111.早めの昼食
誤字報告ありがとうございますっ!
しばらく談笑しながら進むと、前に森の道幅を広げる際に馬車を止めたところまで来た。
「さて、森を抜けてからの休憩となると昼を過ぎるだろうから、早いけど昼食にするか」
森の中はモンスターと出くわす可能性があるので、入る前に休憩も兼ねて昼食をとるようだ。
――実際はモンスターが出たとしても対処は容易だろうし、長距離移動が初めての俺や姉さんがいるから早めに休憩をとったのかな?
そう思っていると、森の少し手前で止まったので、みんな馬車から降りる。
「ん~! やっぱり振動が少ないと楽ねぇ」
母さんが伸びをしながらそう言うと、父さんが笑いながら「そうだなぁ」と答えている。
ドラードがお昼の準備をするために、馬をグラニトに預けてから馬車の近くまできたので、話しかけることにした。
「お昼ご飯は何をつくるの?」
「そうだなぁ。どんなのがいい?」
「えぇ……聞かれるとちょっと困る……しいて言うなら万が一、馬車酔いしても平気そうなもの……?」
「ははっ。それは食う量を減らすしかないなぁ」
「まぁ今くらいの速度なら多分平気だけどね」
「そりゃあよかった。【ロッククリエイト】」
ドラードは笑いながらそう言ったあと、地面に手をついて土属性の魔法を使い、石を円状に並べた焚火の土台部分を作る。
「おぉ。焚火炉とかファイヤーピットって言うんだっけ……? 魔法で作れば石を集める手間もいらないし、形もきれいだね」
「おぉ、名称なんてよく知ってたな。まぁ魔法で作っておくと、使ったあとも解除するだけでいいから楽だしな」
「俺にも出来るかな?」
「練習してみるか?」
「いいの?」
「あれだけ【ウォーターボール】を乱射してるカー坊なら、これくらいの魔法はどうってことないだろ」
ドラードは俺が父さんに魔法を撃っていたのは知っているようで、からかうような表情でそう言う。
「何かあったら、ドラードのせいね」
俺はからかわれた仕返しに、そう言いながら地面に手をつく。
「おまっ! ちょ、ちょっとまて! 大丈夫だろうけど、一応カレアにも――」
「【ロッククリエイト】」
ドラードの言葉を遮るようにして魔法を唱えると、コの字型のきっちりとしたものが出来た。
「あれ……?」
「……ぷははははっ。カー坊、今日は風も強くないから、そんなちゃんとしたものじゃなくても十分だぞ?」
――ドラードの作ったものを見たあとだったのに、料理を作るって思ってたからか、キャンプ場にある竈みたいになっちゃった……しかも、結構デカイし……。
「もっと力を抜いて作ったのでも大丈夫だぞ? まぁ初めてでこれだけのものが作れるなら、土属性の適性もありそうだな」
ドラードは俺の作った焚火の土台、もとい、竈を触りながらそう言ってくる。
「せっかく作ってくれたんだから、こっちを使ってちゃんとしたものを作るか」
「え、ちゃんとしたものって、どういう事……?」
「まだ移動中だから手早く作れるものにしようかと思ってたんだが、カー坊がこんなしっかりしたもの作ってくれたから、それなりにきちんと作るか、とな」
――確かにドラードの作ったものだと、串に刺したものを周りで焼くとか、小さい鍋で少しスープを作るくらいしか出来なさそうだしなぁ。
「でも、時間かけるわけにいかないんじゃ?」
「すでにここまで来られてるなら問題なく夕方には町に着くだろうし、多めに作っておけば次の休憩の時に小腹がすいてたら食えるだろ?」
そう言ったドラードは、調理台にする小さい机を魔法で作り出し、食材の入った箱をトランクから出している。
「ん~、そういう料理となると、椅子だけじゃ食べにくいか。カー坊、机も作ってみるか?」
「ドラードがそう言うなら作ってみるけど……【ロッククリエイト】」
魔法を唱えると、大人8人ほどが座れそうな飾り気が全くない机と、背もたれのない簡素な椅子が出来上がる。
「おぉ~。一度にこれだけのものを作れるなら、やっぱり適性を持ってるな。しかも強度も問題なさそうだし、形状も手触りもキレイだ。やるなぁカー坊」
俺の作った机を触りながら出来栄えを評価して、ニカッと笑いながら褒めてくれる。
――こっちは思った通りの形状になったな。地面とくっついてて動かせないから、椅子は背もたれがない方が良いと思ってこうしたんだけど……なんかあの竈があるところにこの簡素なテーブルセットが並ぶと、なおさらキャンプ場感が出てきたな……まぁ野外に短時間でこのレベルの食事場が出来るなら十分だし、不満はないんだけどさ。
そう考えながら自分の作ったテーブルについて、ドラードが準備をしているのを眺めていると、母さんが様子を見に来た。
向こうからは姉さんの掛け声が聞こえてくるので、馬車に乗って固まっていた体をほぐすために、稽古とまではいえなくとも何かしら運動をしているのはたしかだろう。
「あら? エルとカーリーンは初めてのお外でのご飯なのに、家と同じように机で食べるようにしたのね?」
「いや、この竈もテーブルセットもカー坊が作ったやつだぞ」
「え!? そ、そうなのね。カーリーンは水だけじゃなくて土の適性も高いのねぇ……」
母さんはそう言いながら、俺の作った椅子や机を触って強度などの確認をしたあと、俺の正面に座る。
「表面もキレイで汚れることもないし、変な凹凸もないわね……」
「だろ? しかも作り直したわけじゃなく、一発でコレだから造形系の才能もあるぞ」
「ふふふ。それは楽しみね。私は土魔法は苦手だから、また帰ったらロレイナートに教えてもらいましょうね?」
「カレアが土魔法で何かを作るとなると、"大型モンスターからの攻撃を耐えるように作ったのか"と思うようなものが出来上がるからな」
「適性がないからか細かい調整がねぇ……魔力量でどうにかしようとするとそうなるんだから、仕方ないじゃない。でも守るなら十分役に立ってたでしょう?」
母さんは少し拗ねたようにムスッとしてそう言うと、ドラードは「まぁな」と言って必要分の食材を取り出した箱をトランクにしまい、別の箱から調理道具を取り出している。
――魔力量次第では苦手な属性も使えるとは言っていたけど、やってることは魔法を使う時の姉さんみたいな感じなんだな……まぁ暴発するかしないかという、大きな違いはあるけど……。
夏の終わりごろの魔法の稽古で、魔力を込めすぎた姉さんの【ウォーターボール】が、飛ばしてすぐに破裂してびしょ濡れになったことがあるのを思い出して苦笑する。
「それにしても今までは水魔法ばかり練習していたけれど、他の属性も練習させてみるべきかしら……」
「……忘れそうになるがまだ3歳だし、しばらくは危なくない魔法だけでいいだろ」
「そうなのよねぇ」
母さんとドラードはそう言いながら少し困ったような笑顔で俺を見ているが、すでに【クーラー】や【アイテムボックス】をこっそりと練習しているので、後ろめたい気持ちから目線を逸らす。
ちょうど目線を移動させた先に、馬の世話が終わったリデーナが来たので、母さんたちの気をそらすために話しかけた。
「あ、リデーナ。姉さんは何してるの? さっきから声が聞こえるけど」
「今はライニクス様と短距離走で勝負しておられますね。先ほどは石を投げて、離れている岩に当てるという練習をしておられました」
――やっぱり体を動かしてたか……というか、兄さんも来ないと思ったら巻き込まれてたのか……まぁ狩りの話を聞いてからウズウズしてたしなぁ。
そう考えながら料理ができるまでの間、リデーナに用意してもらったお茶を飲み、再度母さんが土魔法についてリデーナに話をし始めたので、これ以上目立たないように魔法は使わず大人しく座っていた。
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