125.合流
伯父さんに抱かれたまま応接室へ戻ると、みんなは驚いた表情になった。
特に驚いていたのは伯母さんだったが、さっき本人から聞いた"俺にくぎを刺す"という話を知っていたうえで、俺と仲良さそうに部屋に入ってきたからだろう。
「待たせてすまない。久しぶりだな」
俺を下ろしたあと、父さんと握手しながらそう挨拶をする。
「お兄さま、お久しぶりです」
「あぁ、カレアも元気そうでよかった」
母さんは伯父さんに軽いハグをしながら再会を喜び、嬉しそうに話をしている。
伯父さんが母さんと話している隙に、伯母さんがこっそりと俺の方へ寄って来てしゃがみ、バレないように小声で話しかけてくる。
「カーリーン君、部屋に入ってきた時の雰囲気からして、大丈夫だとは思うのだけれど……何もされなかった?」
「アリーシアさんとのことで、くぎを刺すって話?」
「……そ、そのことで合っているけれど……まさか、知ってるってことは……」
「あ、いや、"そのつもりだった"って話してくれただけで、別に何も言われてないし、何もされてないよ」
「そ、そう。はぁ……よかったわ……いくら娘を愛してるからって、こんな幼い甥っ子に何をバカなことをって話はしていたのだけれど、"そういう話はしない"って約束される前に会うことになっちゃったからね。一緒にいる時なら軽く小突いて止めるつもりだったけれど、お手洗いに行ってる時に会うことになるとは思ってなかったから、一緒に部屋に戻ってきたときは心配したわ……」
「最初はなんか難しそうな顔してたけど、挨拶したら優しく撫でてくれたよ」
「ふふふ。あなたはアリーシアにも似ているものね。それに実際に会って、"こんなかわいい幼い子に何を言おうとしてたんだ"って、大人気なかったことに気がついたのかしらね」
伯母さんにそう笑いながら撫でてもらっていると、姉さんの自己紹介も終わったようでみんな席に着こうとしていたので、俺たちもそれぞれの場所に座る。
「改めて、急用で遅くなってすまないな。次回からは他人行儀にこの部屋ではなく、ちゃんとリビングに通すようにしておく」
伯父さんはそう言うとお茶をひと口のみ、話題を変えて再度口を開いた。
「それにしても早かったな。予定では2週間だっただろう」
「えぇ、お父さまから貰った馬車が凄かったわ」
「あぁ、アレはなぁ。うちにも作ってもらっていて町でしか乗ったことはないが、振動が少なく快適だな。それがオルティエンまでの長距離となるとなおさらか」
「その感想とかの報告をお父さまにしなくちゃいけないのだけれど、夕飯の頃には来るのかしら?」
「いや、そろそろ来ると思う。むしろ、私が帰ってくる前に来ていなかったのが不思議だ」
「本日はヒオレス様も、ヘリシア様を連れて外出なされておりましたので、準備に時間がかかっているのかと思われます」
執事さんがそう告げると伯父さんは「そうか」といったあと、少しからかうような表情になる。
「おまえたちが来るのが早すぎたからな。父上たちも急な訪問でバタバタしているのだろうなぁ」
「はは、すまない。これでも十分休息を取りつつ移動したつもりなんだがな」
伯父さんの言葉に父さんは苦笑しながら答える。
「それは子供たちを見れば分かるさ。しかし、そうなるとおまえたちが王都に滞在しているタイミングも増えそうだな? 今までは子供もいるし移動時間も長かったから、今回のような催しがなければ来なかったからな」
「そうねぇ。子供たちのお披露目パーティーには来ていたけれど、その時も私は来ていなかったものね。これからは少しは増えると思うわ」
「それは喜ばしいことだな。英雄殿夫婦は、今でも夜会で話題に上がるからな。いるなら招待状が大量に来るだろう」
「……それは勘弁してほしいわね……」
「相変わらずその手の集まりは苦手か……」
「そりゃあ、オルティエンに嫁いでからは、まともに貴族のお茶会なんてしていないもの。変わりようがないわ」
――町の人たちとお茶をするのは見たことあるけれど、そもそも貴族の人は来ないもんなぁ……港町が近くにあるし、来ても不思議じゃないのにな……。
「まぁこちらにいるうちに招待が来たら、いくつか顔を出すといい。フェディはともかく、カレアは本当に久しぶりなのだからな。それにおまえたちがいない時の夜会で、親族だからと色々話を聞かれていた俺たちの身にもなってくれ……最近は減ったが、王都に来ているのに顔を出さないとまた聞かれる羽目になりそうだ」
「そうだったの……分かったわ。イリス、今までごめんなさいね」
「うふふ。いいのよ。"皆が知らないカレアのことを私は知っている"って、特別な感じが嬉しかったからね」
伯母さんは本当に嬉しそうにそう言うと、母さんも嬉しそうに「ありがとう」と返す。
「お兄さまにも迷惑をかけていたようで、ごめんなさい」
「……いや……ま、まぁおまえが招いた厄介事ではないのだから、謝ることはない。来られない理由もしっかりあるしな。それに今回も別に無理に参加しろというわけではない。おまえが行きたくないのならそれでもいい。聞いてくるやつらの対応にも慣れているしな」
「ふふふ、ありがとうお兄さま。でも今回は1週間は滞在できる予定になったから、機会があれば久しぶりに顔を出してみることにするわ」
伯父さんのシスコン気質が垣間見える会話が一段落したところで、ドアがノックされメイドさんの声がした。
「ヒオレス様、ヘリシア様がおこしになりました」
その声のあとドアが開き、じいちゃんたちが部屋に入って来る。
「遅くなってすまないな。みんな元気だったか?」
じいちゃんがしゃがんで俺たちに視線を合わせながらそう言ってくるので、出発前に母さんに言われたように、馬車のお礼の気持ちも込めて元気よく返事を返す。
「移動の疲れも少ないし、寝るときも快適だったよ」
「おぉおぉ、そうかそうか、それは良かった」
俺が馬車の感想を言うと、嬉しそうしながら頭をなでてくれる。
「魔道具の方はどうだった?」
じいちゃんたちもソファーに座りながら、母さんに馬車のことを聞き始める。
「そうねぇ、今回の補充は私一人でやってきたのだけれど、思ったより消費は少なかったって印象かしら?」
「ふむ……まぁ一応改善はされてあるからな」
「でも、長旅だと魔力が回復しきれなくて徐々にきつくなる可能性もあるわね。まぁ1日や2日くらいであれば、そこそこの魔法使いだったら補充しても問題ないんじゃないかしら?」
「となると、流石に補充要因として1人はつけないと、いざという時マズイか」
「えぇ……あ、マジックボックスの方は問題ないと思うわ」
「そうか。まぁ積める量が増えるとその分重くなるから、結果軽量化の方も欲しくなるだろうし、もう少し改善は必要か」
「まぁ、この話はまたあとでしましょう? そうそう、お父さま、カーリーンは土魔法の適性もあるみたいなのよ! 道中で机とか竈を作ってくれたのだけれど、かなりキレイで頑丈に作られていたわ」
「おぉ! カレアが苦手な属性までうまく使えるのか! あとで見せてくれるか?」
じいちゃんたちは驚きながらも嬉しそうに俺の方を見るので、少し照れくさく思いながらも承諾する。
「それどころじゃないわ。まさかの氷魔法も使えるのよ」
「なんだと!? また珍しいものを!?」
先ほどとは違い、伯父さんたちも驚愕した表情で俺の方を再び見るので、今度は少し居心地が悪い。
「母さんたちも言ってたけど、そんなに珍しいの?」
「あ、あぁ。権力もあるような大きな商家では、わざわざ別の国のものを雇っていたりするが、それでも人数は多くはないし、この国の生まれとしては本当に少ない」
「鮮度を保ちやすいから、商人は欲しいだろうしね」
「ふはは。あぁ、その通りだ。相変わらず賢いな。その氷魔法もあとで見せてくれるか?」
「うん、いいよ」
「それなら、まだ夕食まで時間はあるから、今から見せてもらう事はできるか?」
土魔法だけならまだしも、この国では珍しい氷魔法も使えると知った伯父さんも気になったらしく、そう提案してくるので「大丈夫だよ」と答えると、みんなで庭に出ることになった。
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