133.冒険者
そのあとも話をしながら食べていたのだが、俺が半分ほど食べる頃には、ドラードはほとんど食べ終わっていた。
――ひと口ひと口の量が多いというわけではないのに、早いなぁ……口に入れて飲み込むまでが早いのか? その割にはちゃんと調理法とか、味のことも考えてるみたいだしすごいな……。
そう思ってドラードを見上げて呆気に取られていると、ピンク髪の女性に見られていたようで笑われた。
「あははっ。あ、ご、ごめんなさい。あまりに言いたいことが分かっちゃったものだから」
「"そんなに早く食べて、本当に味とか分かってるのか"とか思ってたでしょ」
「いや、まぁ、うん……」
水色の髪の子に言われたことは、大体合っていたので否定せずに頷く。
「でもドラードは料理が得意でその料理も美味しいから、ちゃんとそのあたりは分かってるよ」
「へぇ~。あ、お兄さんも気を悪くしちゃってたら、ごめんなさい」
実際はかなりな年齢らしいが、見た目は若いドラードは「気にするな」と笑いながら言う。
「お姉さんたちはハンターなの?」
ピンク髪の女性が席を移動したときに腰に剣を携えているのが見えたことや、水色の髪の子が弓を背負っているのでそう聞いてみる。
「私たちは冒険者の方ね」
「ということは、あちこち行ってるんだ?」
「うぅ~ん……あちこちというほど移動はしてないかなぁ……西の町で登録したあとここに来て、それからはここをベースに活動してるわ」
「いつかは、他国を含め、あちこち行ってみたいと思ってる」
ピンク髪の女性が少し困ったように言うと、水色の髪の子が意気込むようにそう付け加える。
――まぁ冒険者だからって、必ずしもあちこち行かなきゃいけないってわけじゃないみたいだもんな。
「それで、えぇっと、カーボウちゃん? は王都に住んでるの?」
ドラードが俺のことを"カー坊"としか呼んでおらず、それを名前だと思ったようで確認するように聞いてくる。
「俺の名前はカーリーンだよ。こっちは分かってるかもしれないけどドラードね」
「あ、ごめんなさい……あなた男の子だったのね……」
――あぁ、女の子だと思ってたから"坊"っていう単語を名前の一部と勘違いしたのか……でも"カーボウ"だったとしても男の子っぽいと思うんだけどなぁ……。
「えっと、私はレオナで、こっちはアリエスよ。よろしくね」
ピンク髪のレオナと名乗った女性は、勘違いしていたことを申し訳なく思っていそうな表情のまま、名前を教えてくれる。
「俺たちも最近王都に来たばかりで、1週間くらいしたら帰るよ」
女の子に間違われるのは慣れているので、その空気を変えたくて話を戻すことにした。
「あら、そうなの? どこから来たの?」
「オルティエンだね」
「オルティエン……アリエス、どのあたりか分かる?」
「ここからずぅっと東の方。海もある。"魔の森"がある場所って言えば分かる?」
「えっ!? そんな遠くから来たの!? 移動が大変だったでしょう」
レオナは"オルティエン"は分からなくても、例の森の場所は知っていたようで、アリエスからそう聞いて驚いている。
――ここであの森にいるモンスターの話がすぐに出てこないあたり、森に入らなければ割と平和だと知れ渡ってるのかな。それかレオナさんたちは若いから、魔龍の話は本とかで知っただけなのか……まぁ俺もそうだし、あの森からほとんど出ることなく討伐されたらしいから、ほとんどの人がそうなんだろうけど。
「移動は大変だったけど、途中の町でのご飯とか、野営の時とか楽しかったよ」
「野営が楽しいと言えるなんて、よっぽど強い人が一緒にいたのね……」
「あっちの方のご飯は気になる」
レオナは俺の感想に何か気になるところがあり、チラッとドラードを見ながら呟くが、アリエスは食べ物のことの方が気になっているらしい。
「食い物と言えば、そのシチューの肉は鳥か?」
ドラードは自分の分を完食して話を聞いていたが、俺やレオナたちはまだ食べながら話をしており、彼女たちが食べているものが気になったらしい。
「そう。たぶんホロホロ鳥」
「ほぉ~。そんなのもあるのか。どのあたりで買ったか覚えてるか?」
スプーンでシチューをひと掬いして、口に運ぼうとしていたアリエスはそう聞かれて、食べようとしているポーズのまま「あっち」と指をさす。
「ドラード、まだ食べるの?」
「あぁ、気になったからな。ちょっと行ってくるわ。ちょっとカー坊を見ててくれ」
「え、ちょっ!? ドラード!?」
ドラードは俺を足の上からおろし、「大人しくしてろよ」と笑いながらなでたあと買いに行く。
――えぇ……いやレオナさんたちは俺から見ても悪い人に見えないし、ドラードが任せたんだから大丈夫なんだろうけど……。
「普通この場面で俺を置いて行く? まぁまだ食べてる途中だけどさぁ……」
そう文句を言いながら、椅子の上で膝立ちして食事を再開する。
「あはは。任されちゃったわね」
「うん。あんな人に任されたのは自慢できるかもしれない」
「あんな人?」
鎖骨あたりまで伸びている水色の髪を揺らしながら、どこか得意げに言ったアリエスの言葉が気になったので聞き返す。
「うん。あの人かなり強いでしょ? そんな人に任されるくらいには、私たちは認めて貰えたのかなって」
「そんなこと分かるんだ……」
「自分との力量差をある程度は感じられないと、痛い目を見るからね」
「それどころか、死んじゃうかもしれないし」
「ちょ、ちょっとアリエス……せっかく言葉を濁してるのに……」
「冒険者のことをあまり知らないんだけどさ、おねえさんたちは組んで行動してるの?」
ハンターや冒険者の存在は知っているが、未だに父さんたちに詳しく聞いたことは無かったので、話題として軽く聞いてみることにした。
「えぇ、私たちは2人でパーティー登録してるわ」
「何人まで組めるの?」
「ん~そうねぇ。厳密に決まってるってわけじゃないみたいだけど、多くても5人から8人くらいかしらね?」
「10人や20人でもいいってこと?」
「ん~、さすがにそこまでの人数は見たことがないわね……依頼ってパーティー単位で受けることになるんだけど、人数が増えるとその分取り分が減っちゃうから」
「依頼達成率や安全性はあがるけど、収入が減るから生活面が危険になるかもしれない」
「だからギルド側も、1つのパーティーは5人くらいとして依頼を作ったりしてるらしいわ」
――なるほどなぁ。あくまで依頼単位での報酬になるのか。
「てことは、レオナさんたちは結構収入が多いの?」
「うぅ~ん……安全面を考慮してそんな難しい依頼は受けないからねぇ。依頼にもソロ用とかペア用みたいなランク分けされてるものもあって、ソロ用のを受けてさっさと終わらせたりするから、そこまでじゃないわ」
「そのあたりの規制はないんだ?」
「この周辺はそこまで強いモンスターはいないけれど、とにかく依頼の数が多いからねぇ……場所によってはソロ用依頼はパーティーだと受けられなかったりするけどね。私たちが登録した町がそうだったわ」
「まぁ何か事情があってソロでやってる人の収入源を取る形になっちゃうもんね」
「え、えぇ。そういうことね」
「カーリーン君、賢い」
「ま、前に少しそういう話を聞いたことがあっただけだよ」
「オルティエンは魔の森もあるから、ハンターや冒険者も結構多そう」
「なるほどね」
「そこそこ冒険者の人たちも見たことはあるけど、ちゃんと話したことがなかったから……」
「あはは、そうなんだ? それじゃあ第一号として、答えられることなら教えてあげなくちゃね」
レオナは笑いながらそう言ってくるので、もう少しだけ冒険者について聞くことにした。
ブックマーク登録、評価やいいね等ありがとうございます!
※お知らせ※
ツギクルブックス様より、「異世界に転生したけど、今度こそスローライフを満喫するぞ!」の第1巻が発売中です!
どうぞよろしくお願いいたします!





