魔界祭が始まりました。
魔界祭一日目、先日出来たばかりの会場は満員の観客の熱気に包まれていた。
それもその筈、この日の予定は闘技大会でこの大陸に居るあらゆる猛者の戦いが見れる絶好の機会でもある、その為観客には戦いを生業とした暑苦しい冒険者や傭兵が大半を占めており、始まるのを今か今かと待っているからだ。
そんな観客を、中央にある個室の貴賓席居たアリエル達六人は、暑苦しそうで何かやだなぁと窓越しに見ていたのだが、その時アリエルはリップちゃんとの出会いも思い出していた、思えばあの出会いがあったから今の大変だけど楽しい日々があるんだよなぁと。
「これってサクラちゃんが出るんだよね? いつ出番なの?」
「ええっと…サクラちゃんは予選第三試合ね、10人のバトルロイヤルだからよく見えないかも知れないけど、あ、ちなみに私のおすすめは第一試合のツルリーノと第二試合のブリックリンね」
カリーナは今回も期待できるわねとか言いながら既にクスクス笑っていた。
それを見たアリエルはまたか…と呆れた顔をしていた。
「最近のサクラは弛んでいましたから、この大会は頑張って欲しいものです」
「うむ、魔王国の面子の為にも勝って欲しいものじゃ」
ローズとリップちゃんはソファーで優雅にお茶を飲みながらそう言った。
それを見たアリエルは昔なら出来るけど、今は精神的に無理だなと思いつつ屋台で買ってきた串焼き肉をムシャムシャ食べ始めた。
「…ころちゃんってほんと勿体ないよね、見た目は深窓の令嬢そのものなのに中身はころちゃんのまんまだし」
「昔からそう…残念美人を地でいってる…」
二人はアリエルをじーっと見ながらため息をついた。
そんなアリエルは今ローズをガン見していた。
何故かというと、最近ローズが歩く国家予算を好んで着ているからだ、最初の頃はあんなに嫌がっていたのに…今じゃ当たり前の様に着る所か自分でカスタムしたらしく、見た目が完全に成金の服だったのが、今じゃちょっとお洒落な服と化していた。
「ローズちゃんは元聖女なのにお洒落だよね」
「あぁ確かに、その元はアリエルが作ったダサい服も、恥ずかしくないように改良して、着れるまでになったものね。」
「そうですか? 私はあのままですと悪目立ちするので少し派手さを抑えただけなのですが」
ローズは自分の服を見ながらそう言うと、リップちゃんがローズの服をじーっと見ていた。
「妾の服も改良してもらおうかのう…」
「それは駄目だと思いますよ? 私は服飾に詳しいわけではないですし、専門の職人に頼む方が確実ですよ」
「ふむ…ローズがそう言うならそうした方が良さそうじゃな」
リップちゃんはローズの言葉であっさり引き下がり、窓から会場を見て、そろそろ始まると皆に教えると、全員が直ぐに観覧の為の椅子に座った。
司会が何かを言っているようだが、この部屋は防音の為何も聞こえない、なのでアリエルは早々に飽き、何か買ってくると言って部屋から出ていった。
「うーん…お肉はさっき食べたからなぁ…そう言えばフロックの店長さんがお店出すって言ってたよね、うん…甘いものが食べたいし行ってみよう」
そう決めたアリエルはフロックの屋台があると思われる、会場前に向かって歩きだした。
「あの、すみませんが今回の料理大会の審査員長の方ですよね?」
しかし後ろから呼び止められたアリエルは仕方なく相手にするために振り返ると、20代の仕立てのいい服を着た男が立っていた。
「そうだけど、何か用かな?」
「ええ、今回から審査員長が変更になったとの事でご挨拶と、此方をお納め頂こうと思いまして、ちなみに私はラ・ブシールというレストランでオーナーシェフをやらせて頂いているゴウと申します」
男はニヤッとした悪い笑顔をして箱を差し出してくる。
だがアリエルはそれを手で止め、冷たい目で男を睨んだ。
「悪いけどそれは受け取れないよ、賄賂になっちゃうからね、だから挨拶だけありがたく受け取っておくよ、じゃあね」
そう言ってろくに話も聞かずにさっさと歩いていってしまったアリエルをゴウは真っ赤な顔をしながら親の仇を見るような目で睨み付けていた。
実はこのゴウという男は、毎年開かれるこの大会で実力で勝負をした事がただの一度も無かった。
何故か、それは今までの審査員長に大量の金を渡して上位まで進ませて貰っていたのだ。
しかし今回、急に審査員長が変わったという情報が入り焦ったゴウは直ぐに審査員長になった小娘を金で取り込もうとしたが、あっさり失敗してしまった。
このままでは不味い、ゴウの料理のレベルははっきり言って予選落ちする程度のものしかない、しかしこの大会で予選落ちなんて結果になればラ・ブシールの経営が悪くなり最悪潰れる可能性もある。
そして崖っぷちに立たされたゴウは、アリエル相手には悪手としか言えない作戦を実行しようとその場を去った。
それから少し経ち、アリエルはフロックでいつも通りにお菓子を貰い、皆がいる個室に戻ってきていた。
現在はカリーナに絡まれ、ツルリーノの戦いを無理矢理聞かされていた、物凄くつまらない、それはツルリーノのハゲた頭での頭突きで三人程倒した後負けたという短すぎる話をカリーナが何度もしてくるからだ。
「で、第二試合はどうだったの?」
「あぁ、あの試合は決まるのが早かったのう、クロスとかいう男が五分くらいで決めおったよ」
「物凄くつまらなかったわね、あんなの見る価値もないわ」
第二試合の内容が余程気に食わなかったのか、カリーナは眉を寄せ吐き捨てるようにクロスの悪口を言い出した。
「じゃあ次はサクラちゃんなんだ」
「そうですね、万が一予選で負けるような事があればお尻が腫れ上がるまで叩かないといけませんね」
ローズは妖艶か笑顔をしながらそう言った。
それを見てしまった五人は、これが元聖女なの? とドン引きしていた。
そして、第三試合が開始された瞬間、サクラが高速で動きながら強化された腕力で手当たり次第に相手を殴り、全員をステージ外に吹き飛ばして開始二分も経たずに終了した。
「サクラちゃんは間違いなくバーサーカーのサー●●ントだよね、それでローズちゃんがイ●ヤ」
「「ぐふっ!」」
アリエルがヘラヘラしながらそう言うと、カリーナと星歌が吹き出した。
「ま…まぁあれを見た後にそう言われると否定できないわね」
「似てない…似てないけど…なんとなく想像できるのが…笑える…」
「でしょ、剣と魔法と槍と短剣相手に無双するサクラちゃん…これが聖●戦争なら今頃バーサーカーの勝ちで終わってるよ」
三人はそんなふざけたことを言いながらケラケラ笑っており、ローズとリップちゃんは何言って笑ってるんだ? と怪訝な顔をし、水月は呆れた顔をして三人を見ていた。
そしてその後の第四試合が終わると、一旦昼休憩を挟み、本戦が始まった。
一回戦はゴールド対クロスだった。
ゴールドは名前の通り全身を金の鎧で包み、金の剣と盾を両手に持っている。
一方クロスは軽そうな革の鎧を着て剣を持っている。
「あのクロスとかいうのは要らないから早く負けて欲しいわね」
「でもあのゴールドとかいうの大丈夫なの? 何かイロモノな気がするんだけど」
アリエルがじとーっとした目でゴールドを見ていると、試合が開始された。
開始直後、ゴールドが盾を前に出してクロスに突進するが避けられ、カウンターで背中に一撃受けたが貫通はしておらず無傷だった。
しかしアリエルはある異変に気付いた。
「ねぇ、あれさ…メッキじゃない? 剣で叩かれた所が剥がれて鉄っぽい灰色が見えるんだけど」
「いやこの大会でそんな戦略的に意味の無いコーティングなんかせんじゃろう……はぁ!? た、確かにあれはメッキじゃな…」
リップちゃんはアリエルの言葉を聞き、そんな事をするバカがいるかとアリエルを小馬鹿にしてからゴールドを見たリップちゃんは、目を見開いて驚き、コロンと椅子から落ちた。
こんなことをしている間に試合は進み、試合前は光り輝いていたゴールドはボロボロな鉄の塊になっていた。
クロスは未だにゴールドに猛攻撃しており、リップちゃんがこれは勝負あったなと言うと同時にゴールドが倒れた。
「はっ、あの見せ付けるような戦い方…腹立つわ」
「うん、それに試合が終わると同時に精神干渉系の魔法を使い始めたよ、相手にじゃなく観客に」
アリエルは目を懐かしの桃色に光らせながら真剣な顔で言った。
「観客に? 何故試合後にそんな事をするのじゃ」
「理由は知らないけど、闇と風の精霊が居るところを見るに発動してるのは魅了だと思う」
「魅了じゃと? しかし妾達には効いておらぬが」
「やり始めた時に私が辞めさせたからね、今は発動すらしてないよ」
アリエル達の鋭い目線の先には、周りをキョロキョロ見回し不思議そうな顔をしているクロスがいた。
「まぁいいよ、次また下らない魔法を使ったら痛い目見せるから」
「うむ、魔法関連はアリエルに任せておけば問題なかろう」
そう言ってこの話は終わり、本戦第二試合のサクラ対カムイの戦いを見ることにした。
第二試合はサクラが圧倒していた、開始直後に姿が見えなくなる程のスピードでカムイを撹乱し、四方八方から強力な打撃を食らわせ続けたのだ。
その結果五分も経たずにカムイは気絶し、第二試合は終了した。
そして決勝戦、サクラ対クロスの戦いが幕を開けた。
開始直後、サクラは今まで通りスピードで撹乱を始め、クロスに次々と打撃を食らわせていた。
一方クロスはかなり焦っていた、クロスは開始直後にサクラに固有能力の魅了の邪眼を掛けようとしたが、何故か発動せずになすすべもなく殴られたのだ。
それでもクロスは諦めずに剣を振りながら魅了の邪眼を発動し続けるが効果が無い、しかし絶対に諦める訳にはいかない、必ずこの大会を優勝し、表彰時に魔王に魅了を掛けて服従させ自分が魔王になるからだ。
そんな事を考えながら戦っていると、突然クロスに異変が起こった…。
右目の邪眼が潰れたのだ、クロスは予想だにしない事態に、血が止めどなく流れる右目を押さえ、残った左目に意識を集中させるが、その時霞む視界に写ったのは、迫り来るサクラの拳だった……。
こうして、闘技大会はサクラの優勝で幕を閉じた。
「あの人の目を潰したのってころちゃん?」
「ううん私じゃないよ、使いすぎでオーバーヒートでもしたんじゃない? 」
「ふむ…使用限界か、まぁ自分で行動した結果じゃから仕方ないのじゃ」
「そうだね、まぁどうでもいいか…それより次は何かな?」
アリエルはにこにこして周りを見ながら聞いた。
「この後は三位決定戦をやったあと表彰と閉会、それから二時間後に宝石の展覧会をやるみたいよ」
「そっか、じゃあ皆で一緒に見に行こうよ」
アリエル達は予定表を見ながら今後の予定を話しつつ、大会が終わるまでお茶会をしていた。




