした。


「俺は大丈夫だよ。それに最近だと、うまく威力の調整ができるようになったって父さんや母さんにも褒められるようになったし、こうやって王都まで来るにも、いざという時に使えた方が何かといいでしょ?」


「う、うむ……たしかにそうなのだがなぁ……」


 ――ぶっちゃけ両親が揃っててそんな状態になるって言うのが想像できないけどな……英雄と言われてるレベルの2人がどうしようもない状態ってもうすでに大惨事が確定してるようなものだし、想像できないというかしたくない……まぁでも、土魔法で机や竈を作ったり、氷を作ったりできたのは魔法の練習をしてたからだし、間違ってはないな。


「何なら今からちょっとやって見せるか。カーリーン、土魔法で剣の形を作れるか?」


「え、うん、いつものサイズのなら見慣れてるから作れるけど……【ロッククリエイト】」


 父さんに急にそう言われたので、若干戸惑いつつも見慣れた長さの片手剣を魔法で作り、父さんに渡す。


 氷魔法を見せた時にも剣の形状のものは作っていたからか、じいちゃんたちにそこまで驚かれることはなかったが、なんでもないように作ったのであまりに自然すぎて気にならなかっただけかもしれない。


「ふむ、十分だな。それじゃあいつものように俺に向けて撃ってきてくれ」


父さんは俺の作った剣を軽く振って感覚をたしかめたあと、そう言いながら離れていく。


「休憩していたようだが、カーリーンは平気なのか?」


「ふふふ、大丈夫よ。いつものはもっと魔法を使ってるもの。お兄ちゃんたちと休憩してただけだものね?」


「う、うん……」


 両親は俺がまだまだ余裕があるのに、兄さんたちに合わせて休憩したことを分かっていたうえで何も言ってこなかったが、流れ的に俺が魔法を使わなくてはいけなくなったので暴露される。


「よし、いいぞ!」


 離れた位置に移動した父さんが剣を構えてそう声をかけてくるので、いつも通りの準備をする。


「【ウォーターボール】【ウォーターボール】【ウォーターボール】」


 そう唱え続けて合計10個の【ウォーターボール】を待機させると、2つに分けただけで驚いていたじいちゃんが、さすがに声を掛けてくる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ、もうそこまでできるのか!? こんなことコーエンは言ってなかったぞ!?」


「まぁコーエンも少しお茶目なところがあるからね。カーリーンは騎士団の訓練場でもこれをする約束をしていたし、その時に初めてお父さまに見てもらって、驚いた顔が見たかったんじゃないかしら?」


 ――そういえばそんな約束もしてたな……だったら遅かれ早かれ見せることにはなるし、別に躊躇うこともなかったか。


「なんだそれは!?」


 声がした方を見てみると、屋敷の出入り口で目を見開いて固まっている伯父さんの姿が見えた。

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