112.再出発
ドラードはトランクから大き目の鍋も取り出して、それに具材がたくさんはいったスープや、自分が作った焚火炉で串焼きと、それにかけるソースなどを作っており、移動中の食事とは思えないほど豪華な昼食となった。
――野営する時ならまだ分かるんだけど、これからまた片づけて移動しなきゃいけないことを考えると、かなり手の込んだものだったなぁ。もちろん美味しかったし、満足だけど。
その料理の豪華さに父さんやグラニト、以前同じような旅をしたことのある兄さんも驚いており、グラニトなんかは「移動中でこれとか、家の飯より豪華なんだが……」と、奥さんに申し訳なさそうにしながらも、美味しそうに食べていた。
早めの昼食が終わって後片付けをしている間に、母さんが御者台に上がって魔道具に魔力の補充をしていたので、その様子を見ていた。
「出発前にも言ってたけど、やっぱりその魔道具って消費が激しい?」
「そうねぇ。コーエンは効果時間は半日くらいって言ってたけれど、今はまだ思ったよりは減っていないし、夜の補充の時もこれくらいだったら問題ないんじゃないかしら?」
魔力の補充が終わったようで、魔石から手を放して振り向きながらそう答える。
「母さんは魔力量も増えてるって言ってたから、余裕なだけかもしれないよ……」
「そうなのよねぇ。リデーナに試してもらおうにも、彼女も魔力量はかなりあるからねぇ……」
「エルフ族だもんね。エルフ族ってみんなそうなの?」
「ん~。魔力が多くて魔法に長けている人が多いのはたしかなのだけれど、全員ってわけじゃないわよ? なんなら、フェディみたいな体格の肉体派エルフも稀にいるわ」
――エルフのイメージは細身で魔法や弓がメインって思ってたけど、父さんみたいな体格のエルフもいるのか……まぁロレイも体を鍛えてるから線が細いってわけじゃないし、中にはそういう人もいはするか。
「まぁ、この魔道具は私やリデーナが補充することを想定してつけてくれてるみたいだし、そのままを報告すればいいわね」
母さんはそう言いながら御者台から降りて、補充が終わったことを父さんたちに伝えると、むこうの片付けも終わっていたので、最後に俺が土魔法を解除して出発した。
進みだすとすぐに森の中へ入ったのだが、お昼頃ということもあって街道は明るい。
前は馬車がすれ違うと少しだけ余裕のある程度だったのだが、両親も手伝った工事のおかげで今は横に3台並んでも余裕があるほど広がっている。
周りの木はそこそこ高いため、倒木で道が使えなくなることを避けようとすると、これくらい広くしないとダメだったようだ。
道が広くなったおかげで、空がちゃんと見えるので薄暗くなることもなく、木の陰からモンスターに奇襲されるということも減って安全性も上がったらしい。
「それにしてもカーリーンは本当に魔法が得意なようだなぁ」
「僕も一応土魔法がつかえるけど、あそこまでキレイに作れないよ」
昼食の時に使っていた机を作ったことを改めて父さんと兄さんに褒められ、すこし気恥ずかしくなる。
「カーリーンはいろんなものを興味津々に見てたりするものねぇ。お爺さまにも見せたらきっと喜んでくれるわよ」
母さんはそう言いながら撫でてくるので、さらに気恥ずかしくなってしまった。
「そ、そう言えば隣の領ってどんなところなの?」
その気恥ずかしさをごまかすために、今日泊まる予定のところの話を聞くことにした。
「そうだなぁ。ルアード領はブドウが特産だな、特にジュースやワインが人気だ。前にお土産で貰ったこともあるが、覚えているか?」
「うん。じいちゃんが持ってきてくれた、あの濃いブドウジュースだよね?」
「あぁ、それらが美味くて有名な領だ。ワインが美味い分それに合うだけのチーズや燻製もあって、そっちも有名だな」
――ほうほう。チーズも有名ってことは、牧場とかもあるんだろうなぁ。
「昔はこの森を抜けて少し行ったところが領境だったが、今はこの森の半分くらいのところが境になっている」
「それは父さんが領主になってから?」
「あぁ。このあたりはまだ勉強していなかったか」
「まぁ色々あったのだけれど、うちの領にはあの森もあるからね。それにこの森を抜けた先までの領地があっても、管理がしにくいって話になって今のようになったのよ」
「今はこれだけ通りやすくても、前はもっと狭かったみたいだしね」
「ふふ、そうね」
「ルアード伯爵も"本当にうちの領にしていいのか"って散々聞いてきたが、俺としては管理しきれる自信もなかったしなぁ」
「普通は"領地を広げたい"って思う貴族は多いから、あの提案をした時は戸惑っていたわね」
話を聞いていると、父さんは当時貴族になりたてだったこともあり、話し合いの場では緊張していてほとんど母さんに任せていたらしく、笑いながらそのことを話している母さんとは対照的に父さんは苦笑いしている。
「領主様ってどんな人なの?」
「そうだなぁ、ルアード伯爵も武人気質な人だな」
「だからこそ、今回のように"いざという時は戦力になる"と約束してくれたのよ」
「なるほど……」
「まぁ気になるなら、今夜会った時に話を聞いてみるといいさ」
「分かっ――え? 領主様に会うの?」
「あら? ルアードの領都に泊まるって話はしてたわよね?」
「それは聞いてたけど……」
「領都に行くんだったら領主に挨拶をするのだけれど、ルアード伯爵とは仲もいいから、そのまま泊めてもらうのよ」
――そっか、領主邸があるから領都って呼ばれてるんだし、領主様が町にいるんだもんな……それなら挨拶はもちろんするし、仲が良いなら泊めてもらうくらいするか……。
「今年から伯爵の息子たちは王都に行ってて、今は伯爵夫妻しかいないからな。息子たちと年の近いおまえたちが話を聞きたいと言えば、喜んで話してくれるだろう」
「領主様の子供たちも、お披露目パーティーに参加するの?」
「いや、ルアード伯爵のところは、学校に通うために王都へ行ってるな」
「学校?」
「あぁ、貴族、特に領主の跡取りは色々と勉強しなきゃいけないし、貴族同士のつながりを得るためにも12歳になったら王都の学校で学ぶんだ」
「兄さんは当然行くとして、俺もそのうち行くことになるの?」
「ん~……長男長女以外は行かない子もいるにはいるが……」
――学校は気になるし、友達が増えるのは良いことだと思うんだけど、貴族の子ばかりとなると立場とかで面倒事も多そうだなぁ……。
「まぁ、俺はまだ先だし、兄さんや姉さんに聞いて、また近くなったら答えを出すよ」
「そ、そうだな」
「私も行かなきゃいけないの?」
話を聞いて、何かに気がついて焦ったように姉さんが会話に加わる。
「あなたは長女だし、12歳になったら行くことになるわね」
「いつまで!?」
「大体の子は3年間ね。専門学科に入って5,6年学ぶ子もいるけれど……」
「そ、そんな……3年もカーリーンに会えないの……?」
姉さんは母さんの言葉を聞いて、絶望したような表情でつぶやく。
――あぁ……そこなんだ……。
そう思いながら、なだめる様に姉さんに話しかける。
「ほら、俺も学校へ行くことになったら王都で会えるじゃん」
「まぁ……1年は一緒だな……」
「2年待って、1年だけ一緒にいたら、またカーリーンが卒業するまで会えない……」
俺の言葉で少し笑顔になっていた姉さんが、父さんの言葉で再び絶望したような表情に戻る。
「い、いやいや、ずっと会えないわけじゃないでしょ。長期の休みとかもあるだろうし、俺も王都にいくことだってあるかもしれないし!」
「そ、そうね……」
そのあとしばらくの間、大人しくなった姉さんの口からは「カーリーンが学校に行かなきゃ、会えない期間は短くなる? それとも私がどうにかして学校に行かなきゃずっと一緒にいられる?」などと、少し怖いことをつぶやいていた。
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