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113.年齢

 しばらく馬車に揺られていると、少し広くなっている場所が見えた。


 ここは領境にもなる場所で、道を広げる工事の際に伐採した木を一時的に置けるようにと、まずこの広場を作る事から始めたらしい。


 工事の終わった今では、座って休憩していても通行の邪魔にならないうえに、周りの木々が少なくなっているおかげでモンスターを発見しやすいのもあって、徒歩移動する人たちのちょうどいい休憩所になっているようだ。


 馬車を使っている場合はそのまま森を抜けることが多いらしく、今もその広場には馬車は1台も見えないが、何人か休憩しているのは見える。


「ここで休憩しているということは、冒険者だろうなぁ」


 焚き火を囲んで座っている人たちを見て、父さんがそう呟く。


 ――ハンターはあまり町とかを移動しないんだっけか。禁止しているわけじゃないから絶対じゃないらしいけど。まぁ冒険者じゃなくてハンターだったとしても、狩りを生業にしてるくらいだから、別に危なくはないか。


 休憩しているその人たちの近くには、それぞれの武器が置いてあったり、手に持って手入れや確認をしている人もいるので、モンスターと出くわしても大丈夫だろうと思う。


 ――このあたりなら、兄さんたちを連れて入っても問題ないって言ってたしなぁ。まぁ新米団員といい勝負をした兄さんは問題ないだろうし、その兄さんも力では敵わなくなっている姉さんも大丈夫だろう。というか、そもそも父さんの強さは()()だし、会ったことある人たちもじいちゃんをはじめ、団長や隊長とか強い人たちばかりだから、()()の基準が未だに分からないんだよなぁ……。


 そんなことを思っていると、俺たちの乗った馬車は広場の横を通り過ぎる。


 家紋がついていないからか、休憩している人たちもチラッとこちらを見た程度で、すぐに仲間と話を再開していた。


 ――貴族だと分かったところで何かあるわけじゃないだろうしな。変に気にされるよりは楽でいいな。


 それから何台かの馬車ともすれ違いながら、森の中を進んでいく。


 割合的に箱馬車より幌馬車の方が多いのは、そのままオルティエン領の港町に向かう商人が多いかららしい。


 マジックボックス自体が高価なうえ、中身の重さはそのままということは車体も丈夫にしないといけないため、全体で見るとかなり高額になるようで、普通の荷馬車を使うところが多いようだ。


 ――同じだけ積むならコンパクトに収まるほうがいいんだろうけど、結局運べる重さが同じなら積み下ろしの手間も変わらないし、今まで通りの馬車を使うか。


 今回のうちのように、マジックボックス無しだと2台使うことになりそうな量を1台にまとめられたり、宝石商などのそもそもの品数が少ない場合には使われているようだ。


 といっても、うちの場合は箱馬車を使う前提なので2台目が必要になるというだけで、幌馬車などであれば魔道具がなくても1台で済む量なのだが、そこは貴族としての体面や快適性も関係しているので仕方ない。


 そうやって馬車のことなどを教えてもらっているうちに森を抜け、少し走ると小川があったのでそこで再度休憩するために止まった。


「実際に走ってみるとたしかに速いな」


「そうね。馬たちの疲れもあまりなさそうだし、王都には余裕を持って着きそうね」


 馬車から降りた父さんが、太陽の位置を確認しながら感心したように言うと、母さんが微笑みながらそう答える。


 この世界にも時計は存在するのだが両親は持ち歩いていないので、空を見上げておおよその時間を計っている。


 ――特に父さんは、その計り方でかなり正確に分かるみたいだしな……移動速度は前世の感覚があるからやっぱり遅く感じてしまうけど、両親がそう言うのならこれでも十分速くなったんだろうな。


 両親の話を聞いてそう思いながら伸びをしてあたりを見渡すと、ドラードとグラニトが小川で馬に水を飲ませているのを見つけたので、話しかけに行くことにした。


「お。カー坊どうした? 酔っても大丈夫なように少な目だったから、お腹すいたか?」


「別にまだ平気だよ。目的地に着くまで持つと思う。というか、すぐ何か食べさせようとするんだから……」


「ははっ。まぁオレは料理人だからな!」


 俺が呆れたように言うと、ドラードはどこか誇らしげに笑いながらそう答える。


「ドラードたちこそ、お尻とか痛くなってないの? 乗馬は結構痛くなるって聞いたことがあるんだけど」


「ははは。大丈夫だ。これでも慣れてるからな」


「今"料理人"って言ったばかりなのに、その料理人がなんで乗馬に慣れてるのさ……」


「ははは。ドラード殿は長く生きてるからなぁ」


 近くで俺たちのやり取りを聞いていたグラニトが笑いながらそう言ってくる。


「そう言えばドラードの年齢知らないや。というかロレイも知らないし、リデーナはなんか聞いたらマズイ雰囲気あるし……」


「リデーナに関してはその対応で正解だな……」


「んで、長生きと言われているドラードは何歳なの?」


「何歳くらいだと思う?」


「……そういうのはいいよ……でも竜人族なんでしょ? たしか竜人族も結構長命って本に書いてあった気がするんだけど……グラニトさんは知ってるの?」


「いや、かなり長生きだという事しか知らないな。200歳だとか500歳だとか噂はあるが」


「まて、ソレってどこの噂だ」


「騎士団内だが? 以前稽古の時にポロッとそんな話をしたって聞いて、そこから広がって行ったんだろう」


「ドラード、騎士団にも行ったことあるの?」


「まぁ頻繁にじゃないが、体を動かしたくなる時もあるからな」


 ――昔は両親と旅をしていただけあって、屋敷で大人しく料理だけしているとは思ってなかったけど、さっき聞いた狩り以外にもそんなことまでしてたのか……。


「んで、何歳なの?」


「ん~。グラニトが言っていた年齢よりは上だな」


「え……500年以上も生きてるの……見た目は30とかそこらくらいなのに……」


「あっはっはっは! 亜人族の外見はあてにしちゃだめだぞ? リデーナだって20になるかならないかくらいの見た目をしているが、実際は――」


 そう言いかけたドラードの背後にいつの間にかリデーナが立っており、首元を掴んで後ろに引っ張って言葉を遮る。


 身長差が結構あるので、ドラードは伸びをする以上に反るような体勢になっているうえ、そうなるほどの力で引っ張られているので苦しそうだ。


「ドラード? 馬の世話は終わりましたか?」


「お、おう。おわった。手を放してくれ、苦しい」


「そうですか。前に私が言ったことも聞こえていないようでしたので、これくらい近くないと聞こえないものだと思っておりました」


 リデーナはさらに首元を引っ張って頭の位置をさげつつ、倒れないギリギリくらいまで体を反らされたドラードにそう告げる。


「わ、悪かった悪かった。そ、そろそろ出発じゃないか?」


「えぇ、そうですね」


 そう言うとリデーナはドラードを開放した。


「そろそろ出発いたしますので、カーリーン様も馬車の方へお戻りください」


「う、うん、分かった」


 ドラードに話しかけていた時に放っていた圧を消したリデーナは、俺にそう告げたあと馬車の用意に向かった。


「……今のはドラード殿が悪いな」


「つい、な……まぁ()()なるから、カー坊も気をつけろよ」


「そうだね……」


 迂闊に年齢を聞くようなことはしないようにしているつもりだが、それが自分とは違う種族となると気になって聞いてしまいそうなので、改めて気をつけようと思った。


 馬車に戻るといつものリデーナに戻っており、くぎを刺されなかったことにホッとしてるのを、両親から不思議そうに見られつつ出発した。

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