105.連射
それから何度か【ウォーターボール】を打ち込むことになり、フェイントをかけてみたり連射してみたが、すべて同じように防御されて濡らすことすら出来なかった。
翌日の稽古の時間、再び俺の魔法の練習として2人に魔法を撃つ時間がやってきた。
昨日あれだけ魔法を使ったのにほとんど魔力が減っていないことを確認されたので、これからはこういう稽古も増えるかもしれないなと思いつつ、今日はどうしようかと考える。
――さて……昨日は結局ダメだったけど……あれ以外にどうすればいいんだろうか……魔力を込めすぎるのは色々と不安があるしなぁ……
「ねぇ母さん。どうやったら当てられ……いや、濡らすことができると思う?」
俺は隣で様子を見ている母さんに助言を求めてみた。
「そうねぇ……昨日の連射やフェイントの使い方には驚いたけれど、相手が相手だからねぇ……」
母さんは"教えてあげたいけれど相手が悪いわね"、と言いたげな感じで苦笑している。
「今日はコーエンが先に撃ってもらうか」
「えぇ、了解です。カーリーン様よろしくお願いします」
父さんにそう言われてコーエンは返事をすると、昨日と同じく少し離れた位置で剣を構える。
――撃って"もらう"って言っているあたり、俺の魔法の練習は、父さんたちの防御の練習にもなってるんだろうか? しかし、直撃が無理なのは昨日ので理解したけど、濡らすくらいしたいなぁ……昨日より連射速度を上げてみるか? でも一回一回呪文を言ってるから、どうしても時間がかかるしなぁ。無詠唱はまだ内緒にしといた方がいいだろうし……となると、複数先出しして維持してそれを順次発射か。
「ちょっと準備していい?」
「えぇ。もちろんいいですよ」
俺の言葉を聞いて父さんは首をかしげているが、コーエンはすぐに許可をくれたので、準備を始める。
「【ウォーターボール】【ウォーターボール】【ウォーターボール】――」
俺はそうやって連続で呪文を唱えて、合計10個の【ウォーターボール】を待機させた。
「ま、まさかそれだけの数を維持できるのか!?」
「たしかにこれなら連射の間隔は短くできるけれど……すごいわ」
父さんは驚愕しているような声を出すが、母さんは俺なら出来ると思っていたのか、感嘆しているような声をあげる。
「よし、撃っていい?」
「え、えぇ。いつでもいいですよ!」
父さんと同じように驚いて呆気にとられていたコーエンは、気を取り直して剣を構えるので、俺はコーエンに向けて手をかざす。
「発射!」
実際は声を出さなくとも打ち出すことはできるのだが、最初の1発くらいは掛け声のようなものが欲しくなったので、そう言ってから魔法を放つ。
昨日の単発を連射していた時とは比べ物にならない間隔で、【ウォーターボール】10発を連射する。
「くっ」
おかしく思われないように魔力量を調節しているため、1発1発はそこまで重くはないはずなのだが、連続で当たっているためか、コーエンは少し声をもらして防いでいる。
「えい!」
そして最後の1発は、横から向かうように軌道をコントロールする。
「なっ!?」
コーエンは驚いたように声を出したあと、縦に構えていた剣を咄嗟に斜めに斬り上げて、【ウォーターボール】を斬った。
斜めに斬られたことで下半分はそのまま地面に落ちたが、上半分の魔法が解けた際に散った水滴が頭上から落ちてきて、コーエンを少し濡らした。
「やった!」
「いやはや、まさかこれほどの魔力操作が出来るとは……濡らされてしまいました」
コーエンは苦笑して頭を掻きながら戻って来る。
「本当にすごいわ! あの速さであれだけ曲げられるなんて!」
母さんが驚きつつも喜びながら、抱き着いてきてなでてくれる。
「カーリーン、すごぉい!」
「僕ももっと頑張らないとなぁ」
姉さんに興奮しながら褒められ、兄さんは苦笑してそう言いながらも嬉しそうに撫でてくれる。
――斬られたあと、もう少し頑張ればそのまま2つ操作出来たかな……一応やろうとしたけどうまくできなかったのは、気力が付与されてる状態で斬られたからか? ということは、斬られる前に分裂させれば意表をつけるかもしれないか。
「はっはっは。これは俺も気をつけないといけないなぁ。さぁ、カーリーン。次は俺に撃ってくれ」
「うん」
父さんが離れながらそう言うので、俺はさっきと同じように【ウォーターボール】を10個待機させる。
「いつでもいいぞ!」
父さんが位置について構えながらそう言ったので、返事をしてからさっきと同じように「発射!」と言って、魔法を1つずつ飛ばす。
その時に、途中の1つを分裂させて1発分増やしていたのだが、威力の差などで気づかれないように連続で飛ばしていく。
「こうも連続で来ると、なかなかな威力になるな!」
父さんがそう言い終わる頃には、水の球は残り2個になっていたので、10発目として9個目の水の球を、コーエンに向けて撃った時のように横から当たるように飛ばす。
「お、来たな」
父さんは一度見ているため、難なく剣を縦にしたまま他のと同じように防ぐが、まだ俺の身体で見えないようにしてある10個目がある。
俺はソレを9個目とは逆の方向から向かうように発射した。
「ぬ!?」
俺の作戦通り、父さんはさっきの9個目が最後だと思ってくれたらしく、意表を突かれたようで防御姿勢をとき、剣を縦に振って魔法を斬ろうとする。
俺は父さんの剣筋を確認することは出来ないので、捉えられてから気持ち早めに魔法を2つに分けた。
「カーリーンすごいわ! フェディの意表をつけたじゃない」
「まだだよ」
それが丁度剣を振るタイミングと同じに見えたので、少し後ろで見ている母さんが嬉しそうにそう言うが、まだ俺の魔法は斬られてはいない。
斬ろうとした父さんはもちろん気がついているようで、すぐに後ろに回った水の球を目で追う。
結構な速度で撃った水の球は、戻ってこさせるには少し時間がかかるため、父さんは余裕をもって迎撃態勢を取っている。
――これならどうだ?
俺はその魔法を同時に操作して、左右から挟み込むように向かわせる。
「せいっ!」
父さんが右の魔法の方を向いてそう声をあげ、剣を縦に振り下ろした。
――ここから操作は……やっぱり無理か。早すぎて集中もできないし……でも、もう1発ある!
そのまま後ろから来ている魔法も斬るのかと思っていると、正面の水の球が斬られて2つに分かれるのと同時に、反対から向かわせていたものも同じように分かれる。
縦に斬られた2つの水の球は、父さんの左右に分かれて飛んでいき、お互いがぶつかって水しぶきをあげた。
その時に散った水がほんの数滴だが、服を濡らすことはできた。
「え……今の何!?」
俺は父さんを濡らすことに成功した喜びよりも、反対から向かわせた【ウォーターボール】が一緒に斬られた驚きの方が勝って、そう声をあげる。
「いやいや、むしろそれを言いたいのは俺なんだが……まぁあれは武技だな……」
「本当にすごいわ……途中で分裂させて弾数を増やしたのにも驚きだけど、最後の奇襲用にそれをバレない工夫と、そのあとの魔法の使い方なんて、もう立派な魔法使いよ?」
「それで11発目が飛んできたのか……さすがにそこまでできると思わなくて、気を抜いてたからな……」
「だろうね……あんなことが出来る父さんが普通にやってたら、最後のも分裂前に消されてるだろうし……」
「いやぁ、これほどの魔法技術を持っているとは思わないので、初見で完全に防げる団員はいないんじゃないでしょうか……最後のは、私だったら当たっていたかもしれません……まさかそのお年であれほど出来るとは……将来が楽しみですね」
――やり過ぎたかとも思ったけど、両親は今さらって感じの反応だし、コーエンさんも受け入れてくれたようでよかった……まぁ昨日の段階で結構魔法を連発してたもんな……
「一気に魔法を使ったが、魔力は大丈夫なのか?」
「俺は特に何も感じないけど……」
「カーリーンは水の適性が高いから、その分消費も少なくなっているからねぇ」
「そうか。それならこの訓練は続けていけそうだな」
父さんはニカッと笑ってそう言いながら撫でてくれるが、俺は"父さんはともかく兄姉に向けて撃つのは怖いんだけど"と思いながら苦笑していた。
武技を使ったことにより姉さんのテンションが上がったので、そのあとの稽古のやる気が凄かったのだが、まださすがに兄姉に向けて魔法を撃つようなことはしなかったので安心した。
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