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104.コーエンさんと稽古

 コーエンが稽古に参加するのは翌日からになるかと思っていたが、見学していたら自分も体を動かしたくなったらしく、結局到着した日から参加していた。


 参加したといっても、子供たちと一緒に体力づくりと素振り、土人形への打ち込みをしただけで、じいちゃんのように、父さんとの手合わせを申し出たりはしていなかった。


 今はコーエンが来てから2日目の稽古の途中で、体力づくりと素振りが終わったあとの休憩時間だ。


 俺はまだ剣の訓練は始めていないので、素振りが始まったあたりから魔法の稽古に移っている。


 ――魔力消費の感覚もだいぶ分かってきたな。"適性"があるから、生活魔法での消費の感覚で使うと、思ってた以上の威力になってたからなぁ……。


 そう思いながら一緒に休憩していると、そろそろ再開するらしく父さんが立ち上がった。


「さて。コーエンもいることだし、今日は土人形に打ち込むんじゃなく、俺とコーエン相手にやってみるか。剣は一応刃をつぶしたものでやるからな」


 最近は、前に王都で新米団員と試合をした兄さんはもちろん、姉さんも土人形に打ち込む時の振りが安定してきたので、父さんやロレイナート相手に打ち込み稽古をしている時がある。


 その時に万が一怪我をしないように親方に頼んで、ほとんど同じサイズと重さの練習用の剣を作ってもらっていた。


 ――まぁ父さんやロレイが怪我をするようなことはないと思うけど、じいちゃんから貰った剣を使った姉さんの全力を受けるなら、ちゃんとした剣じゃないと折られそうだもんなぁ……。


「ただし! 今日は受け流したり避けたりもするから、ちゃんとした振りで当てられるように意識するようにな」


 父さんがニカッと笑ってそう言うと、兄姉は元気よく返事をして立ち上がり、父さんと姉さん、コーエンと兄さんの組にわかれてそれぞれ移動したあと、剣を振り始めた始めた。


 "避けたりもする"と言っていたが、さすがにそれだと稽古にならないので、今のところ()()()受け流しているようだ。


「ライニクス様、以前よりかなり強くなりましたね」


「あ、ありがとうございます!」


 少し打ち込んだあと、一息いれているコーエンと兄さんはそんな話をしている。


「速さも正確さも素晴らしいです。次からは【身体強化】を使っていただいて構わないので、力をうまく扱えるようになりましょうか」


「はい!」


 コーエンが微笑みながらそう指導すると、兄さんは元気に返事をして構える。


「お。それじゃあエルも気力を使っていいぞ。全力でこい」


「うん! わかったわ!」


 父さんも同じように笑いながらそう言うと、姉さんは嬉しそうに返事をして剣を振り始める。


「やっぱり【身体強化】を使うと兄さんも姉さんもすごいなぁ……いや、通常状態でも()()()をちゃんと振れてる姉さんは、元からすごいと思ってたけどさ……」


「そう言うあなたこそ、【ウォーターボール】を2つも発動させて待機させてるのよ? それはライにもできないし、すごいことなんだけれどね?」


 俺は母さんの指示で、両手に1つずつ魔法を発動させてそのまま待機させるという練習をしながら、兄姉の稽古の様子を見てつぶやいたので、母さんは少し呆れたように笑いながらそう言ってくる。


「コレはいつまで維持しておけばいいの?」


「まだ辛くない?」


「ぜんぜん」


「……それなら次の休憩まで維持を目指してみましょうか。キツくなったらすぐに解除していいからね?」


 ――前に同じようなことをしてた姉さんはすぐに限界が来ていたし、魔力操作の練習にはなってるんだろうけど、すでに維持するだけならいつまででもできそうなんだよなぁ……あ、さすがに寝てる間は無理か。うぅ~ん、寝てる時も快適な気温を維持できるようにどうにかならないかなぁ。


 そんなことを考えながら、母さんに「まだ平気?」と何回か聞かれつつ、そのたびに「余裕だよ」と返事をしておいた。


「よし、少し休憩したら交代だな」


 父さんがそう言ってあっちが休憩に入ったので、俺も魔法を解除しようとしたところに姉さんが寄ってきた。


「カーリーン、ソレ撃つの?」


「え、いや、維持してただけだよ。姉さんたちが休憩に入ったから解除しようとしてたところ」


「それならちょっと貰うわね」


 姉さんはそう言うと、顔を近づけて水の球を吸うようにして飲む。


 ――飲料水としても問題ないらしいから、飲むこと自体は別にいいんだけどさ……。


「行儀悪いよ姉さん……言ってくれればコップに移してあげるのに……」


「のどが渇いてたんだもん」


 姉さんはリデーナからタオルを受け取って、汗を拭きながらそう答える。


「途中から見ておりましたが、カーリーン様は魔力操作が達者なのですね」


 コーエンも休憩のために戻ってきたので、まだ維持してある俺の魔法を見てそう言ってくれる。


「俺はまだ剣の稽古が出来ないから、魔法の方に集中できてるだけだよ?」


「それでそこまでできるのであれば、今後が楽しみですね」


 コーエンが微笑んでそう言うと、母さんも嬉しそうにそれに同意していた。


 休憩が終わって今度は父さんと兄さん、コーエンと姉さんが組んで打ち込み稽古を再開した。


 何度か切り込んでいた姉さんだがやはりすべていなされており、どう振ったら当てられるか考えているようだった。


 コーエンもそれに気がついたようで、次の攻撃は普通に受けようとしたのか構えを変えた。


「ハァッ!」


 気合の入った掛け声とともに振られた剣は、コーエンの防御姿勢のように縦に構えられた剣に当たる。


「グッ!?」


 受け流しているときに威力の高さは察していたようだが、実際に受けてみると予想以上だったらしく、目を見開いて驚いたあと真剣な表情になり、その攻撃を耐えた。


「こ、これは予想以上ですね……」


「ははは。エルの強化中の攻撃はすさまじいだろう」


「はい、威力だけ見れば、すでに団員のほとんどより上回っているのではないでしょうか……」


 姉さんの掛け声を聞いて様子を見ていた父さんにそう言われ、コーエンは苦笑しながらそう答えていた。


 姉さんは"威力だけ"と言われたことよりも、その威力を褒められたことが嬉しいらしく、すごくいい笑顔で喜んでいる。


「ライニクス様は速さと正確さ、エルティリーナ様は力、カーリーン様は魔法と、皆様才能にあふれておりますね」


「あぁ、今後がたのしみだろう?」


「えぇ」


「そうだ。カーリーン、ちょっと魔法を撃ってくれないか?」


「え?」


 姉さんの攻撃のあと、少しの間稽古を止めて話をしてたと思ったら、急に父さんにそう言われて困惑する。


「もちろんライやエルにではなく、俺とコーエンにだ。使う魔法も今出しているヤツでいい」


 俺は休憩のあと再び【ウォーターボール】維持していたのだが、父さんはソレを指さしてそう言う。


「そうねぇ……フェディやコーエンが相手なら、【ウォーターボール】なら平気でしょう」


 ――今まで人に撃ったことないんだけど……母さんが大丈夫って言うなら大丈夫なんだろうが……まぁこの魔法は火魔法みたいに燃えないし、風魔法みたいに切れ味があるわけでもないから、他と比べると安全なのも分かるんだけどさ……。


「そ、それじゃあ、撃つよ?」


「おう! こい!」


 離れた位置で父さんが構えるので、そこに向かって維持していた魔法を放つ。


 真っすぐ飛んで行ったソレは父さんの剣に当たってはじけるが、父さんは微動だにせず、どういうわけかはじけた水滴はすべて下に落ちている。


「おぉ! なかなかな威力だな。次はコーエンだ」


「カーリーン様、お願いします」


 俺の反応を待たずにコーエンが真剣な表情で構えるので、俺は「い、いくよ」とだけ言って、待機させていたもう1つの魔法を放った。


 バッシャァンと水の球が剣に当たってはじけ、父さんの時と同じくコーエンは濡れていないが、少し驚いた表情をしている。


「まさかあれほど遅延させた魔法で、これだけの威力があるとは……」


「はっはっは。そうだなぁ」


「維持している時間が長いほど魔力操作が難しくなるし、魔力が抜けて威力が落ちることがあるのに、あれだけ威力があるなんて、やっぱりカーリーンは魔法の才能がすごいわねぇ!」


「それより、2人とも全く濡れてないのが気になるんだけど……」


 嬉しそうに抱き着いてきた母さんに褒められながら、俺は父さんたちにそう聞いた。


「あぁ、気力も使っているが、受け方だなぁ。ああいう魔法は下に散らさないと、周りに被害が出る可能性があるからな」


「私にもできる!?」


「あぁ、もう少ししたらちゃんと教えるぞ」


 ――なるほど……まだ気力の方はほとんど分からない俺には、分からないやつだな? まぁ俺なら【シールド】とかを斜め下に展開して同じようにするだろうし、それと同じ感じかなぁ……


 父さんに今の防御方法を教えてもらえることが確定した姉さんは嬉しそうに飛び跳ねており、それを眺めながら俺は"どうやったら当てられるだろうか"と考えていた。

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第1巻
― 新着の感想 ―
[良い点] カーリーンもエルも当てられなかった、じゃあどうやって当てよう、と考えるのが同じ考え方をしていて兄弟だな、と思いました。
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