132.屋台巡り
抱かれたまま歩いて行くと、少し人の数が減った気がする。
「たしかに少し人は減ったけど、それでもこれだけいるんだね……」
「まぁ飯時だから仕方ないな。それでも周りが見える程度には人が減ってるから、情報通りなんだろう」
そう言われて周りを見ながら更に進んでいくと、料理の載った皿やお盆を持っている人や、串焼きにかぶりつきながら歩いている人などが多くなってくる。
中央にある広場らしきところに着くと、4人用のテーブルやベンチなどが置いてあり、その広場を囲うように食べ物の店が並んでいる。
――おぉ~! まるでフードコートみたいだなぁ。見たところ肉系だけじゃなくてパンケーキとか甘いものもあるみたいだし、かなり種類も多そう。
「さて、俺たちも買いに行くか。何が食べたい?」
「うぅ~ん……海の魚が食べたいけど、あるかな……」
「お、いいな。探してみるか」
近くを通った人が持っていたパンケーキやフルーツがのった皿から、すごく美味しそうな甘い香りがして"それもいいな"と思うが、さっきの話で魚が食べたくなっていたので素直に答える。
「でも、そこの串焼きもすごくそそる匂いで気になる……」
「いい香辛料を使ったタレをつけて焼いてるんだろう。気になるなら場所は分かったし、後で買うか」
「魚を探してる間に他にもあるかもしれないから、候補だね!」
「はは。カー坊が食べきれなくても俺が食べてやるから安心しろ。それかオレのを分けてやるよ。オレも色々食べてみたいからな」
そう話しながら、目的の屋台を探して歩いて行く。
「お。煮物ならあったな。どうする?」
「うぅーん。久しぶりにシンプルな塩焼きが食べたいけど……輸送する関係で干されてたりするだろうし、普通の塩焼きはなさそう?」
「よく知ってるなぁ。まぁここは王都でも富裕層狙いの市場だからな。普通に冷蔵系の魔道具を使って持ってきてるだろうし、あると思うぞ? さすがに生のものは無いだろうがな」
――冷蔵系の魔道具は高価だって言ってたけど、王都ともなるとそういう商売をしてる場所もあるか。オルティエンからだと遠すぎるけど、南の方にある港はそこまで離れてないんだろうなぁ。氷が珍しいくらいだから冷凍じゃなくて普通に冷蔵だろうけど。いや、珍しいけどいないわけじゃないから、そういう魔法使いを雇ってる大きな商会がやってるのかな? ここは貴族も来るから高品質な代わりに高価な場所らしいし、ありえるな。
そんなことを考えているとドラードが目的の店を見つけたようで、そちらに寄って行って店の人に話しかける。
「塩焼きなら1匹丸ごとと半身とありますが、どちらにします?」
そう聞かれて焼いている魚を見ると、そこまで大きくはないが、香ばしい匂いと程よい焦げ目のついた身が食欲をそそる。
「うぅ~ん。色々食べてみたいから半身で!」
「俺は2匹くれ」
「はい、まいど。少々おまちください」
他の食べ物も気になるし、俺はそこまで量は食べられないので小さい方を注文すると、ドラードは迷わずそう注文する。
――まぁ、ドラードだしこれくらいのサイズなら、他の物を買っても普通に食べきるだろうな。
たまに屋敷でドラードが食事をしているタイミングでお邪魔している時もあり、よく食べるのは知っているので、何も言わず店員さんが用意してくれるのを眺める。
「はいよ。お盆はそこに積んであるのを使ってくれ。食べ終わったら、適当に近くの屋台に返してくれればいいんで」
そう言って店のおじさんは、横に積んであるお盆をさしながらそう言ってくる。
――なるほど、それぞれの店が1、2品とかずつ作ってて、ビュッフェみたいに好きなものを色々と食べられるエリアか!
「カー坊の分も持ってやるから、肩車にするか。ちゃんと角持っとけよ」
そう言って抱いていた俺をさらに持ち上げて、肩車に切り替える。
「いいの?」
「この人ごみの中、カー坊に持たせて人とぶつかっても困るし、席取りも兼ねて1人で待たせるのもアレだからな」
「いや、そっちは分かるんだけど、角を触っていいの?」
「あぁ、そっちか。別にいいぞ? そんなに感覚があるわけじゃないし、簡単に折れるようなもんでもないしな」
「そ、それなら……」
まだうまく話せない頃に少し触らせてもらったことはあるが、握るのは初めてなので恐る恐るといった風に手を伸ばす。
ドラードの角は、見た目通り手触りがよく少しヒンヤリとしていて、握るととても硬いのが分かる。
「お、おぉ……」
「ははっ。カー坊は覚えてないだろうが、まだ小さかった頃もそんな反応してたな」
ドラードはそう言って笑いながら支払いをし、料理を載せたお盆を両手に持って屋台を離れる。
「さて、他に何を食うか」
「野菜もほしいね。でもサラダの屋台とかあるのかな……」
「まぁそれぞれの屋台で一品のみってわけじゃないし、どこかにあるだろう」
「冷めちゃう前に食べたいし、最初に目をつけた串屋に戻りつつ、通り際に気になったものを食べよう? サラダはなかったらなかった時だよ。あとで買いに行ってもいいし」
「そうだな」
そう決まったので、屋台を見て気になったものを買いつつ移動し、空いているテーブルを探し始めた。
ちょうどパンを売っている屋台にサラダもあったので、栄養バランスはなかなかに良くなったんじゃないかと思う。
――まぁそれでも肉に魚に煮物にと、欲張りプレートみたいになってるけどな。いろんなおかずを少しずつ食べるのも好きだから、こういう場所があるのは楽しいし、嬉しいなぁ。
そう思いながら、どこか座れないかとドラードと一緒にキョロキョロと探す。
「どこもいっぱいだねぇ」
「お盆があるから、ベンチでもいいが……お、あそこなら2つ空いてるな、相席になるが」
「まぁこれだけ人がいたら仕方ないよね。聞いてみよう」
そう相談をして、屋台付近と比べると人も少ない食事スペースを歩いて行く。
「すまん、相席いいか?」
「……えぇ、いいわよ」
元々座っていたピンク色の髪をした女性は、一緒に座っている水色の髪の女の子に短い相談をし、許可がもらえたようでそう返事をしてくる。
2人は向かい合って座っていたのだが、長い髪をポニーテールにしているピンク髪の女性が、お盆をもって水色の髪の子の隣に移動して席を開けてくれた。
ドラードはお盆を机に置いたあと、俺を持ち上げて椅子に斜めに座り、左足を胡坐をかくようにして椅子にのせ、その上に俺を座らせる。
「ドラード、行儀悪いよ?」
「仕方ないだろ、こうでもしないとカー坊が座って食えないだろう?」
――たしかにドラードの足に座っててこれだから、普通に座ると届かないな……まぁ今は屋敷でもないし、気にすることはないか。
そう思ってご飯を食べ始める。
「ん~! 久しぶりの塩焼き、やっぱり美味しい!」
「はは。魚の味も分かりやすいしなぁ。これは特に生臭さも少ない種類みたいで食べやすいな」
最初に買った焼き魚を食べて感想を言うと、ドラードも同じように冷める前に食べたかったらしく、同じものから手をつけていた。
「お。これもうまいな。ほれ、食ってみろ」
ドラードはそう言って、俺が"食べきれないかもしれないから"と買わなかったひと口ステーキをフォークに刺して持ってくるので、それをパクッと食べる。
「ちょっと濃すぎるかな? でも香ばしくて美味しい……あ、パンとかサラダと食べるとちょうど良くなるね」
「はは。何回もタレにつけて焼きなおしてるんだろうな」
正面に座っている女性たちは、そうやってしゃべりながら食べている俺たちの様子を、たまに微笑ましく見ていた。
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