神聖皇国の戦艦との戦いです
あれからアリエル達は、港町シートレインのすぐ横にある魔王軍軍港に居た。
何故か? それはリリスが送った後、リップちゃんは謁見の間に転移すると、何故かケルベロスミニが居た事に驚き、即寝室に戻りアリエルを説教したのだ。
そしてその後、軍港から、深淵海域を乗り越え1隻の戦艦がシートレイン沖に出現したと緊急通信を受け、リップちゃんご一行は急いで軍港に転移してきたという訳だった。
そして、リップちゃんは総指揮、ローズは補佐、アリエルは魔砲撃隊の指揮官、カリーナはアリエルの補佐という配置となり、各自持ち場に着いていた。
「アリエル指揮官、敵の様子はどうですか?」
「うーん…やっぱり乗ってるのは人間だねぇ、それも杖持ってるのが多いからある程度近付いたら撃ってくるかも 」
アリエルはカリーナの横でエルフの魔法師から借りた双眼鏡で船を観察し、その兵士と話をしていた。
すると……見たことのあるものを見つけてしまい、アリエルから表情が消えた。
「カリーナ、あの船に奴が居る……」
「奴って誰よ」
「私達の宿敵……勇者タケシだよ……」
アリエルの言葉に、カリーナは目を剥き、その後眉を寄せ歴戦の戦士のようなオーラを出し始めた。
「なるほどね……私達はこれまで…奴に随分苦しめられてきたわよね……ここで殺りましょう、これは聖戦よ!」
「総員配置に着いて! これから敵戦艦を砲撃するよ!」
「了解しました! 総員、戦闘配置!」
アリエルが指揮を出すと、流石は軍と言うべきか、物凄い早さで、移動を始めあっという間に戦闘配置になった。
そしてアリエルはエルフに拡声魔法を掛けて貰い、敵に警告をし始めた。
『此方は魔王軍魔砲撃隊です、今すぐにこの海域から立ち去りなさい、もしこれ以上接近してくる場合は敵と見なし、砲撃を開始します』
アリエルがそう言うと、戦艦からも声が聞こえてきた。
『此方はアルゴス神聖皇国、戦艦セイントだ、我々はそちらに居る精霊の愛し子であるアリエル・イージス元侯爵令嬢の引き渡しを要求する、一刻以内に応じない場合は、攻撃をする、それと此方には勇者が多数乗っている、それを覚えておけ』
『そんな人は居ないから、さっさと帰りなさい、光の加護も無い名前だけ神聖皇国』
アリエルが敵を挑発し始めると、リップちゃんとローズが魔砲撃隊の方に走ってきていた。
そしてローズは走りながらケラケラ笑っていた。
リップちゃんは敵を挑発しているアリエルの代わりに、総指揮として指揮を取っている。
「敵の要求は絶対に飲まぬ、これは総指揮である妾の決定だ、攻撃準備を始めよ」
『下等な種族が我等を侮辱するか、いいだろう我等の圧倒的な力を貴様らに見せ付け後悔させてやろう! 総員、攻撃準備!』
敵はそう言うと、此方に船の側面を向け始める。
そしてアルゴス神聖皇国プラス勇者と魔王国との戦いが幕を開けた。
「敵の魔法は私が全部防ぐから皆安心して攻撃してね! よーし行くよー! 総員砲撃準備!……撃てー!」
アリエルの号令と共に、魔砲部隊100人の魔法が一斉に敵に向かって撃ち出され、海上に無数の爆発が起こった。
「……敵艦に防御されました! しかし何故か戦闘不能の者が多数居る様子で混乱しています!」
「異世界人でしょう、所詮は温室育ちのお坊っちゃまお嬢様って所ね、こっちが本気で殺しにかかっているからビビったんでしょう」
双眼鏡を持ったエルフの言葉に、カリーナは呆れたようにそう言った。
それを聞いたアリエルはヘラヘラしながら話し始めた。
「よし!じゃあ防御を破壊するね《我は望む、全てを貫く光の槍》シャイニングランス!」
アリエルが放った巨大な光の槍は、敵の障壁を易々と貫き破壊し、敵の戦艦の側面に風穴を開けた。
すると、ようやく敵からの初撃が撃ち出された、しかし魔砲撃隊が撃った数に比べると、遥かに数が少ない為、アリエルの張った障壁に全て防御されてしまった。
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「何故魔王軍の奴等が光魔法を使ってくるのだ! くそ! 勇者達はどうした!」
神聖騎士団第一部隊隊長であり、教皇の息子であるレオンはこめかみに青筋を立て、顔を真っ赤にしながら怒鳴り散らしていた。
それも、自分達が一番に深淵海域を抜けられた事で、後は常闇大陸に居る精霊の愛し子を、下等種族である魔族を脅し、引き渡させれば終わりという所まできており、その後自分達は皇国に凱旋し、この功績で神聖騎士団長、いや、次期教皇の座をも貰うという予定だった。
しかし、自分達の要求は飲まれず、先制攻撃をされ、勇者の半分が、死の恐怖に呑まれ、気絶失禁などをして使い物にならなくなった。
さらに悪い事に、奴等は光魔法で追撃をしてきて、防御結界が破壊されてしまい、此方の攻撃も全てを防御されてしまって完全に劣勢に追い込まれてしまった。
「勇者は駄目です! 震えていて使い物になりません!」
「なんだと! くそ! 攻撃を続けて奴等を殲滅しろ! 所詮下等種族だ、我々には勝てん!」
「了解しました!」
そう言って彼らはレオンの決定に従い攻撃を続けるが、結局船が沈むまで一発も魔族軍にダメージを与える事は出来なかった。
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一方魔族軍では、魔砲撃隊の一撃で火の手が上がり、沈み行く戦艦を見物していたが……エルフがあるものを見つけた。
「人間が一人、此方に向かって飛んできます!」
そう言った途端、ドンッという音と共に、一人の人間が軍港に落ちてきた。
その人間は太りすぎでミニスカートになっている青い服、ピッチピチの黄色いタイツに無惨にハゲ散らかした頭の油ギッシュの中年だった。
「ふぅ……お前らが魔族だな、精霊の愛し子を渡せ」
「ちっ! 死ね! 《我は望む、全てを貫く光の槍》シャイニングランス!」
アリエルはその男を見て、顔を青くして舌打ちをした後すぐに攻撃を開始し、光の槍を勇者に撃ち出した。
しかし、アリエルの光の槍は勇者の雷の剣技で弾かれてしまった。
そして勇者はアリエル達の方に突撃し、アリエルに向かって剣を横に振る。
その攻撃に、アリエルは抜いていた剣で間一髪防ぐが、そのまま振り抜かれて飛ばされ、地面に落ちゴロゴロ転がった。
「うぅ、 いててて」
「大丈夫か、アリエル」
「今回復しますね」
リップちゃんにローズはアリエルに駆け寄り、ローズは回復魔法をアリエルにかける。
そしてアリエルは立ち上がり、勇者を足止めしているカリーナに合流し、これで終わらせると詠唱を始めた。
「《我は望む、死を司る死神の鎌を》デスサイズ!」
「同時に行くわよ!」
アリエルは漆黒の斬撃をいくつもを飛ばし、カリーナはアリエルに合わせて黒い槍を何発も勇者に撃ち出した。
勇者はいくつもの斬撃と槍を弾くが、いくつかの斬撃と槍を食らっていた。
しかしダメージを受けながらも勇者はニヤッと気持ち悪い笑みを浮かべ喋り始めた。
「ふっ…中々やるじゃないか、だがこの程度で.……ぐぅっ.……」
勇者は喋っている途中で急に辛そうになりその場に倒れた。
「もう終わりだよ勇者、私の魔法には死の呪いが掛かってたからね、やっと……やっとだよ……やっと私達はお前から解放されるよ」
アリエルが冷たい目をしながら倒れこむ勇者に近づきそう言うと、勇者は何故か笑い始めた。
「いや……まだ終わらんさ…クク、女、その縞パン似合っているぞ、リレ●ト!」
「な! 死ね!」
勇者の視姦に、アリエルは殺すつもりで魔力を撃ち出すが、もう逃げられていた。
アリエルは悔しさのあまりギリッと奥歯を噛み締める。
「……逃げられたわね」
「呪いで死んでてくれると良いけど……私が油断何かしたから……あぁぁぁぁああぁぁ!! もおぉぉぉぉぉ!! 次は絶対に殺してやる!!」
勇者を仕留め損なったことにアリエルは酷く悔しがった。
それはもう地団駄を踏みながら叫ぶくらいに。
リップちゃんとローズは上陸したのがあの勇者だけとは限らなかった為、戦闘に参加しなかった事をアリエルとカリーナに謝っていた。
そして事後処理は軍に任せ、アリエル達は魔王城へ帰って行った。
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アルゴス神聖皇国、シャイン大神殿では、常闇大陸から死にかけで帰ってきた勇者タケシの治療を行っていた。
「何とか治せたけど、貴方もう長く生きられないわよ」
「そうなのか?」
「ええ、呪いが強すぎてもうギリギリだったわ、長くて二年、短くて2ヶ月って所ね」
「そうか……これはトータルで俺の負けだな……クク、まぁ最後に悔しい思いをさせてやったし良しとしよう……まぁ俺の戦いはもう終わりだな…後は余生を楽しませて貰うとするか…」
そう言った勇者タケシの顔は憑き物が落ちたように晴れやかだった。
そしてもう一人、勇者タケシと共に帰還していた者が居た。
大神殿、教皇の間、もう一人の帰還者レオンは、教皇に先程の戦いを報告していた。
「父上、アリエル・イージスは魔族に協力している逆賊だ! あの女は捕縛では無く抹殺するべきだと進言する!」
「だとしても、彼女の力が絶対に必要ですから、生きて捕らえなくてはならないのですよ、それも我等神聖皇国がね、それに貴方も彼女が欲しいと言っていたではないですか」
教皇の言葉にレオンはうっという顔をした。
「確かにあの女は欲しい、あれ程の美女だし、持っているだけで羨望を受けるだろうと思ったからな、しかし誰が捕まえるのだ? 我々の船を潰し、序列4位の勇者タケシを戦闘不能にしたんだぞ、奴等魔族は!」
「まだ上に三人居るじゃないですか、彼等を使えばいい」
「なっ!? サクラは俺の女だぞ! あれを危険な場所に行かせるなんて、ありえん!」
「ははは、サクラは貴方が一方的に言い寄っているだけでしょう? 彼女は貴方の事なんて眼中にも無いと思いますよ?」
ニコニコ微笑みを浮かべている教皇の言葉に、レオンは唖然とした顔をしていた。
「とにかく貴方の意見など関係無いのですよ、全ての決定は私が決めます、なのでこれはもう決定事項ですよ、では貴方は戻って宜しい」
教皇はそう言ってレオンを追い出し、何を考えてるか分からない微笑みを浮かべながら窓の外を見ていた。
そしてこの日、勇者序列3位、サクラ・マイハマが行方を眩ませた。
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戦いから三日後、魔王城では、アリエルがギャーギャー煩かった為、リップちゃんが少し気晴らしでもするのじゃ、と言ってアリエルを海岸に送って、2時間後に迎えに来ると言って、帰ってしまった。
一人残されたアリエルは、仕方なくカニを捕まえたり、砂で山を作ったりした後、砂浜をサクサク歩いていると、少し遠目に何かが見えた。
「むむ、あれは.……あ! 人だ! 大変だ大変だ!」
アリエルは急いで駆け寄ると、その人を水の届かない場所まで引き摺り、胸に耳を当てて生きてるのを確認してほっと息をつくと、今度はめんどくさそうな顔をした。
「はぁ……この人異世界人だよね…殺した方がいいんだろうけど、別に何かされた訳じゃないし女の子だしなぁ…はぁ……」
寝ている女の子は、黒髪をツーサイドアップといわれる髪型にし、小袖を来ていた。
アリエルはがっくり肩を落とすと、焚き火を始め、女の子を自分の予備の服に着替えさせると、その場に座って目覚めるのを待つことにした。
そして少しすると、女の子が目を覚ました。
「ん…んん…あれ…ボクは……」
「起きた? どっか痛かったりしない?」
アリエルは起きた女の子を少し見ると、水と干し肉を差し出しながら体の調子を聞いた。
「あ……ありがと…えっと貴女は?」
「私はアリエル、貴女も知ってるんじゃないかな? そっちでは精霊の愛し子って言われてるんだよ」
「えっ.……貴女が?」
女の子は内心怯えていた、目の前のアリエルは話し方も柔らかく、顔を微笑んでいるが、左目が半分銀で半分紫という意味不明な目をしているし、凍てつくような目で見ていたからだ。
「どうしたの? あ、そうだ.……貴女のお名前聞かせて貰えるかな? 異世界から来た勇者さん.……」
女の子の脳内で盛大に警笛を鳴らしていた、アリエルはヤバい、この場で余計な事を言ったら抵抗する間も無く確実に殺されると、だから女の子は考える、どうやったら生き延びれるかを。
「ボクは…サクラ・マイハマ、神聖皇国に道具のように使われるのが嫌で逃げてきました.……」
「ふーん…まぁ嘘はついてないようだね、 それでサクラちゃんはこれからどうするの? ここに残って私達と過ごす? それとも…私の情報を持ち帰って皇国で今まで通りに過ごすのかな.……?」
サクラは背筋がゾクッとした、さっきまでとは比較にならない冷たい目をしている、アリエルがサクラを見る目は…人を見る目をしていなかった。
「ボクはもうあんな人達が居るところなんかに所に戻るつもりは無い、ずっとおかしいと思ってた…何で皆はこの世界に来て喜んでるの? ボクはこんな世界に来たくなんてなかった! 勝手に連れてこられて迷惑してるんだ!.…だからそんな目は止めてよ…怖いよぉ……」
サクラはそう言うと泣き出してしまった。
アリエルはヤバッ! やり過ぎたと思い、サクラを撫でて暫く謝っていた。
「ごめんねぇ、ほら私って狙われてるからさ初対面の人に油断は出来ないんだよね、あぁ…泣かないで、仲間には私からちゃんと言うからさ」
「うん.……」
そしてサクラは泣きつかれて寝てしまった。
「……困ったなぁ……異世界人が全員神殿で襲ってきた奴みたいに嫌な奴だけだったらこんな気持ちにならなくて済むのになぁ……はぁ…何とかならないのかな?…ねぇお母さん…」
サクラが泣きつかれて寝てしまった後、アリエルはこの日も真ん丸の月が昇る星空を見ながら、ぽつりぽつりと呟いていた。




