120.到着
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翌朝、目が覚めると、隣にはいつの間にか戻ってきていた兄さんが、静かに寝息を立てていた。
――戻った時に物音で起きるかと思ってたけど……かなり静かに戻ってきたのか、俺が安心しきって眠っていたのか……兄さんの性格とこの状態からして、その両方かなぁ……。
姉さんの腕の中で薄く目を開け、まだ少し寝ぼけている頭でそんなことを思っていると、窓から覗き込むように様子を見にきた母さんと目があった。
母さんは優しい笑顔を浮かべながら静かにするようにと、人差し指を口元に近づけたあと、"おいで"というふうに手招きをするので、声は出さずに頷いて返事をする。
俺が兄姉を起こさないように静かに2人の間から抜け出してドアの方へ向かうと、母さんも2人を起こさないように静かに俺を連れ出してドアを閉めた。
「うふふ。カーリーンが一番早起きだったわね。眠くない?」
「平気だよ」
「朝食の準備もまだだから、あの子たちはもう少し寝かせてあげましょうか」
父さんとリデーナはテントの片付けをしており、1人用のテントで片付けが早く終わったドラードとグラニトは、それぞれ朝食の準備と馬の世話などをしている。
昨日夕食を食べた机につくと、ドラードが話しかけてきた。
「お、カー坊よく眠れたか?」
「うん。兄さんが戻ったのに気づかないくらい熟睡だったよ」
「はっはっは。そりゃあ良かったな。それだけ寝心地も良かったか」
ドラートは笑って話しながらも、手際よく朝食の具材を鍋に入れたりして朝食を作っていく。
「お? カーリーンは起きてたか」
「魔道具の補充が終わって覗いたら、目が合ったから連れてきちゃったわ」
「ははは。そうか。おはよう、カーリーン。ライはまだ寝てるだろう?」
「うん。兄さんの寝顔は初めて見たよ」
見張りの順番が最後だった父さんはそのまま起きていたようで、テントの片付けもリデーナの分を手伝っていたらしく、それを終わらせて席につきながらそう話しかけてくる。
「ははは。グラニトと見張りをしたあと、俺たちとも少しいたからな」
「たち?」
「えぇ、私もフェディと一緒にいたからね」
「なるほどね、それで珍しく兄さんがまだ寝てたんだ? 姉さんも初めてのことで興奮して眠るのが遅かったのか、俺が抜け出したのに起きなかったし……」
「ははは。あのエルがすぐに起きてこないほど、馬車での旅にも慣れてきたってことだろうな」
少しの間話をしていると、兄姉も起きてきたタイミングで朝食となった。
それからの旅も順調に進み、立ち寄った町で変わった屋台のものを食べたり、道中の風景を楽しみながら飽きることなく移動することができた。
あれからはちょうど日が暮れる頃には大き目の町に着くことができたため、屋外泊はあの1回しかしていないので姉さんは少し不満そうだったが、それぞれの町ならではのものを見たり食べたりすると、すぐに機嫌は直っていた。
そして、オルティエンを出発してから1週間が経ち、いよいよ今日の夕方には王都に着くらしい。
「天候に恵まれていたとはいえ、本当に1週間でここまで来れるとはな……コーエンは1人で10日かかったんだったよな……?」
昼食を終えて進んでいると、父さんはコーエンが馬車を持ってきた時のことを思い出しながら、信じられないという風に感嘆の声をあげる。
「うふふ。コーエンは休暇だったのよ? お父さまからも"ゆっくり行くといい"って言われていたから、私たちよりのんびりと移動してたのでしょう」
「俺たちもしっかり休憩を取りつつ、のんびりと移動してきたつもりだったんだがな……まぁ馬の疲労も少なそうだったし、移動できるうちに移動していたのはたしかだが……」
「まぁそれだけ休憩を取りつつもこの速さで移動できるなら、疲れもかなり軽減できるしいいことだわ」
母さんは今日中には王都に到着できると分かり、数年ぶりに実家に帰るということでソワソワしている。
「やはりあの魔道具の効果はすさまじかったか……それで、義父上に報告する前に聞いておきたいんだが、あの軽量化の魔道具はどうだ?」
「そうねぇ……やっぱりこの馬車のサイズとなると、かなり魔力消費が多くなるわね……今の私だったら問題はないけれど、半日に1回この量を補充していると、魔法での戦闘ができなくなる人も多いんじゃないかしら。1日や2日程度ならまだいいけれど、遠くなればなるほど補充の回数も増えるし、そうなると魔力が回復しきれず体調不良になる人も出るかもしれないわね……」
「まぁそうなるか。この人数と荷物を積んで、今までの倍近い速度で移動できてるんだもんな。魔道具だけじゃなく、馬車自体の性能もあるんだろうが……もし普及し始めたら物流事情もかなり変わってきそうだな」
「そうねぇ。まぁこの魔道具自体かなり高価なものだし、この魔道具に余裕で補充できる人を補充担当として用意しないといけないし、色々とやることはあるからすぐに変わることはないわ」
母さんが微笑んでそう言うと、父さんは「そうだな」と言って視線を窓の外に向ける。
「ねぇねぇ、王都にも屋敷があるって言ってたけど、だれか住んでるの?」
「管理をしている使用人だけよ」
「……前に行ったのって3年近く前だよね……」
「えぇ、そうね。でも貴族なら必要なのよ。書状などは王都の屋敷に届けられ、その家のものが送るのがほとんどだし、うちは場所が場所だから王都へは殆どいないけれど、報告とかで数日間王都にいなきゃいけない時もあるわ。まぁこの馬車があるから今後は増えるかもしれないわね」
――いないからといって、貴族が屋敷を貸し出すなんて事はしないだろうしな……それにしてもほとんどの貴族が王都に屋敷を持っているとなると、王都はどれだけ広いんだろう。
そんなことを考え、王都のことを教えてもらいつつしばらく進んでいると、父さんが声をあげる。
「お、ほら、見えてきたぞ。あれが王都だ」
父さんの言葉を聞きながら外を見てみると、高く頑丈そうな壁が見える。
結構遠くから見ているので囲うように壁があることは分かるが、ルアード領都と違って町なかの方までは見ることが出来なかった。
「壁高いね! それに頑丈そう!」
「ははは。そりゃあ王都だからなぁ」
父さんは笑いながらそう言うが、今見えている壁に負けず劣らずの頑丈さに見えるオルティエン領都の壁も、十分にスゴイと思う。
――まぁ頑丈さは同じように見えるだけで、実際は魔法とかの防御手段もあるだろうし、流石に王都の方が高さはあるかな?
「すごく広いわね!」
姉さんも俺と同じように興奮しながらそう言ってくる。
「たくさんの人が暮らしているからね。歩いて見て回ろうとしたらどれだけかかるか、分かったものじゃないわよ」
母さんは、はしゃいでいる様子の姉さんと俺を見て、ほほ笑みながらそう言ってくる。
徐々に馬車が進み、王都を囲う壁や門などが良く見える距離まで近づいてきた。
門には門衛がチェックをしているようで、馬車や人の列ができており、壁の上にも衛兵が歩いているのが見えるので、王都なだけあって警備は万全のようだ。
更に門に近づくと、ルアード領都と同じように門の近くに商店などが多いのか、人の声も多く聞こえてき始め、活気にあふれているのを感じる。
他の町でもそうだったように、門衛の検査待ちで並んでいる横を進んで門へ近づき、確認をしに来た門衛に身分証を見せる。
「ようこそ王都へ、オルティエン辺境伯様。どうぞ、お通りください」
門衛がそう言って敬礼をし、見送られながら王都の中へ馬車を進めた。
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ようやく王都に着きました……おかしい、もっとサッと到着して王都での話を描くつもりだったのに……。
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